表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/92

第36話 会うたびに一太刀浴びせてくるなら、俺は全力で逃げる。

「昨日の夜、

ちょっとしたトラブルに巻き込まれてね。」

デレオが簡単に説明する。


アペスは眉をひそめた。


「どんなトラブル? 

この呪いの気配……ただ事じゃないわよ。」


「途中で人に待ち伏せされました。」

カシヤが補足する。


「でも、デレオが守ってくれました。」


アペスの表情が一気に真剣になる。


「……早く退院しないとダメね。

いまのあんたたちには、

もっと強い味方が必要だわ。」


彼女はチェラーレの能力に

ついて細かく聞きながら、


頭の中で実際に対峙した時の

シミュレーションをしているようだった。


「私たちのことは、

そんなに心配しなくても──」

デレオが言いかける。


「ダメ!」

アペスは食い気味に遮った。


「アンタにあんな呪いまで

使わせるような相手よ? 

簡単に見て見ぬふりなんてできないわ。」


チェラーレとアペス……

この二人の実力は、

おそらくほとんど互角だ。


もし首都の街中で本気でやり合ったら、

消防車と救急車が

何台あっても足りないだろう。


ちょうどその時、

アレカがぴたりと舌を引っ込め、

警戒するようにドアの方を見つめた。


「誰か来る。」


デレオは

アレカの様子の変化で異常に気づく。


ノックの音がした。


だがその音はあまりにも小さく、

聞き逃してしまいそうなほどだった。


デレオがドアに向かう。


ドアノブに手をかけた瞬間、

殺気が冷気をまとって襲いかかってきた。


──まさか、

チェラーレがここまで追って来たのか?


ドアが半分開いたところで、

来訪者は容赦のない斬撃を叩き込んできた。


空気ごと切り裂くような鋭い一閃。


デレオの身体は条件反射のように横へ跳ぶ。


刃は頬のすぐそばを掠め、

その勢いで髪の毛が一房ふわりと舞った。


その一瞬だけ、

時間が止まったように感じる。


病室に生けられた百合の香りだけが、

妙に鮮烈に立ちのぼった。


ドアの前に立っていたのは、

肩幅の広い大柄な男だった。


禁衛軍の制服がたくましい肉体を包み、

その胸元には

金属製の紋章が冷たい光を放っている。


彼の手に握られた軍刀は

まだ空中で止まっている。


刀先が微かに震えているものの、

その構えには一切のためらいも迷いもない。


鋭い視線がデレオを正面から射抜く。


そこには戦士としての警戒と、

ほんのわずかな愉悦の色が混じっていた。


「反応は悪くないな。」

低く響く声には、

かすかな笑みが混じっている。


デレオがまだ状況を飲み込めないうちに、

ベッドの上のアペスが怒鳴った。


「マスクルス! 

あんたってば、字も読めない半分猿人なの?


今のがただの挨拶だなんて言ったら、

マジで死人が出るわよ!」


カシヤは小さく吹き出し、

どこか慣れた様子で言った。


「マスクルスはいつもこうだから、

気にしないでください。


デレオに、自分と……

わたしたちを守る力が

あるか確かめたかっただけです。」


アレカは大きなあくびをした。


──人間たちは、

どこまで遊ぶつもりなんだろうね?


