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~走り出した運命~

 桜田との商談を終え、原田達が待つ所へ戻ってくると、そこには知らない人が増えていた。

「どうも、白薔薇のメンバー、原田大正のメンテナンス兼、ガールフレンドをしております。森谷 和実っす」

 軽いノリで、敬礼のような動作をして見せる、カラフルな色の服を着た女性が「てへっ」なんてブリっ子のような感じで、美弥と津村に挨拶し、そんな森谷を見て、正義はわざとらしくため息を漏らした。

「無茶すんなって、どんなにキャラ作ろうが、年増が高校生に勝てる訳ないだろ」

「あっ、酷い。私だって、まだまだイケイケです!セーフです!」

「イケイケとか言ってる時点で、もうアウトなんだよ!」

「ウワーン、ヒロ~、正義がイジメてくるよ~」

 そう言って駆け寄ってくる森谷から本気で逃げる藤田。

「勘弁して下さい。俺もちょっと、無理です」

「なんでよ~」

「わかんないですけど、なんとなく!」

 追いかけ回される藤田と追いかけ回す森谷。そんな中、メンバー登録を済ましてきた大正が戻ってきた。

「お~ぃ、全員集まれ~」

 大正の登場に、何故か藤田が大正の背中に回り込み、追いつめたと言わんばかりに「フッフフ」と笑いながら、森谷がジリジリと歩み寄り、大正が暴走する「いい加減にしなさい」と森谷を止めた。

 全員が揃い、落ち着きを取り戻してようやく、今回、桜田と商談をした事を藤田が伝えた。

「だから、今回pink pantherに負けたら、俺とマサ、横に座っている二人が、カイボーに入部しちゃいます」

「別にいいじゃない。一年間、我慢してたら、あの倉庫が手に入るのよ」

 口を尖らせ、元カイボー部の森谷が言うが、正義が断固拒否した。

「冗談じゃない。なんで、俺があんなリーゼント野郎の下部(しもべ)にならにゃ、いけないんだよ!」

「あんたも、少しは使われる立場の考えを理解しろってことよ」

 睨みつけてくる正義のデコを、指で弾く森谷。睨み合う二人を落ち着かせようと、大正は「とにかく!」と声を張り上げた。

「俺達は、勝負を挑まれたんだ。それに、そんな事とは関係なく、俺達は、負ける訳にはいかない。白薔薇の名を汚すような事は、したくないしな。・・・今回、俺達は、勝ちに来たんだ。どんな勝負を挑まれようが関係ない。勝たなきゃ意味がない。勝てば物を得る。負ければ何かを失う。ただそれだけだ。ようするに簡単な話だ。・・・勝てばいいんだ」

 座っていた大正は、演説を始め、立ち上がり、勝つという単語を正義と藤田、森谷に刷り込み始める。

「よ~し、今年の一発目だしな。テンション上げて行くためにも、『あれ』やりますか」

 大正はそう言って、人差し指を出して、上に上げた。

「おぉ!さすが兄貴、いいねぇ、久しぶりだ」

 正義は、勢いよく立ちあがり大正のまねをするように、人差し指を上に上げ、後から続いて藤田と森谷も立ち上がり、人差し指を上げた。

「おぃ、何やってんだ?早くしろ」

 藤田は、下に蹲って成り行きを見守っていた二人に声をかける。

「えっ?私達もやるの?」

「当たり前だろ。どんな成り行きがあろうと、今、俺達とお前等は、運命共同体になったんだ」

 美弥の言葉に、そう言いながら無理やり輪に混ぜる藤田。渋々、みんなのまねをして、二人は人差し指を立てた。

「でも、やり方、分かんないし・・・」

「簡単だ。ただ4を英語で叫べばいいだけだ」

 訳のわからない説明に、戸惑う美弥と津村を横に、大正が声を張り上げた。

「every rose has its thorn . one two three!!」

 訳のわからない単語を並べられ、唯一わかった数を数える言葉すら速いテンポで、パニックになる二人は、置いてきぼりを食らい、残りの三人が低い声で「four」と叫び、遅れて二人が「フォー」と叫ぶが、完全に出遅れていた。

