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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第一部——太古の宇宙船遺跡

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新年のパンデモニウム――灯猴とアイテム士

これは本編とは関係のない、独立した物語です。

デレオは騒がしい魔殿パンデモニウムに召喚された。


地獄の群魔も、

諸天の神々も、

マモンからの招待状を受け取っている。


『ノンプロット・クエスト開始』


門神 尉遲恭ゆち・ぎょんは、

門神 秦叔寶ちん・しゅぼ

妙な抑揚の喋り方をバカにし、

竈神かまどがみとくまのプーさんに

そっくりな奴がハチミツを奪い合っている。


人ならざるものたちは

事象の地平線の彼方に群れ集い、

決して外には漏れない

この光と影を見届けていた。


『闘争関数入力』

f(アイテム士デレオ,灯猴ディンーガゥ):D(大洪水に沈んだ竹林)=?


解を求めよ。


冬、

島弧には北東季節風が吹きつける。

列島の北東部は、


まるで永遠に続くかのような

雨空に閉じ込められていた。


冷たい前線が青空を覆い隠し、

連なる山並みに垂れ込めた黒雲は、

獲物を狙う灰色の猫のようだ。


マモンは、

そんな水没した竹林のど真ん中に

デレオを放り出した。


『あの猿を捕まえてこい!

天界を挑発したのはあいつだ。


あいつは神々を

騙して「人間はもう完全に堕落しきった。


世界を滅ぼすべきだ」なんて吹き込んだ。

もしお前が、

もう一度空が晴れるところを見たいなら、


あいつが持っている灯りを

奪って戻ってこい。


さもなければ、

アララト山をも飲み込む大洪水が、

もう一度この世界を襲うぞ。』


空からは雨、風の中にも雨。

デレオが肺に吸い込む息の一口一口にまで、

雨が混じっている。


雨は彼の装備をすべてずぶ濡れにし、

そこへ骨身に染みる北東風が

追い打ちをかける。


冷たく湿った空気が、

じわじわと確実に彼の体温を奪っていく。


豪雨は島じゅうの大小さまざまな盆地を

満たし、

まるで世界の終わりの洪水のようだった。


デレオはガタガタ震えながら

水中から立ち上がる。


水はちょうど靴底を覆うくらいの深さで、

しかしそれだけあれば、

地面一面に

竹の葉を浮かべるには十分だった。


「これはマズいな。

地面がどうなってるのか、

まるで見えない……」


もし足元にぬかるんだ穴や溝でもあれば、

派手に転んでしまうだろう。


そうなれば、

たちまち機動力は致命的に削がれてしまう。


デレオは鋸を抜き、

そばの竹の中から手頃な太さのものを

一本切り出した。


それを杖のように構え、

浮かんだ竹の葉に覆われた泥だらけの

地面を、


目の見えない旅人のように

一歩一歩確かめながら進んでいく。


「話では、

あの猿は灯りを持っているって言ってたな。

それなら、

見つけるのはそう難しくないはずだが?」


実際、難しくはなかった。


デレオが少しだけあたりを見渡すと、

風上の方角に、

霧と雨の竹林の中で、

ちらちらと明滅する火の光が見えた。


「そんなに遠くない。

せいぜい二百メートルってところか?」


デレオは歩幅を広げ、光を追って進む。


本当は走り出したかったが、

気づけば水はすでに靴の甲まで達していた。


走るには、

かなり邪魔な深さだ。


「さすがに、

さっきよりは近付いたよな?」

デレオは息を切らしながら顔を上げる。


距離はあまり変わった気がしない。

だが、

今度は猿の姿まではっきり見えた。


それは、

北国で温泉に

つかっているあの猿そっくりの見た目で、


この土砂降りの中だというのに、

顔つきは妙にのんびりしている。

――こんな大雨の中で?


