13・『壊』
ゴブリン共を焼いたら壁に『壊』の文字が浮き上がっていた。
これまでも『矢』とか『穴』とか『罠』の文字を発見し事前にピンチを切り抜けてきた。
エミュも何度も日本語の文字を見慣れて自ら積極的に「これはクレオの国の文字ではないのか?」と聞いて来たりもしている。
まぁ文字に見える模様であったりがほとんどだったのだが今回に関しては間違いなくビンゴだ。
「ああ、これは『壊』という文字だ」
言葉で伝えればエミュはその意味を理解できる。スキル”言語理解”はいい仕事をしている。
「壊……ということは」
「そうだな、この壁は破壊できる……はずだ」
「そうか……」
一言漏らすとエミュは骸骨騎士の剣を両手に持ち大きく大上段に振りかぶった。大きく息を吸い込んで。
「チェストォォォオッツ!」
床が抜けるのではないかと思うほどの踏み込みと共に振り下ろされる剣先は真っ向唐竹割り。
積み上げたブロックを崩すかの様に縦長に壁が割れその隙間から向こう側の空間が見えた。
焼けていない新鮮な空気が流れ込んでくると共に。
「ぎゃぁあああああああああああ!」「きゃあああああああああっ!」
誰かの恐怖に彩られた叫び声が聞こえてきた。
まぁ、歩いていたら横壁から突然剣が生えてきた件。
だれだって驚く、俺だって驚く。
「壁の向こうにあるは誰か?! 我は侯爵カミュモニール・アダンテが直孫エミュファレータである! ダンジョンの転移罠から只今帰還した! 至急おじい様に我の生還を伝えよ!」
「ふわっ!? 行方不明のお嬢様っ? 我らは小荷駄十二番隊であります! 至急伝令を飛ばし監察官殿の指示を仰ぎます故しばしのお待ちを」
「待てん! この壁を砕いてそちらへ参る! 壁面から人員を退けよ」
言った端からエミュは再度剣を振り上げた。
◇
◇
◇
エミュ以外の異世界人との接触。
異界人は皆様エミュみたいな美形ばかりかとも思った時期もありました。が、殆んど元の世界の一般ピーポーと変わり無かった。
西洋人風と東洋人風が混ざってるなーぐらいな感覚だ。
こちらの人の美的感覚は分からないがエミュがやはり飛び抜けた美人で有ることはよく分かった。
俺とエミュは小荷駄隊に護衛されダンジョン内を進んでいく。周りに人がいるというだけでこんなに安心できるんだ、二人だけでダンジョンを歩いて居たときにはいかに神経を研ぎ澄ませていたのか。
小荷駄隊の隊長さんから水と硬いパンというか柔らかいクッキー的な携行食料の提供を受けたので有り難く頂く。仄かな甘さの炭水化物の塊がべらぼうに旨い。
サバイバルの時甘味が欲しくなる気持ちというのが痛いほどに解った。
一度水ようかんの缶がドロップしたときエミュと分けて食べてそのあまりの美味さに二人で悶絶しながら転がって騒いだっけ。
エミュはバッグから飛び角ウサギの干し肉を出して周りに振る舞っていた。
ついさっきまでの俺とエミュの主食だ、初期のタイミングで醤油のペットボトルがドロップしてくれて助かった、肉の味だけだったら気が狂っていたかもしれない。
エミュは歩きながらも矢継早に隊長さんから現在の外の状況について確認しているみたいだ。
後ろで聞いていて解ったのは小荷駄隊と合流した地点はダンジョンの三層だったらしいと言う事。
逆算すると俺とエミュが出会った0層は=六層だったということになる。
エミュとルオハレートは六層目に踏み込んで直ぐに転移罠に嵌って飛ばされたと言うことだから、同じ層の別部屋に転移していたんだな。
三層から二層にまたがる安全地帯は階段状の地形で寝るところは確保できなさそうだった。
この辺りのモンスター構成はホブゴブリン、各種ゴブリン、ウルフドッグ、羽蟲、人ほども有るゲジゲジ。
単体として厄介なのはホブゴブリンぐらいだが、数が多く飛び回る羽蟲が結構面倒臭い相手みたいだ。が。
『ファイアボール!』
先頭を突き進むエミュの片手から噴き出す爆炎が羽蟲を一瞬にして焼き払う。
俺の出番は全く無い。
十二番小荷駄隊は七、八人を空荷にし伝令として先行させ残りの十数人+エミュ、俺と二手に分かれる形になったがやもすれば先行隊に追いつきそうになる位サクサクと進んでいく。
貴族の魔法の威力のお陰だ、しきりに隊長さんが恐縮している。一般人は魔法が使えないか使えても威力が弱いらしい。
戦闘で怪我をした隊員にはエミュからヒールポーションが渡され即回復。驚きの表情で恭しく押し頂いている姿を見れば、多分地上ではそれなりに価値があるんだろうなと思う。
飲料水代わりに何本飲み干したっけ?
調査もマッピングも必要無く恐らくは既知のルートを最短距離で出口に向かって居るのだろう。門外漢の俺としては黙ってついて行くのみだ。
確実にこれまでの最速記録で一層まで駆け上った。
そして。
「外だ~~~」
何日かぶりに太陽の光あふれる外界へ出ることが出来た。
あー。お日様~暖かい~。手を庇に辺りを伺えば石造りの壁に囲まれた外国の庭園の様な風情。
空は果てしなく蒼く遠い、僅かにたなびく白い雲。涼し気な風が頬髭を撫でていく。体の周りを覆っていた薄皮がするりと剥けていくような錯覚に見舞われる。
外気はダンジョンの内よりいくらか乾燥している感じだ、胸いっぱいに吸い込む空気がうまいのなんの!
傍らを見ればエミュも”感無量”の表情を浮かべ、同じように深呼吸をしている。
指の背で瞼を拭っている。
そうだよなぁ。二度と見られないかもしれなかった景色だもんなぁ。
うっかりもらい泣きしそうになった。
互いの健闘を称え合おうと声をかけようとした、その時だった。
「エミュゥウウ! エミュファレェェタァア!」
甲高い声で駆け寄って来る若い男の姿があった。
「!イーザァーーーーッ!」
エミュも弾かれたように駆け出して行く。
イーザ?……ってたしか。エミュには婚約者がいて確かそいつの名前がイーザステラとか言ってなかったか?伯爵家の嫡男とか何とか。エミュの生還を信じてずっと待っていた……といった所なんだろうな。
「エミュー!」
「イーザ!」
抱き締め合う瞬間。
俺は二人から目を逸らした。
感動の再会。
おめでとうエミュ。
まぁ年ごろの貴族の娘さんなんだから婚約者ぐらい居て当たり前だよな。
うん、よかったよかった。
大きく息を吐きながら盾と剣を地面に置き、鉄兜を外そうとしたその時だった。
「兄さん!」
?
こちらに向かって駆けて来る一人の若い……女性?
エミュ程とは言わないけれど背中まで伸びた栗色髪の美人さんが笑顔で涙を散らしながら走ってくる。
「兄さん! ルオ兄さぁあん!」
あ……!
俺の胸に飛び込んできた可憐な花の様なその女性は。
直ぐに違和感に気づいたのか俺の顔を除き込んだとたん。
「……あ、あなたは、誰?」
愕然と呟いたその顔はダンジョンで初めて出会ったとき既に息を引き取っていた、俺の身に着けている鎧一式の正当な持ち主、ルオハレートによく似ているような気がした。




