第一章 ~月から舞い降りた何か~
小説や漫画など月から降ってくるのは、大体、白馬に乗った王子様、もしくは月からの使いの者。もしくは男好きの使徒だと勝手に肯定していた私の頭上に向かって、音を立てながら落ちてきた物は、皇子でもカヱル君でもなく人の形をした鉄の塊だった。
(え?降ってくる?なんなのあれ?)
見上げるほどの高さのビルが連なる街中で、一人さみしく帰路についていた私に起きた突然の出来事。そのあまりの突然さに、動く事も出来ず、無駄に思考だけがフル回転する。
(こんな夜遅くに帰ってくる私にお父さんはなんというか、そんな怒り狂う父親に「うるさい、たまには自分で料理作れ!」と、言い返そうとしていたのに、それも叶わない夢なの?こんな事なら、夜遅くまで友達と遊んでるんじゃなかった。無駄に1年前の修学旅行の話で盛り上がるんじゃなかった!)
お得意の現実逃避をしようと、上から降ってくる物は、消える事もなく次第に足の裏までもはっきりと見てくる頃、彼女はついに悲鳴を上げた。
彼女の悲鳴をかき消すような音で、彼女の目の前に墜落した鉄の塊は、地面のコンクリートを蜘蛛の巣状に破壊し、土埃を舞わせた。
「いってぇー・・・あぁ・・やっぱ痛くないかも・・でもやっぱ痛いって」
土埃が舞う中、声のこもった鉄の塊は、自分の旋毛らへんを指で掻きながら立ち上がり、辺りを見渡し、立ったまま硬直する学生服の女性がいる事に気がついた。
気付かれた事に気づく彼女も、逃げようにも足がすくんで動く事が出来ず、周りから見てかなり大きい自分を、なんとか縮こませる事しかできなかった。怯え震える女性に鉄の塊は、一礼すると大きな音を立てながら、飛び上がりビルの隙間に手をかけたりして、上手に屋上へ登り、月夜に姿を消した。
大きな音を聞きつけ、先ほど分かれた友達が私の事を心配して「美弥!」なんて曲がり角から声を掛けてくれた。その言葉で金縛りが解けた田村 美弥は、友達にしがみ付き「怖かった~」そう言いながら、友達を振り回した。
数分後、打身になった友達は、首をしっかりと固定され、救急車で運ばれて行く所を、田村は見送り、警察に事情を説明しようとしている間に、父親が現れた。娘さんがちょっとパニック状態にありまして、事情を聴こうにもよく理解できない、という警察官の主張に、いえ、いつもこんな感じですと父親は、警察に伝え「白い奴」とか「モデルスーツみたいな奴が空から」とか、思った事を全て口から吐き出してくる娘の言葉を理解し、警察に翻訳した状態で伝える事、数十分。保留処置と言う事で解放され、家に帰った後、父親にがっつりと怒られて、次の日、学校で私はある異名を手にする事になった。
季節は春だというのに桜は咲かず、いまだに雪が薄らと残り、外を歩けば白い息が、口から吐き出される。そんな中、ここ弄月高校では、新たな開拓地を見出そうとやってきた新入生達によって、期待という花が咲き乱れていた。
「北船中学校出身の田村 美弥です。ちょっと身長が、高いと言うコンプレックスを・・か、かか抱えていますが・・・・ええっと、よろしくおみゃーします」
高校の入学式も無事に終え、自己紹介で完全に上がり頭が真っ白になったロングヘアーの美弥は、言いたい事も言えずに無駄な事を言って着席すると、周りからは小さな笑い声が、聞こえてくる。一人の少女の期待という花は、夏を待たずに、一気に枯れ果てた。
「・・・ちょっとじゃなくて、かなりじゃない?」
「たしかに」
そんな小声が、美弥の胸に深く突き刺さった。中学の知り合いが、誰もいない高校に入学した美弥は、この弄月高校の校門を、期待と一抹の不安を抱えながら入ったが、一抹の不安は、一抹ではなくなり、他の人の自己紹介が耳に入る事がないくらい落ち込みながら、一日目を終了した。
放課後、新しくできた友達や、中学からの友達と楽しそうに会話する人達を羨ましそうに自分の席に座りながら眺める中、後ろから背中を指で突かれた。
「ねぇ、美弥さん」
(神様だぁ!)