猿はデレオが追ってくるのに気づくと、

手にした灯りをこちらに向けて掲げた。


それは竹製の小さな油灯台だった。

灯りはやわらかな光を放ち、

その光が結界のように

猿のまわりを包み込んでいる。


その内側だけは風も雨も届かない。


どうりで、

あんなに悠々としていられるわけだ。


デレオは水しぶきを上げて足を踏み出した。


水はすでに足首まで浸かっており、

さすがに無視できない抵抗になっている。


灯猴は警戒したようにこちらを見やり、

歯をむき出しにした。


デレオは聞いたことがある。


野生の動物が

「笑っている」ように見えるとき、

それは機嫌がいいからじゃなく、

牙を見せつけて威嚇しているのだと。


とはいえ、

マモンの話が本当なら、

こいつは天界に告げ口までした切れ者だ。


どうしても、

ただの野獣としては見られない。


デレオは猿に向かって両手を広げ、

敵意がないことを示そうとした。


だが、

猿のほうは

彼をただの間抜け扱いしているらしく、


あからさまに興味をなくした顔で

ぷいっと背を向けると、

そのまま行ってしまう。


デレオは、

見失ってはまずいと、

すぐさま水をかき分けて追いかけた。


水はもう、

ふくらはぎをすっかり

飲み込むほどの深さになっている。


猿は竹の幹をひょいひょいと登り、

浸水などまるで無関係と言わんばかりに、

軽やかに、

そして素早く竹林を飛び回っていた。


距離は四十メートル、

いや三十メートルか……


人間が石を投げたときに、

だいたいどれくらいの距離になるのか、

あの猿は分かっているようだった。


「つまり、

石投げ対策は

もう済んでるってことだよな?」

デレオは自分の皮帽子を軽く叩いた。


猿は、

目の前の明らかに

怪しい人間をじっとにらみつけている。


観察しているのだ。

その視線は、


がっかりしたように

デレオの空っぽの両手から、

彼の背負ったバックパックへと移っていった。


『ちょっと荒っぽい手段を試してみるか……?』


デレオは、

あの猿を捕まえる方法を

頭の中で組み立て始めた。


彼は猿に背を向け、

足元から竹の一本を拾い上げると、

多機能ナイフを跳ね上げて展開する。


『スキル発動:《効率》』


竹は粘土のように

柔らかく削りやすくなった。


デレオは素早く竹を削り出し、

自分の腕ほどの長さの竹槍を何本か、

そしてアトラトルを一本こしらえた。


奇襲は速く、

そして不意打ちでなければ意味がない!


デレオはアトラトルを構え、

くるりと振り向く。

竹槍を投げ放った。


猿は反応しきれなかった。

竹槍は猿のすぐ横の竹の幹に突き刺さる。

本体にはかすり傷ひとつない。


デレオは狙いがあまり良くない。

できる限りのことはしたが、

彼はアイテム士であって、

猟師でも射手でもないのだ。


だが、竹槍なら山ほどある。

彼は次の竹槍をアトラトルにセットし、

顔を上げた。


――おかしい。

猿は距離を取ろうとしない。


もう一度、竹槍が宙を飛ぶ。


灯猴は歯をむき出して吠え、

手にした竹灯から炎の舌が弾けた。


竹槍は空中で焼かれ、

灰になって崩れ落ちる。


「え? マジかよ!」


デレオは慌てて次の竹槍を用意する。


だがその時、

猿は竹の梢から

デレオめがけて跳びかかってきた。


デレオは残った竹槍を

全部まとめて前方に投げつける。


猿は空中でその一束に激突したが、

突進の勢いはほとんど衰えないまま、

彼の懐に飛び込んできた。


猿がデレオに飛びつき、

デレオは慌てて手を

振り回して追い払おうとする。


しかし猿は引っ掻きも噛みつきもせず、

するりと彼のバックパックまでよじ登ると、


中身を奪い取らんばかりの勢いで

必死に引き剥がそうとしている。


その様子は、

すべてを捨てた飢えた亡者のようだった。


デレオには、

何を奪おうとしているのか見当もつかない。


だが、

猿の思いどおりにさせるわけにはいかない。


彼は思い切ってその場に倒れ込み、

そのまま水の中へ転がり込んだ。


この頃には、

水はもう彼の太ももまで達している。


人間にとっては足をとられる深さだが、

猿にとっては溺れるほどの水位だ。


デレオは素早く立ち上がり、

頭を振って水を払い落とす。


灯猴はというと、

必死にもがきながら

デレオのそばから泳ぎ去ろうとしていた。


猿は確かに泳げる。


だが、

この深さなら、

人間のほうが断然早く進める。


デレオは一歩大きく飛び出して前に出ると、

灯猴の首根っこを

小猫をつかむようにつかまえ、

ひょいと持ち上げた。


彼は猿の体を

ぐるりと回して正面に向けさせる。


その顔には、

何とも言えない困り顔が浮かんでいた。


落水して消えた竹灯を

両手で大事そうに抱えながら。


「俺の負けだよ。

この灯りと、交換してくれないか?」


「喋れたのか、お前……」


天界に告げ口するくらいだ。

しゃべれないはずがない。


猿は気まずそうに笑う。


「何と交換したいんだ?」

デレオは顔の水を手でぬぐった。


「お前のバックパックの中から、

すごくいい匂いがするんだ。」


猿は、切なそうに鼻先をひくひくさせる。


そうか、

この極寒の風雨の中を跳び回っていれば、


いくら雨を

はじく灯りを持っているとはいえ、

体力は相当消耗しているはずだ。


とっくに腹ペコでもおかしくない。


デレオは笑いながら、

バックパックから小さな袋を取り出した。


中には、

ピーナッツ粉をまぶした

揚げ圓仔インーアがぎっしり詰まっている。


袋の口は

けっこうしっかり縛ってあったので、

水はほとんど染み込んでいない。


彼は一粒つまんで自分の口に放り込んだ。


――甘くて、

やわらかくて、

もちもちしていて、

ピーナッツの香りがふわりと広がる。


「ほら、お前が欲しいのは、これだろ?」


猿は嬉しそうにこくこくと頷く。

デレオは竹灯を受け取った。




————————————————————————





竈神かまどがみは、

満足そうにマモンの肩をぽんぽんと叩いた。


「よし。

今年はあの猿に

世界の終わりを起こされずに済んだな。」


尉遅恭は秦叔宝の真似をして、

変な訛りで

そのプーさんにそっくりな奴に

「あけましておめでとう」と言った。


「お正月は花火の扱いには気をつけなよ。

うっかりすると、

自分の家まで燃やしちゃうからね!」


「ふふ……また来年もよろしくねぇ……」


マモンは、

いかにも商売人らしい笑みをたたえながら、

神々に愛想よく頭を下げた。


休憩しましょう。

ひと眠りして目覚めた明日、閣下を待っているのは――大規模殲滅魔法です!

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