2話 再会
「あと1カ月で鎧坂にも後輩が出来るんだよー?3年の先輩方ももう居ないしー」
「だからって僕が副部長は荷が重いですって」
「そう言いつつ引き受けてくれるんでしょー?鎧坂ってそう言うとこあるよねー」
「雑な批判やめてください。間久鳥先輩ってそう言うとこありますよね。」
「あははー、で?やってくれる?」
「はい、やりますよ。副部長。他に任せられる人もいないですし。」
ガランとした2人きりの吹奏楽部の部室で僕はギリギリまで渋った副部長の座を引き受けた。
正直ヒラ部員でいたかったけど、間延びした話し方をする間久鳥先輩がかわいかったから引き受けた。かわいいから仕方ない。付き合いたい。
カッコつけたかったのだ。カッコ悪い。
ーーーー
「おいあんた!生きてるか?」
「ちょっと!気を失ってる人を揺らしちゃダメでしょ!」
「おぉ、悪いな、気を失ってる人」
うるさい。頭が痛い。男女2人組の声が聞こえる。
「あ!目が覚めた?」
青い派手髪の女がこちらを覗き込んでくる。
「大丈夫か?変な服の人」
金髪の目つきの悪い男が失礼なことを言ってくる。
「あ、、あの、ここはどこですか?」
混乱している頭をどうにか回して質問を捻り出す。
「は?いや、レイニア領の東の荒地だけど」
目つきの悪い男の発言で頭がさらに混乱する。
「開かずの小屋から大規模な魔術が見えたから、私たち調査にきたの。、、この小屋の壁、壊れてるけどあなたがやったの?」
・・・そう言う青髪の女はでかい杖を持っている。目つきの悪い男は剣を腰に据えている。
ここまであからさまに色々と見せられて、考えつかない方が難しい。
違う世界に来てしまった。多分。異世界転移だ。
「えぇっと、あなた名前は?私はルーナこっちのバカはアイザック」「はぁ?」
バカ発言でアイザックが切れているが、口を噤んでしまっていた僕に気を遣ってか、青髪のルーナが話を進めてくれる。
「えっと、僕は鎧坂雄介と言います。多分、僕がやりました。、、ごめんなさい。」
「ヨロイザカユウスケ?長いし変な名前だなヨロイザって呼んでいいか?」
「失礼でしょ!人の名前を変とか言わない!、、謝らなくていい。この小屋、誰の物かも分からないし。」
賑やかな人たちだ。今のところ頼りはこの人たちしかいない。どうにかして助けてもらわなければ。頭の痛みも引いてきた。
僕はこの暫定異世界のことを何も知らない。記憶喪失ってことにして、色々教えてもらいたい。
「ヨロイザカでいいです。それでその、僕気づいたらここに居て、何も覚えて無いんです。」
「は?たった今名乗ったじゃねぇか。ヨロイザなんとかって」
一瞬で矛盾をつかれた。バカに。
「その、名前は、名前だけは覚えてたんです。」
「はぁ。思ってたより面倒な仕事になりそうね。」
ルーナが小声でぼやく。その瞬間。
「ルーナ!何か来る!」
びっくりした。アイザックが唐突に叫ぶ。
「なに?!どこから?!」
ルーナが反応して杖を構える。何?モンスター的なものがいるの?
部屋の中心からバチバチと音が聞こえたかと思うと、強い光と共に大袈裟なローブをまとった人影が見えて来た。
なんだこれ、魔法?さすが異世界。
「鎧坂。何がなんだかわからないと思うけど、説明してあげる。ここは地球じゃないの。」
人影から発せられた声は、聞き慣れたかわいい声だった。間延びしていない真剣な声。
間違いない。僕が好きだった人。間久鳥真千のものだった。