この際、指で背中を突かれようが、後頭部をいきなり叩かれようが、喜んで振りかえろう!希望に満ちた表情で振り返れば、後ろの座席で、机に頭を乗せて美弥の背中を指していた手をヒラつかせる小さな女性が座っていた。
「私、津村 翠。よろしくね」
髪を上でまとめ上げ、ちょんまげ姿の津村は、にこやかに話しかけてきた。
何と呼べばいいか、戸惑う田村に「翠でいい」と言い、田村の中で津村のいい人ボルテージのゲージが急上昇する。
(この人絶対にいい人だぁ!)
心の中で浮かれる美弥に津村は早速、質問をしてきた。
「中学の時に、何かスポーツとかしてた?」
「それが、まったく」
「えぇ~もったいない」
(もったいない?もったいないとは・・・)
答えは知っている。この体格である・・・小学校の時は、男子からメスゴリラと呼ばれ、中学の最初の時は、まさかのカイボーと一部の男子からは、言われていたと風の伝で聞いた。体を動かす事は好きだが、あだ名が怖くて部活と言う縛られたスポーツをした事がなかった。中学の初めは、体験入部を繰り返すうちに、部活潰しなんて呼ばれる事もあった。一番ひどかったのが、体育館にやってきた瞬間、先輩の一人が「出た。部活潰し」と声を出した事だ。
津村の熱弁も自分の過去を振り返っているうちに、終了していた。
「それでさ・・」
「えっ?どこのそれで?」
現実に引き戻された美弥を見て首をかしげる津村。
「・・・話聞いてた?」
「ちょっと上の空でした」
「まぁいいや。今から部活見学に行かない?」
「どこ?」
「柔道部」
(JUDO?)
ごつい体の男達が、上半身の道着を脱ぎ「ソォイヤ!」という掛け声とともに、肉体美を見せつける前を太った男が一人通り過ぎていくイメージが、美弥の頭の中に出てくる。
ところが、そんなイマジネーションの中に、背の小さな津村が入った瞬間、上腕二頭筋を見せつけながら迫ってくる男達は、大きな音を立てながら砕け散った。
「柔道?」
「そう柔道」
返答に戸惑う中、津村は美弥の腕を掴み「さぁいざ逝かん!」出口を指さしながら、戸惑う美弥を引きずって行こうとする。なんとか抵抗を見せる美弥だが、津村の握力と力に圧倒され、入り口まで、本当に引きずられていった。
「待って、待って」
抵抗を続ける美弥は、入り口から突然現れた男子生徒にぶつかった。
バランスを崩す事無く立っている美弥と逆に、男子生徒がバランスを崩し倒れた。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「え、女子?・・・・ってデカっ!」
デカイと言う単語をいい残し、男子生徒は教室へと入って行った。
美弥は、その言葉の意味を別の物に例えようとする。
(でかい?はて、一体何の事?・・まさか、胸か?胸の事か!)
