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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

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第50話 痛いの痛いの、飛んでけ。……さあ、ママが生き返らせてあげる。

アビスウズは血を吐きながら、

虚ろな目でウンブラ婆ちゃんを見上げていた。


自分の心臓から骸骨騎士が剣を引き抜くその瞬間を、

信じられないという顔で見つめる。


やがて、アビスウズの体温はすっと消え、

呼吸も止まった。


 


ウンブラ婆ちゃんは小悪魔を一体召喚する。


「ちゃんと死に切ったか見ておいで」


小悪魔は

トコトコとアビスウズのそばへ行き、

脈を取ると、

にやりと笑ってコクコクとうなずいた。


 


「久しぶりに顔見せに来たと思ったら、

いきなり実のひ孫殺しの現場を

見せつけられるとはねぇ、

ウンブラ婆ちゃん」


デレオは両腕を組み、

わざとらしく大げさな口調で言った。


 


婆ちゃんは盛大にため息をつき、

白目をむいてから、

ふんと鼻を鳴らし、杖を軽く一振りした。


「死ぬって言ったって、

そう簡単には死なせないよ」


 


そう言うと同時に、

母屋のほうの扉がぎいっと開き、


影の中から

二体のスケルトンがよろよろと姿を現した。


骨ばった指がカタカタと鳴り、

一体は手術用メスを、

もう一体は羊腸の縫合糸をぶら下げている。


 

ウンブラ婆ちゃんは腰をかがめて、

アビスウズの胸の傷口を念入りに調べた。


指先で傷の縁をトントンとつつき、

切り口がきれいなことを確認すると、

顎をしゃくってスケルトンたちに合図を送る。


 


従僕の骸骨たちは、

手際よく心臓を元の位置に戻し、

もう一体が驚くほど繊細な手つきで、

裂けた血管や筋肉を縫合していった。


 

縫い終えると、

ウンブラ婆ちゃんがそっと杖を振り、

二体のスケルトンは静かに下がる。


 

そのとき、少し離れた農家の木戸が

きしむ音を立てて開き、

一組の夫婦がなんともいえない顔で出てきた。


男はゆっくりと歩み寄り、

アビスウズとウンブラ婆ちゃんの顔を交互に見てから、

深くため息をつく。


「大おばあ様……

またアビスウズを殺してしまわれたんですか……」


 

ウンブラ婆ちゃんの口元がわずかに吊り上がり、

どこか悪戯っぽい得意げな響きが声ににじむ。


「だってさ、この子、ことあるごとに

戦場に行きたい戦場に行きたいってうるさいんだよ。


だったら先に何回か死ぬ練習をして、

現実をよーーーく知っておかないとねぇ」


 


ウンブラ婆ちゃんは軽く咳払いをすると、

アビスウズの横にどっかと腰を下ろし、

懐から暗赤色の薬瓶を一本取り出した。


カラン、と小さく音を立てながら瓶を振り、

薬液を傷口の上にぽた、

ぽたと垂らしていく。


「これで、跡は残らないよ」


そう小さくつぶやいてから、

さっきの夫婦のほうを振り返る。


「さ、ダヤサクラ。

そろそろ娘を起こしてやりな」



アビスウズの母親は苦笑してうなずき、

静かに復活の祈りを唱え始めた。


『偉大なる大錬金術師メンデレーフよ、

 どうかアビスウズに鉄と水を与え、

失われた血と命を補い給え。


 慈悲深き生命の伝道師メンデルよ、

 その御業によっ

てアビスウズの心筋を再び生み出し給え。


 夢を掘り霊媒フロイトよ、

 アビスウズの魂をこの地に留め置き給え。


 電磁の機工士マクスウェルよ、

 その脈動をもってアビスウズの心臓に

再び火を灯したまえ――』


 


