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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

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第44話 海濱のネクロサウルス—— 戦争に餌付けされた恐怖

彼らは少し、

方向感覚を失っていた。


さっきゾンビ狩りに

夢中になりすぎたせいだろう。

 


三人は墓地の奥へ続く小径を進んでいく。

道はだんだんと曲がりくねり、


重々しい墓石のあいだを

縫うように延びる小道が、

彼らをどんどん脇道へと誘い込む。


 


空気は次第に湿り気を帯び、

足元の土はふかふかと柔らかくなり、


ところどころに小さな

貝殻の破片が混ざり始めた。


 


この時点でも、

誰もそれが「海が近い」

という徴候だとは気づいていなかった。


 


彼らはカシヤの音楽やスキルについてあれこれ話しながら歩き、

心も徐々にゆるみ、

足取りも適当になっていく。


 

やがて――


目の前の林が急にまばらになり、

陽光がぱっと開けた土地一面に降りそそぐ。


 

遠くから、

低く唸るような波の音が聞こえてきた。


 

その先に広がっていたのは、

先ほどまでとはまるで違う光景だった。


墓標は乱雑に点在し、

地形はゆるやかに海に向かって傾斜している。


青く広がる空と、

白く砕ける波が遠くに見え、

互いに溶け合っていた。


 

彼らはそこでようやく悟る。


自分たちが足を踏み入れてしまった場所が、

本来なら立ち入るべきではない――

海辺の墓地だということを。


 

午後。


むっとする暑さと、

海風の涼しさが、

光とともに入れ替わる。


 

あたりには潮の匂いと腐臭が入り混じり、

ときおり濃い死臭が風に乗って流れてくる。


 

潮の流れの関係で、

この一帯には遺体が漂着しやすい。


だがここは太古墓園の最深部。

遺体の回収に来られる人間はほとんどいない。


 

「相場とかは詳しくないけどさ……

今日集めたゾンビの足、

さすがに量が多すぎじゃない?」


アペスが不安げに言う。


 


「多分、海流の向こう側で、

帝国と民国の国境が

きな臭くなってるからだろうね。」


デレオは淡々と答えた。

 


「やっぱり……

だから軍服着たゾンビも混ざってたんだ。」


カシヤの声には、かすかな哀しみが滲む。


 

この場所には、

ありとあらゆるスカベンジャーが集まっていた。


空にはハゲタカが輪を描き、


地面では、

ウジに覆われた死体にハエが群がっている。


甲虫たちは死肉の陰でせわしなく這い回っていた。


 

グールの影は猫背に歪み、

油断したときに限って、

墓石の影からひょいと顔を出す。


 

このスカベンジャーたちは、

夜になるまで待つつもりだ。


この三人もまた、

やがて自分たちの餌となる――その時を。


 

繰り返し吹きつける海風でも、

墓地の外れにただよう濃厚な腐臭と霧は、

なかなか散ってはくれない。


 

そろそろ引き返して、

別ルートを探し直した方がいいか――


そう考え始めた矢先、

海辺の墓地で最悪のスカベンジャーが姿を現した。


 

海光を背に、やつはゆっくりと姿を現す。


 

死肉をあさる恐竜ネクロサウルス――

食屍恐龍の島嶼特化型亜種。


 

巨大な体躯は、

斑にくすんだ灰黒の鱗と、

こびりついて取れないフジツボに覆われている。


二本の脚は逞しく、

湿った砂地を踏みしめるたび、

鈍い衝撃音が響いた。


 

尾は巨大なハンマーのようにゆらりと振られ、


その一振りごとに、

周囲の小型スカベンジャーたちが

蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


 

幅広い頭。

突き出た下顎。


乱杭歯のように並んだ歯は、

骨を削るノコギリそのものだ。


 

悪臭を放つ唾液が歯の隙間から垂れ落ち、

地面に落ちた瞬間、

じゅうっと小さな腐食音を立てる。


 

冷たい緑色の瞳には、

飢えと残忍さの光が宿り、

陽光を受けてぎらぎらと輝いていた。


 

その低い咆哮は、

空気中に漂う腐臭をさらに濃くする。


 

この墓場の真の支配者。


リッチであろうと、亡霊騎士であろうと、

ネクロサウルスにとっては、

ただの餌に過ぎない。


 

「逃げるか?」


デレオは声を潜め、

隣の二人に問いかけた。


「ネクロサウルスに気づかれる前に。」


彼は親指で背後を指す。

 


スカベンジャー系の魔物は、

たいてい嗅覚こそ鋭いが、

聴覚はそこまででもない。


足もさほど速くない。


だからこそ、

ネクロサウルスに対して最善の行動は――

逃げることだ。


 

「うわ、今回は成体だよ!

遺跡で見たやつよりずっとデカい!


あのくっさい奴、

レベルも私よりかなり上だし!」


 

アペスは情報端末を取り出す。


どうやら、

飛行船遺跡での失敗からちゃんと学んでいるらしい。


 

「レベルは?」


デレオは素早くしゃがみ込み、

余計な音を立てないよう息を止めた。


 

「Lv67。

ちょっと大変だけど、倒せれば……」


アペスは答えながら、

鑑定アプリを起動する。


それをそっと、

ネクロサウルスの方向へ滑らせる。


 

「そうか。

お前はもうLv46だもんな。


もしあいつを仕留められたら、

Lv50まで一気に上がって、

クラスアップ條件を満たせそうだ。」


 

デレオは手にした道具を握りしめ、

いつでも動けるよう身構える。


 

「よし、やってみよう!」


アペスは大きく息を吸い込み、

しっかりと足を

踏みしめてネクロサウルスを見据えた。


 

「アペス、アレカ。

タフなのはあんたたち二人だ。

正面は任せる。


いいか、

無理だと思ったらすぐ逃げるぞ。

俺たちの方が足は速い。


……妹のこと、よく考えて動け。」


 

デレオは声を低く抑えつつ、

左右の茂みを

指さして素早くハンドサインを送る。


 

アペスはうなずいた。


「分かってる。無茶はしない。」


彼女は身体を少し沈め、

落ち葉を踏まないよう気を配りながら、

左側へと回り込む。


 

アレカはもう飛び跳ねたりはせず、

舌を地面に這わせるように、


少しずつ、

少しずつ前進して、

右側から近づいていく。


 

「カシヤ、君は攻撃と支援の曲、

好きなだけ奏でて。」


デレオはそう指示を出しながら、

背負い袋からいくつかの素材を取り出し、

道具製作の準備に入る。


 

カシヤは素早くウクレレを取り出し、

指先で弦に軽く触れながら音を確かめる。


いつでも戦いの歌を始められるように。


 

「で、俺は……」


 

『ツール製作:農具——』


 

デレオの左手には斧が、

右手にはツルハシが形を成していく。


 

「できれば、膝をぶっ壊してやる。」


 

デレオは低くつぶやき、

静かに前へとにじり出て、

他の二人とともに包囲の陣形を作る。


 

息を殺し、

ただ最善の一撃の瞬間を待ち続けた。

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