第19話 外は殺戮の戦場、 内側には――逃げ場のない一つのベッド
ドアの外から
金属がぶつかり合う音がした――
ガチャ、ガチャ、ガチャ。
足音がドアの前で止まる。
三人は息をのみ、
デレオは銀のダガーを握りしめた。
ドアの隙間から
赤いスキャン光線がすべり込み、
部屋の中をゆっくりと移動する。
「Scanning……」
冷たい機械音声が、背筋をぞくりとさせた。
光線がカシヤの靴先をなぞる。
彼女は思わず悲鳴を上げそうになる。
アペスが
すぐさま拳を握りしめて跳び上がった。
「ダメ! 絶対に殴らないで!」
デレオはぎょっとして飛びかかり、
アペスを押さえ込む。
「遺跡のロボットだ、シーッ……」
二人はベッドの上に倒れ込む。
デレオは人差し指をアペスの唇に当てた。
アペスの顔がみるみる赤くなる。
『No extraterritorial life detected.
Scan completed!』
誰も、
この機械たちが
何の呪文を唱えているのかは知らない。
ただ、
ドアの向こうで
小さなエアシリンダーの作動音がして、
雑音はだんだん遠ざかっていった。
「覚えといて。
ロボットは敵じゃない。
場合によっては、
こっちの味方もしてくれる。」
ロボットが十分遠ざかったのを確認して、
デレオはようやく息をつき、
その場にへたり込んだ。
「今の言い方、
どう聞いても
『いいやつ』の紹介じゃなかったけど……」
アペスはしゃがみ込んで、
澄んだ薄茶色の瞳で
じっとデレオを見つめる。
「だってさ……
戦闘型ロボットに刃物を向けた瞬間、
遺跡全体から総攻撃を食らうんだぞ。」
デレオの表情は、
『よく今まで生きてこられたな?』
と言っているようだった。
外の咆哮は、
まるでこの宇宙船を噛み砕こうと
しているかのように響いている。
だが、
船室の静けさは、
かえってデレオの不安をかき立てた。
彼はサリクスからもらったダガーを握り、
戦場そのものよりも、
今はそばにいる二人の女の子の呼吸のほうが
気になっている自分に気づく。
この感覚は……いったいいつからだ?
今までは、やるべきことで手一杯で、
女の子のことを考える余裕なんてなかった。
だからこそ、
今のこの状態が、
やけに唐突に思えてしまう。
夜が深くなり、
そろそろ休む時間になった。
これだけ保存状態のいいミイラが
何体もあるところを見ると、
この居住用ブロックには、
魔物や冒険者を
遠ざける何かしらの機能があるのだろう。
そうでなければ、
とっくに魔物に巣にされているはずだし、
この部屋も冒険者ギルドの資料庫に
載っていておかしくない。
寝る前に、
デレオは目標地点の様子をうかがうため、
船室の外へ出た。
大量の亜竜はすでに殲滅されている。
今この場に残っているのは、
一頭の食肉牛竜と狼人ゴブリン。
両者は睨み合い、
その周囲には
倒された魔物たちの輪ができていた。
大半は、
群生する亜竜やゴブリンたちだ。
通路は野火と砕け散った機械の殻で
埋め尽くされている。
さらに、その外側には、
屍肉を
あさる生き物たちとアンデッドが群がり、
死体を奪い合い、時には互いに争い、
そして死体の山に、
新たな死体を積み重ねていく。
デレオが
そろそろ引き上げようとしたその時――
一本の雷が狼人ゴブリンの体に落ちた。
黒焦げになり、
回復力が雷のダメージに追いつけない。
狼人はその場に崩れ落ち、
ゴブリンの姿に戻ることもなく事切れた。
続いて、
二本目の雷とともに、
一羽の暴風鷲が食肉牛竜へ襲いかかった。
新たな覇者の登場だ!
全身から
青い電光をほとばしらせる暴風鷲は、
周囲の死肉あさりとアンデッドたちに
向かって、
怒りの雷撃を叩きつける。
夜の宇宙船遺跡は、
これからも騒ぎ続けるに違いない。
魔物たちの喧噪だけではない。
あの、うるさいな雄鶏の、
耳障りなコケコッコーの夜鳴きもある。
デレオは部屋に戻り、ハッチを閉じた。
炎のランプの光が部屋の中にほのかに残り、
心を落ち着かせる橙色の明かりを灯している。
「ふぁぁ……」
カシヤが大きなあくびをした。
アペスは椅子と机を占領していた。
「私はこっちで寝るから、
ベッドはあんたたち二人で使いな。」
そう言うが早いか、
彼女は目を閉じ、
これ以上話す気は
ないという態度を全身で示した。
デレオとカシヤは視線を交わす。
「大丈夫。
床、ちょっと片づければ、
俺はどうにかなるよ。」
デレオは穏やかに言った。
その瞬間、
狭い寝台キャビンの真ん中に、
足がドンと乗った。
「ごめーん! 私、寝相悪いから!」
アペスは目を閉じたまま言う。
明らかにわざとだ。
「一緒に寝よ。
ベッド、ちょっと狭いけど、
二人ならなんとかなるわ。」
カシヤがそっとデレオの服の裾をつまんだ。
「わかったよ。変なことはしないから。」
「むしろ、
二人で変なことしなさいっての!」
アペスは
寝言のふりをしながら茶々を入れる。
「しないから!」
デレオとカシヤは、
顔を真っ赤にして同時に叫んだ。
――翌朝。
隣で寝ることになったせいで
一晩中緊張して眠れない……
デレオはそうなると思っていた。
だが、
実際にカシヤの隣で眠ってみると、
彼の精神状態は驚くほど安定していた。
目を開けると、
アペスがニヤニヤしながら
こっちを見ている。
「……何だよ。」
まだ半分寝ぼけた声でデレオが問う。
「んーん、別に。
たださー、
うちの“義弟候補”の身体が健康で、
しかもすごく“まっすぐ”だって分かってね。」
アペスは片目をつぶり、
いたずらが成功した子供のように笑った。
デレオの意識が一気に覚醒する。
「おまえなあ、この六根不浄の破戒僧め!」
彼の耳まで真っ赤になった。
「もう還俗したから、ハハハ!」
「どうしたの……?」
寝ぼけ眼のカシヤが上体を起こす。
「聞いてよ、カシヤ。」
アペスは、
寝癖だらけのリネン色の長い髪を
撫でながら言う。
「彼女の話は聞かなくていい!」
デレオは慌てて口を挟んだ。
「ただね、あんたの許嫁の体が、
すっごく健康だって話。」
「え? それって……
別に悪いことじゃないよね?」
「悪いどころか、むしろ最高だよねー?」
「な、何も悪くない!
ぜんっぜん悪くないからな!」
デレオは勢いよく立ち上がり、
そっぽを向く。
アレカがぴょんと
跳び寄ってデレオの様子を一度だけ確認し、
そのままカシヤの足元へ飛び移った。
フタをパカッと開け、
一振りのクシを吐き出すと、
半ば閉じた目でカシヤの足にすり寄る。
「アレカ、気が利くね。」
カシヤは柔らかく微笑んだ。
気まずさを紛らわせるために、
デレオはさっさと船室の外へ出た。
ついでに、
あの大乱戦が
今どうなっているのか確かめに行こうと、
彼は通路の先へと歩き出した。
明日(元日)
朝9:00より、新年特別編を投稿予定です。