「ヨッシャーァ! Go die go!!」

 テンションの上がった状態で、正義はカイボーに乗り込み、遅れて大正も、もう一台のカイボーに乗り込んだ。

「じゃ、行ってくる」

 カイボーに乗り込んだ大正は、手を上げて、暴れる弟の背中を押しながら、会場へと向かって行った。

 こんな馬鹿な事をしているのは、ここだけだろうと思いながら、周りを見てみると案外、他のカイボーを着た人達も、それぞれの掛け声を叫び、男性特有の声を張り上げるチームもあれば、なにやら殴り合いをするチームまでいた。

「ねぇ、今のどういう意味?」

 取り残された藤田に、美弥は、さっきの言葉の意味を尋ねるが「わからん」と肩を竦められた。

「最初の言葉は、兄さんが適当に考えてくるんだ。唯一、共通してるのが、最後に数を数えるってだけ」

「そうなの?」

「そうなの。でも、テンションあがっただろ?」

 言われてみれば、確かに上がった気もするが、全くテンションが上がったように見えない藤田に言われても、説得力がなかった。



『excellent and Beautiful !!それぞれの胸の響きが、こっちにまで伝わってくるゼヨ!こりゃ、俺っちも、どけんかせんといかんやろ~。張り切って行こうぜ』

 スピーカーの下に設置された画面には、大きなパイプの中に数台のカイボーが、スタートラインの前に集まりだす所が映し出されていた。

 藤田と森谷は、ポケットから小さな機械を取り出し、地面に落した。下に落ちた機械は、二人の前にいくつもの映像を映し出した。

「contact.マサ、聞こえるか?」

「おぅ、バッチリ。視界も良好、そっちの映像は乱れてないか?」

「問題ない。今回は、お前が守護者だ。しっかりと兄さんを守れよ」

「了解」

 藤田の前には、正義の視界と、カイボーの損傷個所を示す映像が映り、藤田は忙しそうに、その画面をいくつもタッチして操作をしていた。横で森谷も同様、大正と通信を開始し、何故か、今度のデートの約束をしていた。

「じゃぁ、今度は、温泉に行きたいな~」

「あぁ、仕事の休みが合ったらな」

「はいはい、フリーターの私は、特に問題ありませ~ん」

 森谷も、そう言いながら、映し出された画面を操作し始める。

「田村、翠。悪いけど、今は、お前等の相手出来ないから」

「そぅそぅ、あれ何?とか、これ何?とか質問して、ヒロを困らせるなよ~」

 藤田の悪びれる言葉に、画面から相槌を打ちながら正義の声が、聞こえてくる。もちろん、忙しそうだという事は、重々承知している。だが、正義に言われると、なんだか腹が立つ。

「まぁ、軽トラの荷台に、椅子があると思うから、そこらで座って見てなさい」

 森谷にそう促され、二人は軽トラから丸椅子を取り出し、画面を操作し続ける二人の邪魔をしないように、座っていた。


『さぁて、今回の注目株は、何といっても隣町からわざわざ、この会場に殴り込みに来た、狛犬。モデルCAN。そして、今回で見納めのpink pantherモデルPAN。そして、去年創生された白薔薇モデルは、何とJAP。超レアな機体を2体も揃えての登場』

「まぁ、レアって言うよりは、好き好んで使う人が、いないってだけだけどね」

 熱のこもる歯取の実況に、森谷は冷静に訂正を入れた。

「ねぇ、モデルって何だっけ?」

 横に座る津村に仕方なく質問をする美弥だが、津村も知らないと肩をすくめる。

「モデルってのは、作られた場所や動物の頭文字を付けてるだけだ。例えば、桜田さんは、豹をモデルに作られてる。Pantherの頭文字3つを取ってPAN。俺達は、日本製をメインに謳っているからJAPだ。」

