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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第一部——太古の宇宙船遺跡

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乾季のパンデモニウム―― トレントとアイテム士

これは本編とは関係のない、

独立した物語です。


『ノンプロット・クエスト開始』


デレオは『パンデモニウム』――

騒がしき魔宮へと召喚された。


地獄の群魔も、諸天の神々も、

大惡魔マーモンからの招待状を

受け取っていた。


シヴァは波旬と肩を並べ、

アングラ・マンユはアフラ・マズダに杯を捧げる。


人ならざるものたちは

事象の地平線の彼方に群れ集い、

決して外には漏れないこの光と影を

見届けていた。



『闘争関数入力』

f(アイテム士デレオ, ドラウトレント): D(乾季の枯れた川床)=?


解を求めよ。



冬。


島弧には北東季節風が吹きつけている。


諸島の南西側は、

永遠に続くかと思うほどの晴天に

閉じ込められていた。


三か月ものあいだ一滴の雨も降らず、

かつて濁流が渦巻いていた河は、

今や浅く細い水溜まりを一筋残すばかり。


乾いて冷たい風が吹きつけ、

デレオの鼻の粘膜は

今にもひび割れそうだった。


「なんで、

こんな場所に木なんか生えてるんだ?」


デレオは川底いっぱいに広がる

玉石だらけの河床を見渡した。


砂と礫の中に、

一本の古木がぽつんと立っている。


枝には真っ赤な実が鈴なりに生り、

さわやかな甘い香りを漂わせていた。


にもかかわらず、

その幹と枝はまるで

火で炙られて乾ききったように、

ひび割れて枯れ切っている。


デレオの勘が告げていた。

この木は、おかしい。


手のひらより少し大きいくらいの

四眉ボケ鳥の群れが、

枝に舞い降りた。


彼らは血を塗ったように紅い実を、

ちゅんちゅんとついばんでいる。


数分もしないうちに、

鳥たちはみんな木の根元に

ぱたぱたと落ちていった。


「こいつら、苦しんでる様子はないな……」


デレオは好奇心に駆られて古木へ近づき、

一羽を拾い上げて確かめた。


小さな体はまだ呼吸しており、

掌にはかすかな体温と鼓動が伝わってくる。


「実そのものに毒はなさそうだが……」


デレオは実を一つもぎ取り、

鼻先に近づけて嗅いだ。


「すっごい酒の匂いだな。

枝になってるうちから、

ここまで発酵してるとは」

デレオは思わず笑みをこぼす。


「間違いない、ドラウトレントだ!」


彼は背負っていたバックパックを開け、

木の実を摘み取り始めた。


これはれっきとした絶滅危惧種だ!


