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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

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第40話 そんな、不自殺声明が必要なことなんて、俺にできるわけないだろ。

デレオがカウンターに近づくと、

床がぎしりと鳴った。


その音に合わせるように、

カウンターの向こうから

穏やかな声が飛んでくる。


受付で冒険者の応対をしているガデニアが、

慌てて身なりを整えながら

デレオを呼び止めた。


「ねえ、デレオ。

今日ひま? 

私、仕事が終わったら──」


そこでようやく、

彼女はデレオの隣にいる

カシヤの存在に気づき、


言いかけた言葉をぐっと飲み込んだ。


彼女はそっと唇を噛み、

二人の関係をどうやって探ろうか考え込む。


デレオは

カウンターのすぐそばまで歩み寄る。


「ん? 何か俺に頼みごとか?」


デレオが首をかしげてガデニアを見る。


カシヤは

興味津々といった様子で周囲を見回し、


まだ見ぬ世界を

覗き込む子どものように目を輝かせていた。


ガデニアは気まずそうに笑いを浮かべ、

慌ててカウンターの上の依頼帳を

パラパラとめくる。


「アハハ……なんでもないってば。


ただね、

ウンブラ婆ちゃんがまたゾンビの脚を

ちょっと拝借してきてくれる人を探してるのよ」


そう言いながら前髪を耳にかけ、

ちらちらとカシヤの様子を盗み見る。


デレオは肩をすくめ、気楽な口調で言った。


「チェラーレは? 

アンデッドで遊ぶの、

あいつ大好物だろ?」


ガデニアはデレオを

にらみつけるような視線を送り、

頬をぷくっとふくらませた。


笑いを堪えているようにも見える。


「よくそんな白々しいこと言えるわね。


ギルド中の連中が

昨日の夜、

あんたが彼女に何したか噂してるんだから」


デレオは両手のひらを上に向け、

「え、何それ?」

と言わんばかりに無実をアピールした。


「俺が彼女に“何した”って? 

誤解されそうな言い方やめてくれない?」


「みんな言ってるわよ。

お前があの子をたぶらかしたって話だ。


あんな凍えるような夜に、


ノールールマーケットの入り口に

彼女を置き去りにしたそうじゃないか。」


ガデニアは堪えきれず、

カウンターをぺしっと軽く叩きながら、

からかいとゴシップ半分の声で言う。


デレオの背後から、口笛がひとつ。


何人かが賭けの台帳を

広げている気配がした。


デレオは苦笑し、後頭部をぼりぼりかいた。


「……で、

ガデニアはそんな話を信じるわけ?」


「だって、み~んなそう言ってるんだもん」


彼女は両手を広げ、

その手のひらをひらりと揺らしてみせる。


デレオはもう一度肩をすくめ、

周囲をぐるりと見渡した。


「少しは常識で考えろ。


この首都のどこに、チェラーレを

『たぶらかす』なんて度胸のある男がいる?


大統領ですら、

まず先に『不自殺声明ふじさつせいめい』に

サインさせられるっていうのに。」


冒険者たちの間から、どっと歓声があがる。


「メジェドのパンツに誓って! 

