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~桜田湊、登場~


 次の日の高校新聞の一面を飾った物は、今や時の人『破壊神・美弥』だった。

『破壊神・美弥!道場のお邪魔虫、柔道部を駆除!』

 昨日限りで、お月見、兼、柔道部は廃部となり、その日、道場付近で破壊神を見たという目撃情報が多発し、やる気のない部活を見た破壊神が、畳を全て燃やしたと記事には面白おかしく書かれていた。

 そんな在りもしないデタラメ記事には、破壊神の横を付いて歩く津村の事も書かれ、二人を合わせて『(ダブル)・村長』と呼ばれるようになっていた。

「あちゃ~、ついに私も高校デビューか・・・」

 記事に頭を悩ませる津村と、昨日の出来事について頭を悩ませる美弥は、自分の席で机に突っ伏していた。

「あぁ・・・やっぱり、謝った方がいいのかな~」

「えぇ?・・・別にいいんじゃない?浩、気にしない質だし・・・」

 力なく受け答えを繰り返すw・村長。正体を掴めない新聞部に恨み辛みを飛ばす津村と、謝るべきか?謝らないべきか?を、窓際に座る藤田を睨みつけながら、悩む美弥。


 そんな殺気を感じ取る藤田は、体を震わせていた。

「なんだか、さっきから、殺気が感じられる」

「山田君。座布団二枚取りなさい」

 親父ギャクに体を震わせる正義は、赤い着物を着た男に指示するかのようなセリフを吐くが、「違う、違う」と藤田は、手を横に振った。

「何かわからないけど、悪寒がするんだよ・・・。特に破壊神から」

 藤田の言葉に、机に座っていた正義は、向こうの凸凹コンビを見ると、二人から発せられる黒い負のオーラを目にした。

「うわっ、なんだありゃ・・・。おぃ、ヒロ・・あの二人に何したんだよ」

「何もしてないよ・・・。お前じゃ、あるまいし・・」

「うわっ、その発言は、俺が傷付いた。謝罪を要求する」

「日ごろの行いが悪いからな・・・」

「謝罪を要求する」

「この間、夕食当番を俺に押し付けた」

「謝罪を要求する」

「お得意さんの娘さんを泣かせた」

「しゃ、謝罪を・・」

「発注した品の桁を間違えて、なんで左手の人工筋肉だけ50個も仕入れるんだよ。まぁ、数を疑問に思った向こうが電話をしてくれたからいいものの・・・まだ言うか?」

「いえ、・・・・もういいです」

 俺から意味もなく謝罪を要求するには後二年くらい足りないね。と、案外現実的な年数を藤田は口にしながら胸を張る。

 そんな中、危険な臭いを嗅ぎつけ鼻を動かす正義は、ざわつき出す廊下に目をやった。低い声で唸りだす正義に気付き、藤田も教室の出入り口に目をやった。

 廊下では、新入生を脇に追い込みながら真ん中を堂々と歩く集団が、一年B組の入り口で止まり、勢いよく扉を開いた。

 まだ朝のHR(ホームルーム)すら始まっていない教室に突然の来訪者に全員が目をやり、入り口に立つ、こんな時代遅れの恰好をした人達が、まだいたのかと思えるような、長ランを着て、頭に立派な剃り込みを入れ、髪をピシッと後ろに揃えた男の集団に、教室にいる生徒達は体を強張らせていた。

