ヒロアキ視点 1
「ヒロアキ、オーディション受かったよ。」
この一言が全てのきっかけだったような気がする。
僕の幼馴染で、高校入学と同時に告白し、晴れて恋人となった 風間サキ の夢は昔から「アイドル」だった。
普通の子はそれが夢だけで終わるものだが、サキにはそれを叶えられる美貌と雰囲気があったのである。
正直、自分にはつりあわないと思っていた彼女が、芸能人になれば更に距離が開くと思い、本音を言えば
複雑
な心境ではあったが、彼女の昔からの夢の第一歩である。僕は
「おめでとう。サキならきっと日本一のアイドルになれるよ」
と心とは反対のことを言っていたのである。
・・・・・
それから僕たちを取り巻く環境は大きく変化した。
まずはサキの転校である。僕たちが通っていた学校は俗に言う進学校である。
サキが芸能の仕事を行いながら、通学するのには無理があった。物理的な距離が離れてしまい、連絡はメール
と電話になっていったがそれすらも中々取れない状況になっていった。
「ごめん、今からレッスンだから・・・」「今日は取材が入っていて」「今が一番大事な時なの」
ということである。
僕なんかの考えでは、サキのような子であれば直ぐにトップアイドルになれると思っていたが、現実は厳しいらしい・・
サキクラスの子がぞろぞろいるのが芸能の世界。そこから這い上がるには目の前の『チャンス』を掴まなくてはならない。
その為にも、スキルアップのための訓練を行い、申し出があれば何処までも行って仕事をする。
それを当たり前のようにこなしながら、たった1回・・いやもしかしたらそんなチャンスは無いのかもしれないが「それ」を掴まなくてはならない。
と言うことであった。
サキの夢の邪魔はしたくない・・だから極力僕からの連絡はしないで、サキが連絡してきた時に、サキが弱音を吐きたい時に応えられるようと思っていた。
しかし、サキからの連絡もほとんど来なくなってきた。
そんなある日、僕の母親が倒れたのである。原因は過労であったが、入院し検査して分かったのだが母さんの体はボロボロであった。
僕の家庭は、俗に言う「母子家庭」であり、僕にとっての親族は母しかいない。
女手一人で僕を育て、高校まで進学させる苦労というのを僕は全く分かっていなかった。それなのに、バイトもせず、サキのことばかり考えて・・・
母さんに対する罪悪感で一杯だった。
ベットに横たわる母さん、まだ30代だというのにその顔には苦労と疲れが滲み出ていた。
「ヒロアキ」
「なに母さん」
「今までかまってあげられなくてごめんね。」
小さいころから 運動会、発表会等の行事事に母さんが来てくれたことはない。
「そんなのしょうがないじゃないか。母さんは僕のために働いてくれたんだろう。それが分かっているから感謝こそすれ恨んだことなんて一回も無いよ。」
嘘である。皆が家族で楽しく食事している中、コンビニの弁当を食べているとき何度も恨んだ。
「そう言ってくれてありがとう。でも私は母親失格。あなたには寂しい思いばかりさせてきたわ」
無言の僕に母さんは言葉を続ける・・
「でもね、あなただけが私の希望だった。宝だったの。だからあなたの為にと働いてきた・・・でも結局は寂しい思いばかりさせて・・これじゃ本末転倒ね」
「そんなのこれから一緒に居ればいいじゃないか。これからは僕が働くから・・母さんの分まで働くから」
何処で泣いたのかは分からなかった。母さんの言葉を聞いてか、自分で話しながらかは・・とにかく最後の方は嗚咽で言葉にはなっていなかった。
「ありがとう。でもねヒロアキ、これだけは忘れないで・・本当に大切な人、好きな人がいたら『その人のため』と理由をつけて離れないであげて。
その人にとって一番嬉しいことは『一緒にいること』なんだから・・寂しいとき、嬉しいときに一緒に居ることなんだからね・・・って私が言えることじゃないけどね」
もう何も言えなかった。ただ下を向いて泣くことしか。
そんな僕に母さんは優しく手を添えて微笑んでくれた。
・・・
それから数日後、母さんは亡くなった。自分の死期を悟っていたからあんなことを言ったのだろうか。
式は寂しいものだった。クラスの友達と母さんの職場の人は来てくれたが、親族は僕一人であった。
僕は、自分の父さんを知らない。母さんも話さなかったから聞いてはいけないことだと思っていた。
式が終わり、皆帰って僕と母さんの二人だけになった。母さんと居れるのは今日だけ。
明日になれば母さんには二度と会えなくなってしまう。
そうだ、サキにも連絡しよう。サキとは随分連絡をとっていない。それにサキも母さんには懐いていたから連
絡くらいはしたほうがいいだろう。
携帯を手に取り、連絡しようとしたとき
「ごめんください」
と誰か来たのである。
こんな時間にお焼香をあげに来てくれたのかと思いつつ、玄関まで行くとそこには高そうなスーツに身を包ん
だ男の人がいた。
「このたびはご愁傷様でした。お焼香させていただいてもよろしいでしょうか」
「はっ、はいどうぞ」
僕はその人を見て誰かに似ていると思っていた。
お焼香を済ませた後
「お顔を拝見しても」
と言ってきたので、僕は黙ってうなずいた。
誰だろう。母さんの知り合いなのか?まさか恋人?等と思っていると
「ユキコ、すまなかった。」と言いながら泣き出したのである。
ユキコというのは母さんの名前だ。もしかしたら・・・この人は僕の父さんかもしれない・・そう思った。
男の人はしばらく泣き続けた後
「取り乱して申し訳ありませんでした。」と言い、分厚い香典を渡して帰ろうとした。
「ちょっと待ってください。母さんのことを知っているのですか。」
靴を履いていた男の人に聞いてしまった。この人が母さんと「何らかの関係」があることは分かる。そしてそ
れを聞いてはいけないことも・・
しかし、聞かずにはいられなかった。
「やはりユキコは何も言っていなかったんだね。僕たちの関係を話すということには全てを知ることになるよ。それはとても辛いことだ。その覚悟はあるのかい」
そこまで言われて「やめます」と言う言葉を僕は持ち合わせてはいなかった。
初投稿が終わっていないのに2作品目です。こちらは 彼氏視点、彼女視点で話を進めていきます。全部で4話程度です。見ていただければ幸いです。