教室へ入って行く男子生徒を見送る津村の持っている物と見比べ、(ごめんなさい)と心の中で呟き、胸の事ではないとショックを受けた。
一方、津村は通り過ぎて行った男子生徒を見て「狐だ。」なんて呟く。
「狐?」
確かに言われてみれば、短く切った坊ちゃんヘアーに、折れ曲がった背中、つり上がった目つきと言い、下に伸びた鼻と言い、第一印象は、狐に見えなくもない。
「でも、狐って・・・知らない人に対して、動物扱いは可哀想じゃない?」
「違う、違う。うちの中学校で、狐って名前が、結構有名だったのよ。名前なんだっけかな・・・忘れたけど、虎の威を借る狐って知ってる?」
美弥の頭の中では、子供のころ見ていたテレビアニメの『ブチえもん』の登場キャラ『スネ毛君』が、主人公がジョイアンに襤褸雑巾にされ、泣いているのを見て、ずる賢そうに笑っているシーンが蘇ってくる。
「あぁ・・・『ブチえもん』で言ったら、スネ毛君のポジション的な感じのあれ?」
「そうそう。でも、スネ毛君が可愛く見えちゃうほど、重症らしいけどね。鞍替えが激しいっていうか、ジョイアンよりも強い奴を見つけたら、そっちに行っちゃう感じ」
「うわっ、かなりの浮気性ね。・・・確かに狐かも」
狐と呼ばれる男子生徒は、教室に入ると誰かを探しているのか、辺りを見渡し、窓際の方へと歩いて行く。
「しかも、かなりの情報通らしいよ・・・実際、この教室まで来ちゃってる訳だしね」
ため息交じりに、津村が呟き、美弥は首をかしげる。
「この教室って?」
「狐のお目当ての人達が、この教室にいるって事」
「嘘!そんな人がいるの?」
狐が、向かう先を見つめると、黒ぶちの眼鏡を掛けたデカイ男が、だらしなく小さな椅子に座り、それほど大きくない男子が彼の机の上に腰を下ろし、楽しそうに会話をしていた。
「うわっ、何あの凸凹コンビ」
最初のクラス全員、自己紹介が全く項を奏する事がなかった事を自覚しながら、彼ら二人を指さす。
「ちょっと、二人とも結構気にしてるんだから、そんなこと言わないの」
指をさす美弥の腕を、津村は無理やり下ろす。むしろ周りからみれば、美弥と津村も十分凸凹コンビである。
「最悪・・・不良的な人と同じクラスだなんて、そんな人いない所を求めてこの学校に来たのに」
落ち込み、肩を落とす美弥を「まぁまぁ」なんて言いながら津村は、肩を叩き励ます。
「大丈夫、全然不良とかじゃないから」
「だって、あのでかい方とか、絶対態度デカイって。体と一緒で・・・」
背の高い方に再び指を指すが、その指を素早く津村に降ろされた。短髪のデカイ方は、自分にあった制服がなかったのか、小さな制服をボタン全開で羽織り、制服の中に着た黒いシャツが、ごっつい肉体を見せつけていた。
「違う違う。あのでかい方は特に問題ないよ。むしろ問題のある方は、あのちっちゃい方」
ちっちゃい方、そう言われ全く見向きもしなかった小さな方に視線をやると、大声で笑う彼の口だが、犬歯が妙に特徴的に見え隠れし、その笑い方も品がなく、地面に足が届かないのか、足をばたつかせながら笑っている。
「なんか、凄いのが二人揃っちゃってるね」
二人を見比べて、あまりの存在感に感心しながら、呟いた美弥に対し「そうでしょ」と返していたその時、狐が彼ら二人に話しかけようと手を挙げた途端、小さな方が狐に気付き、ばたつかせていた足で、狐の顎を蹴り上げ、見事に宙に浮いた狐は、のけ反りながら先ほどまで座っていた田村の机を半壊させ、地面に倒れた。
突然の出来事に口を閉じる事を忘れる美弥と、またやったと言わんばかりに自分の頭を手でたたきながら、ため息を漏らす津村。そして、この状況を説明するためには、すこし時間を戻し見る目線を変えなくてはいけない。
机も自分が座っている椅子のサイズがどうもしっくりこない。それは中学の時からそうで、毎回、どうしてデカイ人用の机や椅子がないんだと頭を悩ませている。
「何、机いじってんだよ。いじったって、でかくなる訳ねぇだろ」
「いや、膝が入らなくって・・・」
「それより、机を揺らすな。俺が座ってんだろ」
