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4・ボス部屋脱出はあまり楽勝ではないのかもしれない

「私は、とにかくこの部屋を出てみる方を選択したい。立て籠もりを選択して実は浅い階層だったと言うのだけは避けたいと思っている」


 淡々と語るエミュ。


「浅ければ地上へ出られるし、そこそこであれば上層を目指して移動を試みる。深ければ……」


 俺はエミュの言葉をジッと聞いている事しか出来なかった。


「どの道死ぬ。早いか遅いかだけの違いだ」


 あっけらかんと言い切ってくれる。


「外に出てどの種のモンスターが徘徊しているのか確認できれば浅層かそうでないかは判断できる」


「そこそこ、もしくは深層だったら?」


「6層より上のモンスター1体なら2人居ればなんとかなると思っている。深層なら……なるべく逃げて逃げられたら此処へ戻ってくる。もし戻れたなら少ない時間を互いに語らって過ごすなんて言うのはどうだ?」


 ハリウッドスター張りの笑顔で微笑まれたら溜まらない。思わずOKしたくなるよ。


「逃げられない可能性も十分にあるし、再び帰ってきたこの部屋が安全である保証もない、と」


「そうだ、此処のリスポーン条件が『一度人が居なくなる事』と言う可能性もある。もう一度この閉じられた空間で巨大スライムと遭遇したら多分二人だけで倒すのは無理だ。それにこの部屋から出たら二度と戻って来れない可能性もある」


 どちらにしても茹でガエルは御免だ。


「分かったよ、とにかく一度外に出てみよう」

「うん、そう言ってくれると思ったよ」


 軽く微笑みポンと肩を叩く。美人の上司がやるとサマになるなぁ。


「さて、そうと決まれば次の問題なんだが」

「どうやって外へ出るか?」

「それだ」


 なるほど。

 エミュは転送トラップとやらで別の部屋から飛ばされて来た。俺は何処からか落ちてきて何故かスライムをかっ飛ばした。


 2人共まともに扉から入って来た訳じゃない。


「この部屋の出口を探そう」


 ウィル・オ・LEDの明かりは8畳間位の広さまではまあまあ照らせているのだけれど、ちゃんと見渡せば体育館並みに広いこの大部屋。巨大スライムは象位のサイズはあったらしいので部屋としてはこれくらいは必要なのだろう。


 俺とエミュは分散せず2人一緒に壁際をぐるりと巡ることにした。スタート地点はルオハレートが横たわる場所だ。


 何時でも戦えるよう剣を抜きその柄で軽く壁を小突き、音などの変化がないか探っていく。


 壁際を暫く進み気になった事をエミュに訪ねてみる。


「エミュ、この模様は文字なのか?」


 LEDで照らしてじっくりと見ると深緑色の岩肌の凸凹に白く滲み出した線の様な模様が壁や床あちらこちらに見える。


「そうだな、識者の見解は半々みたいだ。ダンジョンをもたらした異文明のメッセージだとか、単なる自然の作り出した意味のない模様だとかな、実際白い線模様の浮き出た石ころなんぞはどこにでも落ちているし文字にしては大きさもバラバラだしな」