「わぁっ、凄い。時代遅れの風物ブッ!・・」

 目を輝かせ、周りの反応とは違う美弥を、津村は、机に抑えつけ、何事も無かったかのように、入り口に立つ人達に愛想笑いをして見せた。

「何でもないです。先輩」

 女子の凸凹コンビから目を放し、窓際でバリバリ戦闘態勢の凸凹コンビを見つけて、ズカズカと教室に入り込む先輩達の後ろには狐の姿もあった。

 戦闘態勢の正義を抑え込む藤田は、唸り声を上げる正義に「口を開くなよ」と念を押し、やってくる先輩方を待ち構えた。

「よぉ、アクセルとブレーキ。あまりに遅いから、迎えに来てやったぜ」

 低い声で席に着く二人を睨みつけながら言ってくる先輩に、何か言い放とうとする正義の口を、藤田は手で押さえた。

「だから、ちゃんと桜田さんに伝えたはずだ。俺達は、あんた等とは走らない」

「その桜田からお前達を連れてくるように、俺達は言われたんだよ」

「嘘つけっ!桜田が・・」

 正義の口を再び抑えつける藤田。

「俺も嘘だと思うね。昨日、桜田先輩と会った時は、そんな素振りを見せてなかった。もし、本当だというなら、直に来いって伝えろ。・・・それに」

 藤田は席から、大きな体を持ち上げ前に立つ先輩方を見降ろした。

「あんた等じゃ、役者不足だ」

 眼鏡の中から先輩達を睨みつけ、圧倒感を見せつける藤田。その藤田の言葉に、時代遅れの先輩方は「わかった」と言い残し、教室から出て行き、後ろについて歩く狐に気が付いた正義は「狐ぇ!てめぇ、覚えてろよ」と大声で叫んでいた。

 嵐が過ぎ去り、静けさを取り戻した教室では危険を回避した藤田と津村が胸を撫で下ろしながら、先輩方を携帯の写真に収めようと暴れる美弥と、狐を追いかけようと暴れる正義を取り押さえていた。




 落ち着きを取り戻した美弥は、再び謝るべきかを悩み始め、正義は、さっきまでのイライラを藤田の机にぶつけていた。

「なぁ、マサ。もぅ止めとけって、周りに迷惑だ」

 藤田の机をバンバンと蹴り、机が痛いと音を出していた。

「うっせぇ、ボケ!大体、さっきお前が止めてなけりゃ、こんな事にはならなかったんだ」

「だからって、教室で乱闘騒ぎを、黙って見過ごす訳ないだろ」

「さっきは、見過ごすが正解だ」

「残念ながら、不正解だ」

 藤田の言葉にさらに蹴りを強く入れ、机は助けてと悲鳴を上げ始める。そんな中、頭を抱えて悩む美弥にとってその不協和音が、イライラへと変貌するのは時間の問題だった。

「あぁ!もぅさっきからうるさい!」

 机に両手を思いっきり叩きつけながら、謝るどころか美弥は立ち上がり、音の出る方を見ながら怒鳴りつけてしまった。

 突然の出来事に目を丸くするアクセルとブレーキは「ごめんなさい」と自然と口から出て、その出来事が、次の日の高校新聞に載る羽目になった。

 タイトルは『破壊神、アクセルとブレーキを飼いならす!』死にたいと思った・・・。



『ついに悪名高いアクセルとブレーキを飼いならした破壊神・美弥。今後、新聞部は彼女の活躍をしっかりと追って行こうと思う』

 新聞の最後の一文には、そんな事を書かれ、これは所謂、公開イジメなのでは?と思い始める美弥。

 そんな美弥と津村の前に先ほど、突如藤田が現れ、意味もなく頭を下げてきたのだ。


 正確に言うと、昨日から放たれる殺気は、おそらく彼女等は、カイボー部に入部しようとしていたのに、突然の藤田登場+入部やめとけ宣言。

 それに怒った二人は、殺気を放っているに違いないと、読んだ正義に、とにかく謝っておけと促され、藤田が謝りに来たのだ。

「いや、入部したいなら俺の紹介してやってもいいからさ・・・そん時は、声を掛けてくれ」

 何を素っ頓狂な事を言っているんだ?と無表情で見つめる二人に、首を傾げながら藤田は自分の席に戻り「なんか違うみたいだ」と机の上に座る正義に声を掛けてみるが「やっぱりな」と頷いていた。