「お前等、そんな事も知らないのか!」

 藤田の前にある映像からは、正義の激が飛んでくるが「集中しろ」と藤田に渇を入れられた。

「桜田さんのカイボーは、スピード重視。だから、足も細くてすばしっこい、攻撃性は低いが、逆に、狛犬は攻撃重視、全体的に太く作られてる。その分、スピードが落ちるが、防御性がある」

 映像には、狛犬のチームで三体のカイボーが映し出され、全体を黒と赤茶色で染められ、顔には、二本の牙がデザインされている。

「そんで、俺達は、その中間をとった物だ。オールラウンドって言えばいいのかな?モデルは人間だ」

 映像には、ピンク色のカイボーが映り、周りには色々なカイボーが仲間同士で蠢く中、ピンク色のカイボーは、一体しかいなかった。

 何でもあり徒競走では、attackerやdefenderそしてrunnerと役割分担し、ゴールを目指すのが主流で、二人しかいない原田兄弟も珍しいが、一人しかいない桜田は、映像から孤独感のような物が伝わってくるようだった。

『さぁ、カウントダウンもそろそろ、十秒を切るぜぇ~・・・』

 十秒前になった途端、歯取はカウントダウンを開始し、映像を見つめる二人も息を潜めた。


『Get set! GOOOO!』


 歯取の掛け声と、大きな電子音によって、スタートの合図が切られ、スタートラインに立っていたカイボーは一斉に走り出した。










 



『走者一斉にスタートを切り、どこへ行く~?向かう先は、ただ一つ。天に浮く女神の鐘よ!早速、集団グループから抜け出したのはパンサーだ。それに続いて、原田兄弟。黒の三連星、狛犬はさっそく、カイボーを一台、撃破して後に続く!』

 スタート早々、狛犬は、前を走っていたチームに食らいつき、活動を停止したカイボーは、体をジェル状の液体で包み込み、中にいる人を保護した。

『人工筋肉は、本人の危険を察知すると、破裂し中の人を守るように出来ていますぅ。そして更に、衝撃吸収を備えるべく、液体で包み込むだけでなく楕円形の球体となって、その場に留まります』

 一体、誰に説明しているのか、わからないが歯取は、カイボーの仕組みを説明しながら、実況に専念した。

「マサ、左辺後方、カイボーが近づいてる。モデルBIS」

「確認した!」

 大正の背中を付いて走る正義は、ローラーを走らせながら後ろを振り向き、牛のような形をしたカイボーの両肩に飛び乗り、カイボーの首元に付く本人とカイボーを繋ぐ、電極を人差し指で千切った。

 すると、電極を失ったカイボーは、体からジェルを吹き出し、正義は素早く、飛び退き、大正の後ろに付いた。

『エクセレント!一撃必殺。原田兄弟の弟アクセルが、一体のバイソンの首を切り沈めた。さすがはモデルJAP。金城を思い出させる動きだ!そして、先頭集団は、パンサー、白薔薇、狛犬、バイソン、そして・・おぉっと残念、スパイダーも先頭集団に噛みついていたが、狛犬に撃破されてしまった。先頭集団はこの4チームに絞られ、優勝争いは、このグループに絞られていくでしょう』

 しばらく直線が続いていたパイプだが、次第にカーブが出始める。丸いパイプの中を走るカイボーは、壁があればどこでも走れるようで、横だろうが天井だろうが、無重力空間を思わせるような滑りで、中継画面を見る二人は歯取の実況と映像に釘づけになった。