この坊主、よくもまあ言い切るな!」


ガデニアはぷっと吹きだし、

目を三日月のように細めた。


「いるじゃない。みんなね、

できるのはあんたしかいないって思ってるの」


デレオは両手を高く上げ、

降参ポーズを取った。


「やれやれ……その噂、

十中八九チェラーレ本人が流してるだろ。


 たぶらかされてんのは、

お前らの方だっつの!」


デレオはガデニアに片手を差し出し、

「ちょうだい」という合図を送る。


「なに? 私から何を取るつもり?」


ガデニアは

カウンター上の書類を整えながら、

じとっとした視線をデレオに向ける。


「ウンブラ婆ちゃんの依頼書だよ。

さっき、ゾンビの脚って言ってただろ?」


デレオは身を少し乗り出し、

もう一度手を差し出した。


ガデニアはわざとらしく目を回してみせ、

散らかった紙の山から


一枚を引き抜くと、

ぱしんとデレオの手のひらに叩きつけた。


「ほら、コレ。受けるの?」


「受ける。

ちょうどウンブラ婆ちゃんに

用事もあるしな」


デレオは依頼書を二つ折りにして

ポケットへしまい、


情報端末を取り出してガデニアを見上げる。


彼女は端末を手に取り、

カタカタと依頼情報を入力していく。


「それとさ、ついでで悪いんだけど、

ギルド上層部にも伝えてくれないか。


 先週、宇宙船遺跡の依頼を受けた時に、

とんでもないものを目撃した」


デレオはそう言いながら、

右手でカウンターをコツコツと二度叩く。

緊急の用件だという合図だ。


ガデニアは眉をひそめる。


「どんな“とんでもないもの”?」


「宇宙船遺跡の第二層で、

ゴブリンシャーマンの一団が

 血の魔法陣で、

どう見ても相当格上の悪魔を召喚してた」


デレオは手を動かしながら、

床に描かれていた

血の紋様をなぞるように説明する。


「その悪魔、姿はっきり見たの?」


ガデニアは目を見開き、身を乗り出した。


デレオはこくりとうなずき、

右手を握りしめる。


「ああ。……ってことは、

ギルドの方でもう情報が入ってるのか?」


「もっと早く報告に来なさいよ!」


ガデニアは

手元の書類をぱたんと強く閉じた。


「何かあったのか?」


デレオも身を乗り出し、問いただす。


「別のパーティーも、

そいつに遭遇したの。


 死人がかなり出たうえに──

復活できないらしい」


ガデニアは掲示板の訃報を指さし、

そのまま資料の束をめくり始めた。


「復活、できない……?」


デレオは思わず姿勢を正し、

険しい表情になる。


「失敗者の魂を、

あいつの魔法が縛りつけちゃうんだって」


ガデニアは

一枚の資料をデレオの前に滑らせ、

深刻な面持ちで続ける。


「なんてこった……隕石召喚だけじゃなく、

魂を拘束する禁断魔法まで……」


デレオは無意識に一歩後ずさりし、

驚愕を隠せない。


「隕石召喚まで使うってこと?」


ガデニアの声には

明らかな不安が混じっていた。


「使う。間違いなく」


デレオは拳を固く握りしめ、

指の関節を白くさせる。


「ってことは……

先週の大地震と隕石雨って……」


ガデニアは両手を固く組み合わせ、

震える声で言葉を継ぐ。


「その通り。あれは全部、あいつの仕業だ」


デレオは深く息を吸い込んだ。


「すぐに上に報告しないと」


ガデニアはギルドの通信用端末を手に取り、

素早く内線番号を押し始めた。


デレオは一歩下がり、

ガデニアが話し終えるのを待つ。


通話を続けながらも、

ガデニアは何度かデレオを見上げた。


おそらく、

フィネストラ会長に

デレオの証言を逐一伝えているのだろう。


やがて、

ガデニアは端末をデレオの方へ差し出した。


「フィネストラ会長が、

直接話したいって」


「了解」


デレオは通話端末を受け取る。


『やあ、デレオく~ん。

キミってやつはさあ……』


「ガデニアから

大体のことは伝わってますよね。


 この一週間で、

あの悪魔の話をするのはもう四回目です。


 これ以上話すと、俺、自分であいつの広報やってる気分になりますよ」


『おいおい、ガキのくせに口が悪いねえ。

 まあいいさ、実は叔父さんから、

ついでに頼みたいことがあってね』


この老タヌキが、

人のことを礼儀知らず呼ばわりする

資格なんて一番ないくせに。


「さっきの指名依頼の件なら、

受ける気はありません」


『まあまあ、

そんなに難しい話じゃないって。


 ついでで十分、ついでで』


「……内容を聞いておきます」


『ウンブラ婆ちゃんを、

ギルドまで連れてきてほしいんだ』


「どこが“難しくない”んですか、それ」


デレオは本気でムッとした。


『そんなこと言うなよ、

可愛い甥っ子じゃないか~』


フィネストラは

勝手に自分をデレオの叔父と名乗っている。


まったくの嘘というわけでもない。


デレオが

まだメジェド教団で暮らしていた頃、


会長はよくメジェドの子どもたちの様子を

見に来ていた。


彼自身もまた、

そこから巣立った一人だからだ。


今のデレオが、

時々教団へ戻って自分より年下の子どもたち

の顔を見に行くように。


そして、

その子たちはみんな可愛く

「お兄ちゃん」と呼んでくれる。


その“叔父さん”がですね。

デレオにはよく分かりすぎる。


「あの婆ちゃんの袖には

死んだ人の骨がいっぱい詰まっていた。


その気になれば、

不死者の軍団を召喚して首都を踏み潰せます。


都市警備隊が、

そんな人をあっさり通すと思います?」


『だからこそ、

なおさら来てほしいんだよ。


あの悪魔について、

専門家で相談できる相手が必要なんだ』


「メッセージを預かって、

ウンブラ婆ちゃんに

伝えるくらいならいいです。


でも、

政府高官を丸め込んで

“不死者はスルーで”なんて交渉する腕は、

俺にはありませんよ」


「そんな雑事は

マスクルスに押しつけとけばいいんだよ」


背後から、

耳に馴染んだ安心感のある声が飛んできた。


「アペス!? 

どうしてひとりで来たんだよ。

退院は明日じゃなかったのか?」


カシヤは嬉しさを隠しきれず、

ぴょんぴょん跳ねながら

アペスに飛びついた。


「もう我慢できなかったの。

どうしても、

今すぐみんなに会いたくてさ」


アペスはカシヤの方を向きながらも、

その視線はちらりと

デレオの方も盗み見ていた。

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