「ねぇ、あの二人って一体どう接すればいいの?」

 窓際で騒ぐ二人を見ながら、美弥は付き合いのある津村に尋ねるが未だにわからない津村は、お手上げ状態だと言わんばかりに両手を上げて「わからない」と答えた。

「あっ、そうだ」

 何かを思いついた藤田が、再び席から立ち上がると、机に顔を突っ伏す二人の所に再び、やってきた。

「今日、カイボーの賭け試合があるんだけど、そこにカイボー部の先輩も来るはずだから、お前等も来るか?」

「「行かない」」

 撃沈した藤田は、自分の席で落ち込み、さらに正義に慰められる始末に、さらに落ち込んだ。



「よしっ、やっぱり謝るべきだ!」

「えっ?まだ、悩んでたの」

 昼休み中に机を合わせて昼食タイムを取っていたw・村長。悩みに悩んだ結果、すでに忘れていそうな出来事を、掘り返して謝ろうとする美弥を止めようとする津村だが、肝心の藤田の姿が、見当たらなかった。

「あれ?」

 美弥が首を傾げる中、津村は正義に声をかけた。

「ねぇ、浩は?」

「あぁ?仕事・・・出かけたよ」

 正義は大きなパンを口に放り込みながら答えていた。

「嘘、じゃぁ今日は帰ってこないの?」

 美弥の反応に首を傾げながら、正義は放課後に戻ってくると伝えた。



「じゃぁ、本当に桜田さんの指示じゃないんですね?」

 薄暗い倉庫で、ピンクカイボーの最終調整をする藤田は、パイプ椅子に座る人に話しかけていた。

「あぁ、俺じゃない。あいつ等が、勝手にほざいてるだけだろ」

「しっかりと手綱を掴んでて下さいよ。こっちに火の粉が飛んできちゃ、そっちだって困りまるでしょ」

 陰で顔がハッキリと映らない桜田に、調整代を請求しながら言い「はいよ」と二つの意味を込めて桜田は、藤田の手に金を渡した。

「じゃ、失礼します」

「おぃおぃ、ゆっくりしてもいいんじゃねぇか?今は、俺以外、誰もいないんだぜ?」

「そうも行かないです。俺はpink pantherの専門スタッフじゃないですからね。これから、狛犬さんの所も行かなきゃいけないんです」

「狛犬って・・隣町の奴じゃないか、放っとけよ~」

 不満をタラタラと垂れる桜田は、パイプ椅子の上で足をばたつかせる。

「金田専門店は、お客様を選びません」

 藤田は丁寧にお辞儀をして、そう言い残し、倉庫から出て行った。


 放課後、本当に鞄を取りに戻ってきた藤田は、風のように現れ、風のように教室から正義を連れて去って行った。

 声をかけようとしていた美弥の手は、虚しく途中で止まり、慰めようとする津村がその手を優しく包み込んだ。

「あれ?原田と浩、知らない?」

 津村の大きな胸で、虚しく泣く美弥に声をかけて来たのは、小麦色に焼けた肌が印象的で、短い髪を金色に染めた女性だった。

 突然、見ず知らずの女性に話しかけられる二人は、その見ず知らずの女性をジロジロと見つめ、その視線を感じた女性は「な、なんだよ」と思わず後ろに下がり始める。

 身長は高くも無く低くもないが、なんとも幼い顔で同い年だと思うが、年下だと思えてしまうこの子に、二人は、深くため息をついた。

「なんだよ。お前等、その反応は!」

 小麦色の頬を膨らませ、噛みついてくる子供に、二人は、また更にため息をついた。

「あのね。破壊神とか呼ばれてる私が、言うのもなんだけど、あの二人には、近づかない方がいいかな~?」

 命名・小麦ちゃんの身長に合わせ、かがみ込みながら、美弥は金髪の頭を撫で回す。

「や、やめろよ!」

 嫌がる素振りも、また愛くるしく、目に涙を浮かべる小麦ちゃんだが、美弥のビジョンには、背景に花が咲いていた。

「いや~、なまら、可愛い~・・・」

(いや~、なまら、めんこいっしょ~)