机に腰掛け足を左右交互に揺らしながら、原田 正義が文句を垂れてくるが、何より机に座ること自体間違ってるだろ。毎回指摘しても返ってくる言葉は決まって、「お前より目線が高くないと嫌だ」と言ってくる。案の定、今回も指摘してみたが、全くその通り帰ってきた。
「・・・にしても、狐がこの学校に入学してたなんて、ヒロは知ってた?」
「いや、まったく。入学式そうそう声掛けられるとは思わなかった」
ため息を洩らしながら、体育館で狐に声をかけられた事を思い出し、軽く鬱になる藤田 浩。膝を机に収める事を諦め、厄介事は勘弁だと思いながら、またため息を吐く。そんな藤田を見て「ため息を漏らすと幸せが逃げちまうぞ」と正義は指摘する。
「・・・って、デカっ!」
そんな声を聞き、二人は入り口の方を見た。正義は、津村とあまりにも大きな女性を見て驚き、口を開いた。
「おぃ、ヒロ。津村の横に、お前といい勝負の女がいる」
「いやいや、俺の方がでかいから。確か・・えぇっと、田村だっけ?」
「知ってる女か?」
「知ってるも何も、覚えてないのかよ。自己紹介の時、テンパってた奴」
『よろしくおみゃーします』
顔を真っ赤にし、着席する女性を思い出し正義は大爆笑し始める。足を更にばたつかせ、藤田の机を軋ませる。
「そうだ。確かに、いたなそんな奴が!」
「おぃ、机が壊れるって・・・足を地面につけなさい」
「うっせぇ、ボケ!」
地に足をつける事が、出来ない事を指摘される中、片手をあげ、笑顔の狐がタイミングよくやってきた。
「ねぇ、アクセルとブレーキ・・」
「うっせぇ、ボケ!」
狐が、全てお言い終える前に、ばたつかせていた足をそのまま宙に上げ、狐の顎を蹴り上げた。入り口の方では、凸凹コンビのデカイ方は、口をあんぐりと開け、小さい方は、やれやれと飽きられた感じに、手で頭を叩きながらため息を漏らす。
一方、狐を蹴り上げた正義は、蹴り上げた足をそのまま上に持ち上げて、見事に机の上に着地をしてポーズを決め、藤田は席に座ったまま宙に浮く狐の行く末を見守っていた。
狐は、机を一つ壊しながら地面に叩きつけられ、顎を押さえ「何をするんだ」と言いながら上体を起した。
「うっせぇ、しつこいんだよ。先輩に挨拶回りとか、勝手に一人でやってろよ」
「お、俺は、君たちの事を思ってだな。・・・大体、二人が弄月高校に入学したのだって、ここのチームに入るためだろ。だったら、先輩達に挨拶するのが常識だろ」
二人を力強く指さしながら、正論を言っているようになっている狐だが「はぁ?何言ってるんだ?」と正義が首を傾げ、素頓狂な声で言った事に対し、ピンと伸びていた指も力を無くし、曲がってしまった。
「な、何言ってるんだ。なら君達は、一体何のためにこの高校に入学したって言うんだ!」
一人でテンションを上げる狐に対し、乗る気でもない二人は顔を見合わせ、一人ずつ手を挙げて、正義は「近いから」そして、藤田は「仕事の関係で融通が利くから」と答えた。二人の答えを聞き「そんな馬鹿なぁぁ・・」と狐は、頭を抱えて嘆き始めた。
「ねぇ、じゃぁさ・・お願いだから挨拶だけ、それだけでいいから」
狐は、二人の前に正座し、拝むかのように頭を下げてくる。だが、狐のお願いも通じず正義は両手をクロスしバツ印を作って無言で答えた。
「どうせ、その先輩達に、アクセルとーブレーキも後で連れてきます。とか、口走ったんだろ」
藤田の呟きに狐は、頭をあげて「どうして、それを」と口走り思わず両手で口を押さえた。その言葉に正義は怒り、藤田はため息をついた。
「だぁ!もぅ、てめぇの噂ってのは、どうやら全部本物みたいだな!勝手に人を巻き込んで、自分の顔に泥を塗らない程度に逃げて、後は知らんぷりってか?お前の頭ん中、マジでどうかしてんぞ」
言い訳をし始める狐を見て、正義は机の上から飛び出し、襲いかかろうとするが、藤田がようやく席から立ち上がり、正義を止めた。
「マサ、落ち着け」
止めに入った藤田は、それでも襲いかかろうとする正義を肩に担ぎ、先ほどまで座っていた自分の席に座らせた。
椅子の背もたれを前にして座った正義は、まるで檻に閉じ込められた猿が、柵にしがみ付き見学する客を威嚇するかのように、妙にとがった犬歯をむき出し、狐を睨みつけていた。