ドラウトレントはレッドリスト入りしていて、

野外でお目にかかれるなんて

ほとんど奇跡みたいなものだ。


その実――じつは卵なのだが――は、

とんでもない高値で取引される。


学者、コレクター、飼育家、グルメどもが、

こぞって競り落としたがる品だ


――もちろん、裏ルート経由で、だが。


夢中で実をもいでいるうちに、

デレオは気づかなかった。


そばに転がっていた四眉ボケ鳥たちが、

一羽、また一羽と姿を消していることに。


代わりに、

さっきまでなかったはずの

浮き上がった根と、


そこら一面に散らばる羽根だけが残っていた。


「これだけあれば、かなり稼げるな!」


デレオはパンパンに膨らんだ

バックパックを肩に担ぎ上げる。


満足げにズボンの裾をぱんぱんとはたき、

ふと気づいて顔をしかめる――


いつの間にか、

足が樹妖の根に絡め取られていたのだ。


樹妖の枯れ枝が、

デレオへ向かってゆっくりと閉じていく。



「樹妖のエンブレイス」。


ゆっくりと、だが確実に命を奪う抱擁。


樹妖のしなやかで強靭な身体は、

斬撃も刺突もものともせず、

打撃もほとんど通じない。


デレオはギルドの注意喚起パンフレットで

読んだことがある。


大勢の戦士や格闘家が、

この抱擁の中で命を落としてきたのだと。


人間なんて、

ハエトリグサに挟まれたハエみたいなものだ。


そんな死に方、絶望以外の何物でもない。


デレオは木の根に絡め取られた

自分の足を一瞥し、


このまま長く締め付けられていたら

壊死するかもしれないと不安になる。


誰も助けに来てくれないなら、

いっそ手足を斬り落としてでも

逃げ出す覚悟を決めなきゃいけないかもしれない――


そうは言っても、

とデレオは周囲を見回した。


どうやらトレントの尖った枝が、

彼の退路をすべて塞いでしまっているらしい。


手足を斬り落としたところで、

逃げ場なんてどこにもない。


デレオはまるで鉄の処女アイアンメイデン

閉じ込められた囚人のようだった。


このまま待っているのは、

全身を棘で刺し貫かれ、

失血多量で果てる未来だ。


「焦っちゃダメだ……」


デレオは、

まだ比較的とがっていない場所を見つけて

腰を下ろし、

静かに休むことにした。


じっとしていれば、

いずれは飢えか渇きで死ぬだけだ。


しかも──

トレントはゆっくりと枝を伸ばし、

獲物を包み込むように取り囲んでいく。


鋭い枝をデレオの内臓に突き立て、

モズがトカゲを枝に刺して

干し物にするように、

自分の養分にするつもりなのだ。


「いっそ、火で焼くか?」


それなら、

このトレントの手から逃れられる

可能性はありそうだ。


だが、

火炎魔法でトレントに火をつけたら、

自分まで燃え広がってしまうかもしれない。


ひとしきり考えたあとで、

デレオは慌てることなく、

背中のバックパックに

引っ掛けてあった鋸を外した。


どうした?


荒れた山奥や密林の奥深くに入るとき、

ロングソードよりノコギリを

使う機会のほうが少ない、


なんて本気で思っているやつがいるのか?


ノコギリは人を斬るにはあまり向かないが、


道を切り開いたり建造物をぶっ壊したりするには、

最高に便利なアイテムだ。


ついでに、

機動力は低いくせに防御力だけは

やたら高いタイプのモンスターにも、

妙に相性がいい。


トレントの幹や枝の硬さは、

黒檀なんか軽く凌駕している。


アイテム士でもない者が相手なら、

腕の太さの枝を一本切り落とすだけで、

一時間はかかるだろう。


『スキル発動:《熟練》』


三分ほど経ったころ、

デレオは切り落とした枝を一本手に取り、


これを鍛冶工房に持ち込んで

武器の柄にしてもらうか、


それとも挿し木――というか断片繁殖――

してから売りに出すか、

真剣に悩んでいた。


一人でささやかな一攫千金の夢を

膨らませながら、


デレオは自分に伸びてきた枝をさらに

二、三本、容赦なく切り落としていく。


そのついでに、

自分の足を縛っていた根も

ざくざくと切り離した。



「よし、そろそろ退散だ!」


デレオは、烈焔犬のランプを取り出した。


そして、さっきの実を一つ取り出し、

ランプの中へと押し込もうとする。


かなり上等な餌だし、

そこそこのレベルの火炎魔法ぐらいは

引き出せそうだ――そう踏んで。


「……やめとくか。

こいつら、

もう絶滅しかけてるしな」


一体倒せば、

そのぶん確実に数は減る。


デレオはドラウトレントを見逃すことに決めた。


そして踵を返すと、

いつもどおりクレジットのことで

頭をいっぱいにしたアイテム士は、


干上がった溪の奥へと姿を消していった。




————————————————————————




「これで……勝負はついたと言えるかな?」

アングラ・マンユが、

ただ一つの大きな眼をぱちりと見開く。


「十分だろう。

実質的に、

樹妖にはもう勝ち筋が残っていない」

シヴァは慈悲深げにそう告げた。


「異論はない。

あの若者、

欲望に突き動かされるさまはまだ浅いが……

まあ、私としては満足だ」


波旬が酒をひと口あおる。


「では、あの樹妖も見逃してやろう。

なに、どうせ絶滅危惧種だ」


アフラ・マズダが立ち上がり、

場を見渡した。


「ちっ……まあ、

そういうことにしておくか!」


マーモンは不満げに舌打ちし、

配下の悪魔どもに命じた。


「来週は、

まだ絶滅しかかってない連中を

ちゃんと揃えておけよ」


———大したことではないこと———


マモンは地獄の七王子の一人で、

強欲を象徴する悪魔。


パンデモニウムは、

そのマモンが現場監督を務める

「騒がしき魔宮」的な場所である。


「四眉ボケ鳥」って、

本当に実在する鳥なんだよ。


——————————————————————————


ここまで読んでくださった閣下、たぶんもうお疲れですよね。

頭がぼんやりしたままだと、この世界の味が薄くなってしまう。

今日はもう寝ましょう。

明日、アレカがデレオにどんな面白い“アイテム”を用意したのか──また覗きに来てください。

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