 声と思っている事がシンクロし、また更に強く頭を掻きまわす美弥を見て、笑いだす津村。

「お、お前等!いい加減にしとけよ。先輩に向かって何たる態度を取ってるんだ!」

 小麦ちゃんは、そんな嘘を付きながら美弥の攻撃から逃れるが、目が光る美弥は「逃がすかぁ!」と声を上げながら、悲鳴を上げて縮こまる小麦ちゃんに飛びついた。


 一通り、小麦ちゃんで楽しんだ美弥は、顔を輝かせ満足げに席に座り、涙ぐむ小麦ちゃんは津村に案内されて、教室の中央へと誘われた。

「だ、だから、俺はアクセルとブレーキがここにいるか、聞きに来ただけだ。それなのに、お前等が、邪魔しやがって・・・」

「ね、ねぇ翠、聞いたぁ?あの子、自分の一人称、俺だってさ~」

「うん、聞いた聞いた。可愛いぃ~」

 話が通じず、甲高い声を上げる二人に、頭を悩ませる小麦ちゃん。

「お前等、もしかして俺の事、覚えてないのか?」

「覚えるも何も、今、隅々まで調べたから、何でも思い出せるよ~」

 目を光らせ、両手の指をいやらしく動かす美弥に、思わず体を守ろうと両手を胸の前でクロスさせる。

 だが、その反応が再び、美弥の心に火を付けた。

「ヌォォォォォー、お持ち帰りぃぃ!」

 再び、目を光らせ、襲いかかろうとする美弥に、小麦ちゃんは、その炎を沈下させようと、空飛ぶ城で主人公達が、最後の呪文を言い放つ並みの言葉を、力強く両目を閉じ、言い放った。


「俺は、桜田 (みなと)!三年のカイボー部、部長だ」


 目を潰された敵は、明言を吐いてそこら辺をふら付くはずだが、呪文を食らった二人は、その呪文の効果が、うまく発動されず、硬直していた。

 呪文が、うまく効いたと勘違いする小麦ちゃんは、胸を張って見せるが、その態度に二人の呪文は不発に終わってしまった。

「あのね、小麦ちゃんが桜田先輩な訳ないでしょ。私のイメージでは、もっとこう・・・ヤンキーっス!みたいな感じだから」

 美弥の脳内妄想では、口にマスクを付けサングラスをかけた男の子が「何見てんだコノヤロー」と言いながらコンビニの前に腰を浮かせて座り、立派なリーゼントが風に吹かれて上下に揺れている映像が、映し出された。

「そうそう、大体、浩に小麦ちゃんみたいな、可愛い子は似合わないよ」

 二人は、顔を赤くさせる小麦ちゃんの頭を撫でまくり、怒りに震えだす小麦ちゃんは、お奉行様が紋所の刻まれた薬箱を取り出すが如く、生徒手帳を取り出した。

 写真付きの生徒手帳には、小麦ちゃんの顔と、桜田湊と書かれた文字が、浮かびあがり、それを承認する校長のハンコがしっかりと押されていた。

 ピンクのカイボーに乗っていたのが、桜田先輩のはず。そして、目の前にある生徒手帳には、桜田湊と書かれ、二人の脳内では、カイボーに装着される小麦ちゃんが連想され、見事にマッチした。

 呪文の効果が表れた美弥は「目がぁぁ、目がぁぁー」と目を抑えながら苦しみだし、紋所を出された津村は、頭が高いと思い、急ぎ小麦ちゃんの足元で土下座をした。続いて、美弥も津村の横に正座し、頭を下げようとすると、二人の顔の前に白紙の入部届けが突き出された。

「フッフッフッフッフ、貴様等の入部届けだ。有り難く受け取れ」

 さっきまでの辱めをここで返さんとばかりに、笑って見せる小麦ちゃん。嫌とも言えずに受け取る美弥だが、その入部届けの枚数が、二枚、多い事に気がついた。





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