威嚇する正義とそれを見て怯える狐を見て、旋毛部分を人さしで掻きながら藤田は、思い悩んだ。
そして、その行動を見て一人の大きな少女は、開いた口を更に大きく開き「あっ」と声を出していた。そんな事には気づかず、藤田は、床に腰をついたままの狐にゆっくりとした歩調で歩み寄り、その場にしゃがみ込んだ。
「鼻血」
そう言いながら狐の鼻を指し、自分の鼻から血が出ている事に気付き、袖で拭こうとする狐に、ポケットティッシュを手渡した。狐は、礼も言わずに原田から貰うと手際よく鼻に詰め込んだ。
「その状態で、先輩達に挨拶に行けばいい。そんな怪我してたら、先輩達だってお前の努力ぐらいは、認めてくれるさ」
藤田の助言と自分の身の安全を天秤にかけ、思い悩む狐。そんな中、津村の呼びかけにも応じず、藤田と狐の前に背の高い方がやってきた。
背の小さい方が、狐に向かって両手で作ったバツ印を見せつけながら、何やら喚く狐を、入り口で眺めながら、津村が口を開いた。
「あの二人、アクセルとブレーキって呼ばれてて、由来は・・・まあ、見てたら大体分かるか」
口を開ける状況ではない美弥は、二人に釘付けになる中、大きな方が椅子からゆっくりと立ち上がり、彼のでかさは、自分ですら敵わないほど大きい事を認識した。
旋毛部分を掻く行動を見て、中学時代の彼女のトラウマを思い出させ、開いたまま動かなかった口が動きだし「あっ」と、声が出た。
「どうかした?」
(どうかしたかって?そりゃ、大有りですよ!忘れもしない、あの鉄の塊・・・あのお陰で私は・・)
大きな地鳴りとともに大股で美弥は、でっかい方へと近づき、背中の方では津村が声をかけているようだが、まったく耳に届かず、下に蹲る狐とティッシュを手渡す藤田を上から見下ろした。
大きな影が、狐と藤田を覆い隠し、藤田は顔をあげて美弥の存在にようやく気がついた。胸を大きく張り(ない物を張ったってどうしようもないけど・・)机の脚が見事に折れている席を指さす。
「そこ・・・私の席なんだけど」
「ん?ああ、ごめんね。明日までには、ちゃんと直すから。それで許してくれ」
「・・・もし、それで許さないって言ったらどうする?」
彼女の発言に、クラス全体がざわつき出し、怒りに燃えあがっていた正義は、この展開を面白がり椅子をガタガタと揺らし始め、後ろの方では津村が「美弥~いい子だから戻っておいで~」と呼びかける。
「じゃぁ、どうしたら許してくれるかな?」
少々悩んだ末、藤田は立ち上がり美弥の前に立ち、少し見上げるほどの巨体が立ちはだかるが、一歩も動じない彼女に狐も驚き、二人の展開を下から見上げていた。
「そうね・・・なら、今から私がする事を許してくれるならいいけど?」
「よし、それでいこう」
何の躊躇もなく藤田がそう言った途端、美弥は大きな彼の顔を思いっきりビンタした。
パァンと大きな音が、教室を木霊し、藤田の掛けていた眼鏡が宙を飛び、巨体が地面になぎ倒された。
その光景を見た正義は、大爆笑して椅子から転げ落ち、倒れる際に後頭部を机の角に強打し「いってぇ!」とうめき声を上げながら、木製のタイルが敷き詰められた床で、のた打ち回った。
放課後に残っていたクラスのみんなが、口を開いたまま動けない状況で、下でこの光景を目の当たりにしていた狐が唯一、動きを見せた。
「黒い髪を靡かせ・・・見上げるほどの身丈を持つ女・・・・破壊神だ・・・」
狐が、そう呟くと、金縛りにあっていた人たちは、動き出し「破壊神」という単語を文脈の最初につけてざわつき始め、その単語が狐から飛び出した時にようやく我を取り戻した美弥は、やってしまった事を激しく後悔したが、すでに遅かった。
なんとか、その単語を落ち着かせようと言い訳を考えるが「あの」「その・・」といった単語しか、出てこないまま、狐が美弥を指さして叫んでしまった。
「破壊神・美弥だ!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
まぁ面白いのかどうか、書いておきながら正直わかりません。
更新を早くやりたいと思います。目指せ一日、一話!
ですので、最後までお付き合いして下されば幸いです。
御意見やご感想があれば、お待ちしています。