小説家 5日目
今日は、2025年7月14日。目覚めると、窓の外は灰色の雲が垂れ込めていた。冷房の音だけが部屋を切り裂く。昨日捨てたアイデアノートが、ゴミ箱の中にある。長編の野望は、確かに私を押し潰した。昨日感じた昂揚感は幻想で、空白はまた壁となって立ち塞がる。だが、7月10日に初めて小説を完成させたあの手応えだけは、微かに胸の奥で脈打っていた。
私は、机に向かった。画面は真っ白で、カーソルが無情に点滅する。キーボードを叩く。指は軽やかではないが、確かに動く。主人公は、小説家になって5日目の新人小説家。細部はまだぼやけているが、結末への道筋だけは見えた。300字を超えた頃、背中の熱が再び蘇る。空白は消えていないが、今はそれが怖くない。
保存ボタンを押した。画面には、生まれたばかりの原稿が並ぶ。短い一行、また一行。冷房の風が首筋を撫でるが、今日は鋭くない。窓の外で雨が降り出した。音が、鈍かった鼓動を優しく包む。明日も、きっとこの指は動くだろう。