 そんな二人は「危ない」とか「いてっ」とか短い単語しか呟かず、藤田と森谷は、原田兄弟に指示を出していた。

「大正、右からバイソンのランナーが来るよ」

「マサ、ディフェンダーの実力、見せてやれ」

 二人の指示通りに動きを見せる原田兄弟は、兄弟ならではの動きを見せ、接触すれすれの動きに、歯取や客を魅了していた。

「マサ!狛犬だ。後方からアタッカー」

「大正、マサの動きに合わせて、上に飛んで!」

「「了解」」

 呼吸を合わせた二人は、後ろから突撃してくる狛犬を上に飛んで交わし、その後ろを走るランナーを正義が蹴り飛ばした。

「グアァ!」

 狛犬と一瞬接触した際に、ランナーの声が無線を通して聞こえてくる。ランナーを失った狛犬は、一度、原田兄弟から離れ、体制を整えた。

「大正、パンサーから離れてるよ」

「問題ない。すぐに追いつく!」

「マサ、左足のフレームにひびが入った、支障はないか?」

「無い。くそっ、やっぱ狛犬のフレームは堅いな」


 正義の攻撃で、先頭集団から置いてかれた狛犬のランナーは、後に続いていたバイソン二体に、サンドイッチにされ、一瞬にしてジェルになっていた。

『おぅおぅおぅおぅ、かなりエグイシーンを見ちまったぜ。でも、そんなの問題ナッシング!世界一安全なスポーツなんだからね。これぐらい過激さがないと物足りないって言うんだよ。さぁ、そうしてる間に、もう終盤戦だ。3つのチームが、優勝を争い、競い合う。三つ巴の頂上決戦!先頭を走るのは、ピンク色が超プリティ、ピンクパンサー。その後追うのは、触ると棘のある白薔薇、原田兄弟。そして、バリバリの戦闘集団、狛犬・・その後を追いかけるのは、こちらもエグイ戦闘集団、バイソン。三つ巴で、やられた選手は、間違いなくバイソンで、お陀仏だ・・・おぉっとぉ?先頭グループが走る先に、機影が一体、反応したぞ?故障か?』

 歯取の謎の言葉に、藤田もモニターでチェックをする。すると、先頭グループを待ち構えるように、一体に機影が確かに、存在していた。

「まさか・・・」

『おぃおぃ、まさか、これはひょっとして~・・・』

「マサ!まずい、前方にゴースト!」

『ゴーストだぁぁぁ!モデルJAP、機体番号001。今年は、ハッピーな年になりそうだ。今年一番の試合でゴーストをお目にかかれるとは!』

 桜田を先頭に走り続ける集団は、進むべき道の先に、一体の真っ黒なカイボーを発見した。

 正義は、前を走る桜田に向けて一本のワイヤーを手首から飛ばし、桜田のカイボーにくっ付け、桜田のカイボーに直接無線をリンクさせ、叫んだ。

「桜田!避けろ、ゴーストだ!」

「ゴーストっ!」

 ワイヤーが外れると同時に、原田兄弟と桜田は、左右に飛び退き、逃げ遅れた狛犬とバイソンは、ゴーストと呼ばれるカイボーに向かって行ってしまった。黒いカイボーは、腰に付けた銃を取り出し、向かってくるカイボーに向けて引き金を引いた。

 狛犬とバイソンのディフェンダーが面に立ち、両手を前に広げてシールドを展開するが、ゴーストのエネルギー弾の威力に押し負け、シールドは音を立てながら壊れ、後ろにいた仲間を巻き込みながら、体から血のようにジェルを吹き出し倒れた。