 それもそうなんだが、俺が日本人だからか? 随所に浮き出ている白い模様がひらがなやらカタカナやら漢字の出来損ないの様に錯覚してしまう。


 ――――――あれは『も』に見えるな。こっちは『カ』だ。


 なんて考えながら進んで行く。


「ん?」


 エミュの訝しげな声。


「ここ、音が変じゃないか?」


「ほー……うっ」


 ゾッと寒気が走った。

「さわるな、エミュ」


 エミュが触ろう手を伸ばした先の岩肌に浮き出た文字が『毒』と書かれているように見えたからだ。


「どうした?クレオ」

 訝しげに聞くエミュに。


「その浮き出ている模様、俺の国の文字だとしたら『毒』と読む」


 息を呑む気配。

「なぜ、クレオの国の文字が?」


「解らん、偶然似ているだけなのかもしれん。ダンジョントラップに毒関係のものってあるのか?」

「毒矢が飛び出す仕掛けはあるな、歩くと毒状態になるエリアはあるそうだが床が紫色に光っているそうだ。触れただけで毒に侵される罠というのは聞いたことは無い」


 今、これがその最初の一つでないという保証はないな。


「毒に対抗する手段は?」

「毒消しポーションは持っている、ルオのバッグにも入っているはずだ、低層のドロップ品だからな」

「毒消しの魔法はあるのか?」

「あるが私はまだ覚えていない、回復系の魔法は取得が難しいんだ」

 あー……毒消しも怪我の治癒もイメージするのが難しそうだよな。

 でもワクチンとか抗生物質のイメージがある俺が覚えたら?少し興味が湧いてきた。


 まぁそれも生き延びた先の話だ。今は毒消しポーションが頼りか、やはり危うきには近寄らん方がいいな。


「今度は俺が前に立つ」

 位置を入れ替わった。もし次に『毒』の文字があれば俺なら判断出来る。

「……静かに」


 エミュが囁く。


 ?耳を澄ませば。


 …………カサ………………カサ……


 遠くで何かが蠢く音がする。


 エミュを見た。目線が合った。

 2人で音の方角に剣を構える。


 ジリ……ジリリと2人、左右に距離を取る。同時に襲われないようにだ。


 …………カサ…………カサ……カサ……


 次第に音は大きくなり。チラリと魔法の灯りに影が走る。


『ファイヤ……


 トリガーワードを発声し振り上げたエミュの片手に炎の線が浮かび上がる。


 アローー!』


 ピシュン!


 と音を立てるかのように炎の矢がエミュの手からチラチラと走る影に向かい真直線に飛んだ。


 キシャアアアァーーーーーー。


 嘘だろ?!


 鎌首を擡げて半身を起こしたのは人間ほどもあるでっかいムカデときた。


「ジャイアントセンチピードだ!牙に毒がある!噛まれるな」


 知ってたけどありがとー!


 落ち着け、落ち着け俺。


 背中に掛けておいたルオハレートの鉄盾を外し片手で構える。上が平らで下方に向けて丸みを帯びた辺を持つ逆三角、カイトシールドって奴だ。

 ヘビの如く鎌首をもたげて威嚇してくる巨大百足ジャイアントセンチピードの牙を盾を押し付けるようにして遮る。

 事前にエミュと決めた役割分担は攻撃アタックがエミュ、防御ディフェンスが俺。


 エミュも流石に剣の素人と連携を取る自信は無いと打ち明けてくれた。

 俺も剣をどう振り回したら良いか分からない。

 なので、防御を固めてエミュの少し前で捌けるだけ相手の攻撃を捌く事に集中する。

 エミュは俺の身体を盾として隠れながら少しずつでも相手を削る事に集中する。

 相手が一体ならこれで負けることはない、はずだ。


 もちろん俺もモンスターと闘ったことなんてない訳だが。

 女の子が闘って居るのに一人で逃げるなんて選択肢は無いんだよ!ビビってんじゃねぇゾ!テメーコノヤロー!

「クレオ!前に出過ぎるな!釣られて個別にヤラれるぞ」

「りょーかい!」


 上司の指示には従うのだ。


 エミュとの距離に注意しながら、なるべく攻撃の邪魔にならず、かつムカデ野郎の攻撃を盾で遮る場所取りを心がける。マルチタスクで結構大変なんだ!


 結構長い事闘ってた気がする。


 エミュの剣先が何度かいい感じにヒットし、ムカデ野郎の二本の触角や黄色い脚が何本も散らばり。動きが鈍くなったあたりでもう一発ファイヤアローを顔面にブチかましたら奴さん、逃亡モードに入りやがった。


「逃がさん!」


 敵前逃亡かましたムカデの尾を短剣で突き刺してやった。


 ズブリ。


 濃い青緑の甲羅は意外にもカニの甲羅程度の硬さで体重を乗せたら直ぐに貫通した。


「クレオ、こっちへ来られるか?頭を押さえてくれ」


 尾の動きを止め、エミュが踏みつけるムカデの身体の向こうに行けば、エミュの剣が鰻の頭を目釘で止めるようにムカデの首に突き立っていた。

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