第5話 魔物に全力で追われてるのに、交通ルール遵守とか正気か?
宇宙船の遺跡から逃げ出すだけなら?
難しくない。
四十キロはありそうな
骨付き冷凍肉ブロックを背負って
宇宙船の遺跡から逃げ出す?
かなり難しい。
その冷凍肉ブロックを背負ったまま
宇宙船の遺跡から脱出し、
しかも途中で手足を折らせたり
頭を打たせたりせずに運ぶ?
超がつくほど難しい。
デレオはカシヤの遺体を背負い、
息を切らしながら遺跡を飛び出した。
血の匂いを嗅ぎつけて群がってきた
魔物の群れを振り切り、
遺跡の外に停めておいたバイクに飛び乗る。
「ガチャッ!」
生身の男がスロットルをひねりきる。
「ブロロロロ……ブォン!」
胸には、生まれたばかりの小さな布袋。
後ろのシートには、
「氷山美人」を一人背負っている。
「ブォン!」
デレオは砂煙を上げながら駆け出した。
だが、あいつらも全員飛び出してきた!
「スコラリス邸を目的地に設定!」
デレオはバイクのナビに向かって声を張る。
スコラリス家は相当に有名な名家だ。
ナビが住所を知らないはずがない。
「カシヤ嬢、
あんたの死は、
こっちにとっちゃ大助かりだよ。」
デレオは背中の遺体に向かって、
皮肉っぽく話しかける。
彼は慎重にバックミラーをにらんだ。
後方の魔物の群れの中には、
執拗に遺跡の外まで追って来る
連中も少なくない。
「さーて、アクセル全開といきますか!」
デレオは、
興味津々と顔を出してきた小さな布袋
――アレカ――を、
自分のポケットの中に押し込んだ。
エンジンはけたたましく唸り、
デレオは首都の防衛検問所まで、
一度もアクセルを緩めることなく突っ走った。
「ピーッ!」
鋭い警告音が鳴り響く。
「停車して検査を受けなさい!」
交通管制を担当している詰所の衛兵が
怒鳴る。
「悪いが、それは無理だ!」
デレオは歯を食いしばり、
目をつぶって検問所に突っ込んだ。
バリケードが砕け散り、
そのすぐ後ろで、
魔物と衛兵がごちゃ混ぜになって衝突する。
数人の衛兵が倒れた地面から転がり起き、
そのまま追ってきた魔物と交戦を始める。
応援要請の声が飛び交い、
その一方で何名かはデレオの追跡に回った。
「ハハ!
魔物の咆哮がサイレンに変わったな。
お嬢さん、あんたの身柄で、
罰金の何割かは帳消しにしてもらいたいもんだ!」
『前方二百メートルで目的地に到着します』
顔を上げると、
ちょうど黒塗りの大型リムジンが一台、
目的地の大邸宅へ
曲がり込もうとしているところだった。
デレオは左手で前輪ブレーキをロックし、
右手のスロットルは最後まで緩めない。
キキキキキキ――!
バイクの後輪が路面に深い黒い軌跡を
残しながら大きくスライドし、
デレオは黒塗りの車を華麗に追い抜いて、
そのままスコラリス家の門をくぐり抜けた。
焦げたゴムの匂いがまだ残るなか、
デレオはカシヤの遺体を背負ったまま
バイクから飛び降りる。
リムジンからは、
いかにも品のある老紳士が
ゆっくりと降り立った。
『この人で間違いないな』
デレオはそう見当をつける。
彼は老紳士の方へ歩み寄った。
「若者よ、何か御用かな?」
老人が軽く手を振ると、
後ろから追いついてきた
交通管制の衛兵たちは全員止まりました。
「依頼主、サリクス・スコラリス殿で
お間違いありませんか?」
デレオは情報端末を取り出し、
長々と並んだ依頼一覧から、
目の前の老人と同じ名前を探し当てる。
「そうだ、私だ。」
老人は答え、その瞳には、
これから訪れる悲劇を
すでに悟っているかのような哀しみが浮かんでいた。
「お孫さんをお連れしました。
こちらにサインをお願いします。」
デレオは冒険者ギルドの依頼契約書を一枚取り出し、
老人に差し出す。
デレオは老人の目の前で、
少女の遺体をそっと地面に降ろした。
乱暴に扱えば、
今にも壊れそうな老人の心まで
粉々にしてしまいそうで、
縄を解く手つきも自然と優しくなる。
「カシヤ……
お前の未来まで守りきれないところだったぞ。」
皺だらけの顔に、
老いた涙がひとすじ、
またひとすじと筋を刻んでいく。
サリクスが凍りついたカシヤの頬を
そっと撫でる姿を見て、
デレオも思わず鼻をこすった。
アレカはぴょんと跳ねて
老人の足元に転がり、
そっと身体を擦り寄せて、
少しでも悲しみをやわらげようとしている。
「おじいさん、急いだ方がいいですよ。
解凍されてから、
もうすぐ二時間になります。
復活魔法の成功率は、
刻一刻と下がっていきます。」
「その通りだ、モーリス!
すぐにお嬢様を教会へ連れて行け!」
サリクスはすぐさま執事と使用人たちに
指示を飛ばした。
「すまないが、
今は一刻を争う状況でな。
正式にもてなす余裕がない。」
サリクスはデレオに向かって、
ほんの少しだけ腰をかがめる。
「俺のことはいいですから。
早く行ってください。」
サリクスはそれ以上何も言わず、
ただ腰から身につけていた
銀のダガーを外し、
デレオへ差し出した。
「とっさに渡せるまともな礼といえば、
これくらいしかない。
私はこれで、
何度も暗殺の危機を免れてきた。
迷宮を探るお前にとっては、
命の警報機くらいにはなってくれるだろう。」
そう言い残すと、
老サリクスは孫娘の復活の手配に
向き直った。
「そうだ、
一つ頼みがあるんですが。
その辺りの交通管制の衛兵たちを、
なんとかしてもらえませんか?」
デレオが大声で呼びかけると、
サリクスは振り向き、
静かに微笑んだ。
デレオは急に不安になった。
もし今回の任務の稼ぎが、
あの罰金の額と相殺されてしまったら――
今月の家賃は、
いったいどうすればいいんだ?
———大したことではないこと———
生体アイテム袋のスキル
初生:インプリント効果
Lv2 收納素材
Lv5 収納容量倍增
Lv7 保存期限延長
Lv17 分解素材
Lv31 収納空間の事前処理
Lv37 重組素材
Lv43 収納無制限
Lv47 保存期間無制限