 銃を連射するゴーストの隙を突き、横を通り過ぎる桜田と原田兄弟。そして、突然の乱入騒ぎに、兄弟は回線を繋いで会話をしていた。

「なんで、ゴーストがここにいるんだよ」

「俺が知るか!マサ、次に奴がこっちに来たら、俺が引きつける。その隙に」

「黙れ、馬鹿兄貴。今回は、俺がディフェンダーだ。奴を倒すのは俺だ!」

 どっちが犠牲になるかで言い争いを続ける原田兄弟。

「そんな下らない事で、一々喧嘩なんてしてんじゃないわよ!馬鹿兄弟」

「あぁ、その通りだ。それに今回のディフェンダーは、マサだ。マニュアル通りに行こう」

「その通りだ。ざまぁ見ろ、馬鹿兄貴」

 大正の視界に移る、正義の顔は、憎たらしい顔をして見せて、反論の出来ない大正も負けじと、変な顔をやり返し、その馬鹿兄弟のやり取りを見て、森谷は大爆笑していた。

「おぃ、そんな事してる場合じゃないぞ、ゴーストが、動き出した。接触まで、およそ20秒。相変わらず、早いな・・・」

 モニターには、原田兄弟を示す二つの点と、その横を走る桜田の点を追いかけてくるゴーストの点が次第に三人との距離を縮めてきていた。

「頼むぜ~兄貴、桜田に負けたら、俺達は、ピンクパンサーの仲間入りだ。そんなの絶対にやだからな」

「任せとけ、俺は絶対に負けない」

 走り続ける大正の肩を軽く叩くと、正義はスピードを緩め、完全に停止し向かってくるゴーストを待ち構えた。

 ゴーストが曲がり角を曲がると白いカイボーが、待ち構えている事に気付き、急停止し、銃を構え、正義はシールドを展開し、腰に付けてあったサーベルを手に取った。

「前回は、不意打ち兼、5秒でジェルにされたからな。今回はそうはいかないぞ」

 ゴーストは、銃の引き金を引き、攻撃に対しシールドを使って避けながら、正義はサーベルを手に、ゴーストに襲いかかった。



『さぁて、まさかのゴースト登場で試合は狂いに狂ったが、試合を放棄したアクセルが、ゴーストとの戦闘を開始している間に、ピンクパンサーと原田兄弟の長男、お山の大将が一騎打ちという展開になった。ゴーストとアクセルの戦闘も目が離せないが、こっちも目が離せない。残りは、太いパイプの一直線のみ、速さを誇るモデルPANが有利か?・・・と、言いたいところだが、どうやらそうでもないみたいだ。みるみる距離を縮め迫ってくる、お山の大将。これは、一体どういう事だ?』

「当り前だ。オールグランドを舐めんなよ」

 正義が、ゴーストとの戦闘に破れ、目の前に映し出された映像が消えて、暇になった、藤田がそう呟く。

『疲弊?・・・そうか、遂に人工筋肉が、悲鳴を上げ出した!速さを追求するモデルPANは、人工筋肉はもちろん、乗っている本人にもかなりの負担が、圧し掛かる。自分の足には、乳酸が溜まり始め、人工筋肉は、疲弊をし始めた。それに引き換え、モデルJAPは、飛び出た特徴は無いが、唯一あると言ったら持久力。おぉ、シット!これまで実況をしていた俺がこんな所で学ばせられるとは・・・奥が深いぜ、カイボー君!』

 息が乱れ始める桜田の目には、向こう先に見える天井から下がった鐘だけだが、その桜田の横に、大正が遂に並び歯を食いしばりながら、スパートのタイミングを測っていた。

『並んだぁぁ!遂にお山の大将がパンサーと並んだ!直径20mのパイプで、二人が遂に並び、パイプの天辺からぶら下がる優勝の鐘を目指して走り続ける。そして、アクセルの大健闘によって、ゴーストは姿を消し、アクセルは楕円形のジェルに身を包まれている。こっちの映像も見たかったが、今はそれどころじゃない!』

 頭一つ分、前に出て来た大正に気付き、さらにスピードを上げようとする桜田だが、体とカイボーが悲鳴を上げ始め、悔しそうに小さく声を洩らす。

「けど・・・負ける訳には、いかないんだよ!浩と原田は俺の物だぁぁ!」

 気迫で、桜田は大正のペースに合わせ、距離を縮め始める。大正も、距離を縮め始めた桜田に気付き、ラストスパートを入れた。

「元カイボー部だから、どうにかしようと、する気はわからんでもない。けどな、カイボー部のOBとして、後輩に負ける訳には、いかないんだよ!ボケっ」

 桜田は、金色に輝く鐘を目指し、大きくジャンプし、大正は、パイプの反りたった壁を登り始める。

あと少しで優勝の鐘が手に届くと、手を伸ばす桜田。だが、壁を登ってきた大正が、その鐘を目指し、桜田の横から奪い取ろうと手を伸ばす。




 勝利の鐘を手にしたのは、大正だった。大正の手に鐘が掴まれた瞬間、ゴールの鐘の音がパイプと、観客のいる会場に鳴り響き、歯取の絶叫する声が、鐘の音に負けじと聞こえてくる。