「ふん、

何の実力もない男が、

うちの妹の病室に

立ってていいわけないだろ?」


マスクルスは、

群れを率いる狼のような笑みを浮かべた。


そしてその群れに、

新しい仲間を

引き込もうとしている狼王でもある。


デレオは静かに呼吸を整え、

胸の高鳴りを落ち着かせていく。


同時に、さっきまでの緊張とは別種の、

わずかな高揚感が心の奥に湧いてきた。


マスクルスの斬撃には、

本物の殺意はなかった。


だが、その正確さだけは本物だった。


「こっちは別に、

強者になるつもりはないんですよ。


これ以上試すつもりなら……」


マスクルスの眉がぴくりと上がる。

挑発を期待している目だ。


「今度は、

あんたの目の

届かないところに逃げて隠れます。」


マスクルスは腹の底から笑った。


「ははっ、

身の処し方はわかってるようだな。」


彼は知らない。

デレオは昔からずっと

そうやって生き延びてきたということを。


マスクルスはそこでようやく軍刀を下ろし、

口元に小さな笑みを浮かべた。


「昨夜、

逆光のチェラーレを倒したって聞いたぞ。

なかなかやるじゃないか。」


「逆光……? どうしてそのことを?」


デレオは初めて知った。

幼なじみに、

そんな格好いい二つ名があるなんて。


「禁衛軍の情報網を甘く見るなよ。


逆光のチェラーレ本人は一度も

捕まえられてないが、


議会議長の孫娘に護衛の便衣を

二、三人つけるくらいの

基本的な安全対策を、

俺たちがサボると思うか?」



マスクルスの視線は、

デレオとカシヤの間をゆっくり行き来し、

最後にアペスの上で止まった。


「アペス。

お前の友達は、俺の想像以上だったな。


チェラーレを姿を

見せるところまで引きずり出した、

それだけでも十分に尋常じゃない。」


「ただの、幼なじみだよ。

私自身は、特にどうってことない。」


デレオは、

期待値を無駄に上げられるのが嫌だった。


カシヤは、どこか誇らしげに胸を張る。


「わたしたち、

そう簡単に怖じ気づいたりしません。


昨日のことは危なかったけど、

アレカとデレオの連携は、

本当に見事でした。」


アペスは柔らかく微笑み、

ほんの少し安心したような声で言った。


「それなら、

アンタにカシヤを任せても大丈夫そうね。」


マスクルスはベッド脇に近づき、

この部屋にいる

全員の表情をひとりずつ観察した。


「ここのところ、

表向きより水面下の方がよっぽどきな臭い。


軍としても、

得体の知れない連中が国境を

出入りしているのを何度も確認している。


チェラーレの出現は、

その流れの一部かもしれん。


とにかく、用心しろ。」


デレオはゆっくり首を振る。


「チェラーレは

まともな人間じゃないのは確かですけど、


戦争を起こそうとする独裁者なんかに

尻尾を振るタイプじゃありません。


むだに人が死ぬのを、彼女は嫌います。」


「……庇っているつもりか?」

マスクルスの表情が一瞬だけ険しくなる。


「ただ、

下層の人たちが彼女を

どう見ているか伝えたかっただけです。」


「……なるほど。

そこは理解しているつもりだ。

あいつのやり口もな。」


「彼女は、今──」


「安心しろ。

あの女賊は、

そう簡単にくたばるタマじゃない。


うちの連中が

ノールールマーケットに駆けつけたとき、


倒れてたのは密航に人身売買、

ついでにノールールマーケットで

偽酒まで売ってたクズの方だった。


そいつの額には、

血で『ごあいさつ』って

刻まれてたそうだ。」


デレオは本気で驚いた。


あんな呪いを食らっておいて、

人身売買屋を一人始末し、

そのうえ禁衛軍まで手玉に取るなんて。


「こっちとしては完璧に

ナメられてるわけだが……


それでも、

あいつは檻に入れておくより

野放しにしておいた方が、

結果的に得だ。


倒すより、

仲間に引き込みたいタイプだな。」


「でも、それじゃあ……法律の権威は……」

カシヤは少し不満そうだ。


「俺は軍人だ。

任務は国家の安全を守ること。」


マスクルスは肩をすくめる。


「公平だの正義だのは、

裁判官と議員の仕事さ。」


「ちぇっ、

相変わらず表兄さんは屁理屈が得意ね。」

カシヤはぺろっと舌を出した。


「好きに言え。

とにかく、

お前たちもいろんな意味で気をつけろ。」


「気をつけます。」

デレオは素直にうなずいた。


「ただし──」

彼はマスクルスの手にある軍刀を見て、

ため息をつく。


「会うたびに一太刀お見舞いするのは、

やめてもらえませんか?」


マスクルスは豪快に笑い声を上げた。


「心配するな。

第一関門はクリアしたんだ。

次は別の手を考えておく。」


そう言って軍刀を鞘に収め、

窓辺に歩み寄ると、

花瓶の百合をそっと整えた。


「その時は、もっと遠くまで逃げますよ。」

デレオは大きく息を吐いた。


病室の空気は、

突然の試し斬りで一気に活気づき、


緊張と安堵が入り混じったまま、

ゆっくりと流れていく。


「本当に遠くまで逃げられたら、

どうやって教えればいいんだ?」


マスクルスがふと声の調子を変えた。


「チェラーレがただ逃げおおせただけじゃないってことをさ。」


マスクルスは続ける。


「奴が残していった『ごあいさつ』──

あれは、お前へのメッセージでもある。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