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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

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進化のパンデモニウム―― 異分岐スライムと生体アイテム袋

これは本編とは関係のない、独立した物語です。

『ノンプロット・クエスト開始』


アレカは、

騒がしい魔殿パンデモニウムへと召喚された。


地獄の群魔と諸天の神々は、

マモンの招待状を受け取っている。


クトゥルフは価格表を片手に、

女媧へ商品説明をしていた。


プロメテウスは、

偽物のアダムを

専門家の目でじろじろと観察している。


非人の衆生たちは事象の地平線の外に集い、

決して外に漏れることのない

光と影を見届けていた。


『闘争関数入力』

f(アレカ・シャクルス/異分岐スライム):D(太古代のアミノ酸湖)=?


解を求めよ。


はるか宇宙のどこかに、

若い惑星がひとつあった。


生まれたばかりの赤子のように、

生命の可能性を模索している星だ。


酸素のない大気は、

メタンと二酸化炭素に満ちている。


橙色の空を、

絶え間ない雷嵐が淡い紫紅色に染めていた。


雨は大地に落ち、

灼熱のマグマに触れて沸騰し蒸発する。


雲となり、また雨となる。

蒸しては降り、降っては蒸し……。


やがて、

鉄錆色の水溜まりができあがった。


――原始スープだ。


遠いスーパーアースで、

神々は再び生命の鍋を煮込んでいた。


「温度も酸性度も、ちょうどいいな」


クトゥルフは触手を伸ばしてひと舐めし、


これから生命を生み出す液体を

陶酔したように吸う。


まるで原始スープが、

焼肉のタレであるかのように。


外なる神の唾液にまみれた触手が振られ、

飛び散った液体が原始スープへと落ちる。


神々が見守る中、

その滴はスープの中で翻り、煮え立ち、

やがて形を成し始めた。


痰のように、黄色く、

ねばつき、どろりとしている。


それは蠢き、

この惑星が生み出したばかりの

原始スープを吸収しているようだった。


「そろそろ進化を始める頃じゃないか?」


プロメテウスは手にした

ストップウォッチを見て首をかしげる。


すでに四十万年が経過している。


神々の使う尺度は、どうしても大雑把だ。


「うーん……ヤハウェのところで見た限り、

最低でも“億年”単位は必要だ。

もう少し気長にいこう」


クトゥルフはストップウォッチを奪い取り、


さらに二、三桁ほど桁を足した。


――五億年後。


ピピピ――

ストップウォッチのアラームが鳴る。


その“痰”は、

もはや正体不明の内臓の塊のようになっていた。


「おかしいわね。

想定していた進化ルートと違うわ」


女媧はクトゥルフから渡された資料と

見比べる。


「チッ! ヤハウェのやつ、

進化プロセスのソースコードを

全然公開しやがらない!」


クトゥルフは苛立ち、唾を飛ばす。


「まあまあ……

最初から研究し直すしかなさそうね」

女媧は微笑んだ。


内臓のような粘液は、

生命らしくは見えないが、

死んではいなかった。


神々が目を離した隙に、

それは“すべて”を喰らい始めた。


老いず、死なない。


だから繁殖する必要がない。

繁殖しないから進化しない。

進化しないから変化しない。


強くも、速くも、賢くもならない。

ただ、この姿のままであり続ける。


神々にとって――

まったく面白みのない存在だった。


「……あら?」


女媧はふと振り返り、

クトゥルフを指さして叱る。


「おい、そこの老いぼれ蛸、

ちょっと来てくれ。」


「なんだその言い草は、

この雌ミミズめ! 口を慎め!」


創造の失敗で機嫌最悪だった

クトゥルフが噛みつく。


プロメテウスが笑って仲裁に入った。


「放っておくと、

せっかく生命を生み出せる惑星が台無しになりますよ?」


クトゥルフは、

まだ太古代にあるその惑星を見下ろした。


「マモン、これはお前の出番だろ?」


「ふぅ……これは進化経路が

過度に分岐したスライムですね。


『それ』に処理させれば大丈夫でしょう」


マモンは、

厄介な客をなだめる受付係のような口調で言った。


小さな袋を取り出し、

異分岐スライムのそばにそっと置く。


「食べてくれるかな?」


神々は興味深げに見守った。


生体アイテム袋・アレカは、

正体不明の粘液のそばに置かれた。


何が起きているのか、さっぱり分からない。


孵化したばかり。


主人の姿をようやく覚えたばかりなのに、

いきなり赤暗い世界に放り出された。


理解しなければならない。


手も足もなく、言葉も分からず、話せない。


口唇期の赤ん坊のように、

世界を知る手段はただ一つ――食べること。


原始スープを数口飲む……酸っぱい。


風化した岩をかじる……硬い。


内臓のような粘液をひと噛み。


その食感……その味……。


好き嫌い以前に、

本能が「吐き出せ」と叫んでいた。


創造主は、

それに生き物を食べさせたくなかったのだ。


アレカは、噛み取った粘液を吐き出した。


こうしてこの惑星には、

二つの異分岐スライムが生まれた。


惑星は一つ。

無限に存在し続ける生物は二体。


彼らは互いの“食料”

――この惑星を奪い合い始めた。


「ねえ……

ちょっと面白くなってきたわよ?」


女媧は宝を見つけたように目を輝かせる。


「なるほど……

ヤハウェの進化方程式に書かれていたのは、

これか!」


プロメテウスは膝を打った。


栄養価の高いものを食べ尽くすと、

二体の異分岐スライムは互いに攻撃し始める。


吞み込み、引き裂き、争うたび、


粘液の欠片が飛び散る

—―さらなる競争者が生まれる。


マモンはアレカをすくい上げた。


「進化は始動しましたよ。

小さな功労者ですね」


クトゥルフは笑った。

「今回は、

ヤハウェの作品とはまったく違う世界を作ってやろう」

閣下、もう寝る時間ですよ。

デレオが逃げ切れるかどうか⋯⋯

それは、明日までのお楽しみです。


CU2麻呂

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