 鐘を目指して飛び出した大正と桜田は、空中でぶつかり合い、二人のカイボーから、ジェルが飛び出し、地面に叩きつけられる前に、丸い球体となって地面に落ちた。

『ブラボウ!エキセントリック!鐘を手にしたのは、白薔薇、原田兄弟の長男、お山の大将!そして、大健闘、ピンクパンサーのパンサー。今年一番の試合としては、上々の出来だぜコノヤロー。鳥肌もんのいい物を見せて貰ったゼヨ!・・と言う訳で、歌います』





 会場からは、バラード調の歯取の歌が聞こえ、会場から離れた軽トラの前には、正座をさせられる原田兄弟と、その前に立ちはだかる電卓を手にする藤田と胸を大きく張る森谷がいた。

「人工筋肉を全部おじゃんにして、その上、兄さんはフレームも取り替えが必要な部分が数枚、マサに関しちゃ、ゴーストにボコボコにされて、無事なフレームを探す方が難しい・・・。こりゃ、優勝賞金も全部パーだ。むしろ、赤字」

 ため息をつく藤田に、申し訳なさそうに肩を落とす原田兄弟。

「正義、あんたはなんで、試合放棄してまでゴーストと戦おうとしてんのよ。もしかしたら、ゴーストは、パンサーの方に行くかもしれなかったじゃない」

 藤田は、森谷の指摘に対し「俺は一応、止めたんだけどね」と釘を打ち込み、正義は「いや・・その」と曖昧な言葉しか出す事が出来なかった。

「大正、横で弟がやられてるからって、笑ってるけど、あんたもそうよ。なんで、パンサーを倒さなかったのよ。確実に倒しておけば、あんたはジェルにならなかったのよ」

「いや、さすがに女性に手を上げると言うのは、いささか男としてのプライドをだな・・」

「ちなみに、狛犬のメンバーは三人中、二人が女性です」

 レース中に「死ね」とか暴言を吐きながら、狛犬と戦っていた大正は、藤田の指摘に反論できずに肩を落とす。

「ようするに、自分の感情を抑えきれなかったのが、今回の敗因ね。この馬鹿兄弟!」

「まぁ、今回は今年初めての大会だから、仕方ないけど、毎回、大会でこんなにカイボーを滅茶苦茶にされたら、正直に俺、泣くからな」

 まぁ、泣くくらいなら別にいいよなと、心で会話する原田兄弟だが「メンテナンスを二人にやらせる」と藤田が言った途端、二人は頭を下げて「それだけは勘弁して下さい」と言ってきた。


 反省会を無事に終え、正座をし続ける二人をそのままに、藤田は荷台の中へと入って行くと、簡易な布団の上に気を失った桜田を寝かせ、それを看病するw・村長がいた。

「まだ寝てんのか、桜田さんは」

 藤田の問いかけに二人は、軽くうなずき、看病する二人の横で荷物をあさり始め、紙を数枚手にする藤田に、それは一体何の紙かと、質問好きな美弥は問いかけた。

「何それ?」

「何って、注文書・・・風が吹けば桶屋が儲かるって奴だよ」

 藤田はそう言い残し、外に出ると正座する二人とその二人を叱咤する森谷に「営業行ってきます」と言い残し、賑やかな会場の方へと向かって行った。





 会場には、いくつものチームテントが並べられ、その中をカイボー専門店の藤田が歩けば、優勝おめでとうと言いながら、客が寄ってくる。そんな中、チームテントの一つから、藤田を呼ぶ声が聞こえ、そのチームテントの中に入って行った。

 テントの中には大きなソファーが置かれ、中央に黒いランニングシャツを着て、そのランニングシャツの下には大量の傷を作り、髪の毛を真っ赤に染めた男が座り、その両サイドには、長い髪を腰まで伸ばした双子の女性が座っていた。