長い祈りの言葉と薬液が染み込んでいくにつれ、

アビスウズの蒼白だった胸は、

かすかに上下を始める。


心臓のあたりに

青白い電光がぱちぱちと走り、

指先がびくりと震えた。


額にはじんわりと冷たい汗が浮かび上がる。



そして、どすん、

と内側から

何かが弾けるような感覚とともに、


アビスウズは大きく息を吸い込み、

目を見開いた。


胸元の傷は跡形もなく消え、

うっすらとした桜色だけが、

そこに残っている。


 


アビスウズは

ウンブラ婆ちゃんと母親を見上げ、

かすれた声で叫んだ。


「この……クソババァ、

またこんな思いっきりやりやがって!」



老婆はにやりと笑い、肩をぽんと叩く。


「アンタ、

自分で“死ぬのなんか怖くない”って

言ってたじゃないかい」


 

それから、

そばで震えている豚をちらりと見やり、

杖の先でちょん、と指す。


「メンデル、フロイト。

こいつも元に戻しておやり」


 


エグゼキューターに

捧げる祈りの言葉の長さこそが、

術者の腕前の違いを示すものだ。


 

ウンブラ婆ちゃんが指を一つ鳴らすと、

その子豚の体から眩い光が溢れ、

ゆっくりと人の姿へと戻っていく。


制服を着たバス運転手がそこに座り込んでいた。


真っ青な顔で、

さっきまで豚だったとはとても思えないほど震えている。


 


ウンブラはひらひらと手を振り、

アビスウズに言う。


「わたしのスケルトナイトを倒せれば、

それで好きなところへ行きな。

要求はそれだけさ」


 


アビスウズは悔しそうに顔をしかめる。


「そんなの、

この世の誰にも無理に決まってるじゃない!」


 

ウンブラ婆ちゃんは鼻で笑った。


「忘れるんじゃないよ。

あたしはアンタが軍に

行くこと自体には反対していない。


ただね――

まずはこのわたしから卒業してもらわないと。


アンタみたいな腕じゃ、

戦場に出たって仲間の足を引っ張るだけさ。


西方三島で帝国軍を

食い止めてる兵隊たちは、

あれでもう手一杯なんだよ。


そこに“戦場ごっこがしたいおチビちゃん”

を送り込むなんて、

わたしにはできないね」


 


そう言うと、

ウンブラ婆ちゃんは

アビスウズの両親を顎で指し示す。


二人は素直にうなずき、

文句ばかり言っている曾孫娘を支えながら、

母屋へと連れて戻っていった。


 


そのあと婆ちゃんは、

まだ腰を抜かしている運転手の肩を杖でこつんと叩く。


「この時間じゃもう帰れないだろうさ。

ダヤサクラに言って、

今夜泊まる部屋を用意してもらいな」


 


運転手は半泣きで立ち上がると、

転げるようにして母屋のほうへ駆けていった。


 


そしてようやく、

ウンブラはデレオたち三人へと視線を向ける。


「さて。

こんな時間にここへ来たってことは――

観光客ってわけじゃないんだろう?」

———大したことではないこと———


 

魔法行使の三要素


一、魔法エグゼキューターの名を正しく呼ぶこと。

二、エグゼキューターに自分の願いを伝えること。できるかぎり丁重に、敬虔に。

三、魔力と体力を消費すること。


 


経験豊富な術者の中には、

二番目の過程を「心の中で念じるだけ」で済ませられる者もいる。


だが、ほとんどの人間にとっては、

実際に言葉にして自分の声を耳で聞くという行為こそが、

望む効果を正確に引き出すために省いてはならない大事なステップなのだ。


 


七人の魔法エグゼキューターは、

それぞれ次の領域を司っている。


力学――力の求道者ニュートン

光学――幻術師の眼ハサン

物質――大錬金術師メンデレーフ

生物――生命の伝道師メンデル

熱力――氷と炎の賢者ケルヴィン

精神――夢を掘り霊媒フロイト

電磁――電磁の機工士マクスウェル

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