序章 凍殺現場——彼女は動けない
凍え死ぬ前に、人はどれくらいの時間、
自分の人生を思い返せるのだろうか?
彼女は、
自分の息が白くなっているのを見て、
ようやく気づいた――状況がまずい、と。
ここは本来、熱帯気候のはずだった。
ほんの数分前まで、
外のモンスーン林は湿気と蒸し暑さに包まれていた。
しかし、この古代宇宙船の遺跡に
足を踏み入れた途端、空気の質が変わった。
『環境警告:現在の室温は推奨温度を大幅に下回っています。』
胸元にぶら下がった情報端末が、
冷淡な声で告げた。
レベルアップ、スキル習得、クエストの受注、さらには日常生活のあらゆる事柄まで、
この小さな端末を通じて管理されている。
「わあ……壁が凍ってる……」
薄い霜が壁に張り付いていた。
同行する研究員に付き添っている武装機動部隊も、この状況には驚きを隠せない様子だった。
彼らは同行の学者たちを不安にさせまいと、小声で戦術を話し合う。
そして、
腰に提げたアサルトライフルと拳銃のセーフティを、
いかにも何でもないことのように外した。
教授たちは黙って
魔法のエグゼキューターに祈りを捧げた。
魔法、呪い、召喚術が、パチンコに装填された石のように構えられた。
武装ヘリコプターが上空を旋回する音が、
次第に遠ざかっていく。
こんな世界では、
古代宇宙船の残骸の中で働くことも、
さほど奇妙ではないのかもしれない。
「この記録は君に任せよう。
これは君の卒業論文になるだろう。」
白髪の教授が振り返り、
ゴーグル越しに目を細めた。
彼女は無理やり微笑みを浮かべ、
冷たい空気の中で息を切らしながら答えた。
「はい。これまでの温度と霜の状況は全て記録しました。」
彼女は冒険者の神の祝福を受けたばかりで、
初期職業を手に入れたばかり、
スキルは一度も使ったことがなかった。
『聴力強化』――
クリシュナが彼女に授けた最初のスキル。
これが、彼女がこの考古学チームに選ばれた理由だった。
学院の学者たちが遺跡探検に出向くことは滅多にない。
彼らには危険を回避する能力が切実に必要だった。
彼らは遺跡の最後の暗号を解読したばかりで、ようやく『九宮盤』に接触できた。
事は重大であり、
今はあれを遺跡から運び出す方法を考えなければならない。
一切のリスクを負う余裕はなく、
政府派遣の機動部隊の護衛があっても、
まだ足りなかった。
彼女はぶつぶつ呟きながら、
分厚い手袋越しにポケットをぎゅっと握りしめた。
中には小さな布袋が入っていた。
それは神秘的な袋で、
幼い頃からずっと身につけていた。
触り心地が驚くほど良かった。
彼女はその柔らかい小袋を握りながら思った。
『もし期限通りに研究報告を提出できれば、
おじいさまも少しは安心するかな。』
彼女の家はこの国で名声高い一族だった。
彼らは学術界、政界、軍界に深く関わっていた。
きっと上空のあの武装ヘリコプターの中には、
彼女の祖父のコネで導入されたものもあるだろう。
そんな一族の一員としては、
彼女のレベルは低すぎた。
もっと経験を積みたいと思っていた。
だからこそ、
この危険な探検に自ら志願したのだ。
「教授、この低温は……自然現象ではないようです。
魔法の痕跡が強すぎます。」
先頭の機動隊員が懸念を口にした。
教授は顎を撫で、
霜の張った壁を軽く手で撫でた。
「うむ……どこかに氷結の罠があるか、
何か怪物が棲んでいるのかもしれん。
警戒を怠るな、
反ケルビン系のスキルをいつでも使えるよう準備しておけ。」
機動部隊のメンバーは頷いた。
アサルトライフルはすでに装填済み。
どんな怪物にも、
魔法エグゼキューターに祈る余裕など与えはしない。
廊下の突き当たりに、巨大な扉が見えた。
古代宇宙船の貨物室の入り口のようだ。
先頭の軍人が扉を開けた。
白——いや——淡い青色の霊光が一瞬閃いた。
「教授……っ」
彼女は声を出せなかった。
寒い、全身が痛むほど寒いと感じた。
断頭台に送られたかのように、刃が落ち、
もはや自分の体を制御することができなくなっていた。
蒼白い霜の表面が、
全員の輪郭をぼやけさせた。
全身のどの関節も動かすことができなかった。
膝も、腰も、手首も、首も、眼球でさえも、
全てが固まった。
目の前の光景は、
超現代アートと化した。
狂気に満ちた彫刻家が、
彼女たちの命を遺跡に刻み込んだ刻印だ。
彼女の意識は徐々に凍りついていった。
最後の最後に、
彼女が唯一感じ取れたのは、
母が遺してくれたあの小さな袋だった。
まるで誰かが袋の中に何か秘密を隠しているかのように。
その秘密が、微かに動いた。
古い宇宙船の大扉の前で、
彼女は他の十人と同じように、
永遠に動けない氷の彫像と化した。
もちろん、彼女は全く知らなかった。
すぐ近くに、
一人のアイテム士が遺跡の入り口に踏み込もうとしていることを。