「よぉ、ブレーキ。優勝しやがってコンチクショウ。俺がバイソンにサンドイッチにされたの見たかよ」

「そんなの見てられるほど、暇じゃなかったですからね・・ご愁傷様です。狛犬さん」

「ゴースト登場のお陰で、こいつ等のカイボーまで、ぶっ壊れちまった」

 両サイドに座る双子の肩に手を回しながら、狛犬はそう言い、藤田は申込用紙を取り出すが、狛犬は首を横に振った。

「ブレーキ、白薔薇から独立するんだったら、俺の所に来いよ。こいつ等だって喜ぶ」

 無表情の双子が首を縦に振りながら、親指を立てて藤田に突き出すが、藤田が首を横に振ると双子は、その親指を下に勢いよく下ろした。

「俺とマサを取り込む事は、出来ませんよ。狛犬」

「俺の誘いを断るのか、ブレーキ?」

「俺達は、楽しく走れりゃそれでいい、マサはどうか知らないけど、俺はそう思ってる」

 藤田はそう言い残し、テントから出ようとすると、狛犬から「待て!」と叫ばれた。

「待て、注文書を置いてけ、後で郵送する」

「毎度、ありがとうございます」

 狛犬に注文書を渡すと、藤田はテントから出てきて、営業を再開した。



「あっ、気がついた」

 そんな声が聞こえ、目を開くと視界には、真っ暗な天井と心配そうに窺う津村と、目を輝かせる美弥が映った。

「あれ?・・俺、負けたんだっけ?」

「ここは、白薔薇の荷台の中です。桜田先輩、大丈夫ですか?」

 本当に心配そうに聞いてくる津村。そして、目を輝かせていた美弥は、何を血迷ったか、変な発言をしてきた。

「小麦ちゃん、体動かないよね。そのプラグスーツ私が脱がして上げましょうか?」

「な、何言ってやがる!それにこれは、ヱヴァのプラグスーツじゃない!パワードスーツって名前があるんだよ」

「まぁまぁ、そんなにテンパらないで、女の子同士じゃないですか~」

「よだれを垂らしながら近寄ってくるお前を、同じ女とは思えない!」

 言う事を聞かない身体を動かし、荷台の隅に逃げ込む桜田。そして、追いつめた獲物に目を光らせる破壊神。

「俺とか言ってる小麦ちゃんも、十分、男の子っぽいですよ」

 美弥は両手を高々と上げて桜田に近寄る。そして、その上唇を舐めながら近寄ってくる破壊神に、涙を浮かべ、首を横に振る桜田。

 そんなに元気のある桜田を見て、まぁ問題ないだろうとため息をつく津村を横に、可愛い動作をした桜田を見て、スイッチの入った美弥は、縮こまる桜田に襲いかかった。


「いやはや、ゴーストの登場で、こっちはウハウハだよ~」

 大量の申込書を手に、満面の笑みを浮かべながら荷台に入ってきた藤田は、目の前にある光景に驚き、手に持った申込書を地面に落してしまった。

 ピンク色のパワードスーツが、桜田の両肩から脱がされ、きわどいラインで美弥の腕がとある部分をちゃんと隠し、突然の訪問者に目を丸くして固まる三人と、この状況を危険と判断した藤田は、一礼して荷台から逃げるように出て行った。

 固まっていた桜田は、藤田が出て行った途端、悲鳴を上げ「浩の馬鹿―」と叫びながら破壊神の胸に飛び込みながら、破壊神を叩き、叩かれる本人は、ちょっとやり過ぎたと深く後悔をしていた。

 一方、外で蹲る藤田に、正義が大爆笑しながら近寄ってきた。

「お前、女性の免疫力、無さ過ぎ」

 蹲る藤田の肩を慰めるように叩きながら、またしても正義に慰められてしまった事に更に落ち込んだ。





最後まで読んでいただきありがとうございます。

第一章がここで終わりです。いかがでしたでしょうか?

あらすじで有人ロボット(カイボー)の事が書かれていると言うのに、ロクに登場しない結果となりました。

いや・・・本当に申し訳ないです。

御意見やご感想があれば是非お書き下さい。お待ちしています。

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