1 人気アイドル
都会のど真ん中、
イヤホンをつけて歩く人、友達と遊ぶ人、
赤ちゃんをあやしているお母さん、ワイワイ騒いでる学生も
そこにある超大型の屋外ビジョンに目を向ける。
画面には人気ソロアイドルを使ったオリジナルドラマの
制作が決定し、話題になっているドラマのタイトル。
【華麗なる王子様】
「この命に代えても、俺は守って見せる。」
王子様を思わせる紺に金色の刺しゅうとボタンの衣裳に
青みのかかった短めのウルフカットの青年が
満面の笑みで手を差し伸べる。
「みなさん。こんにちは。
【華麗なる王子様】の主人公ハインリヒ・ランカスター役を務めます。
桜咲 真我です。
オリジナルドラマ...ということで、どういった内容のものなのか気になる方も
いるかと思いますので!!
映像とともにあらすじを教えちゃいたいと思います!」
人差し指を立てて説明を始めると、
人々は立ち止まり超大型の屋外ビジョンを見始める。
「物語の舞台はクワ帝国。
他国とは離れたところにあり、
100年程前までは戦争もなく自然豊かな帝国だったが
ある時、突然現れた魔王と魔素で人々や元々は穏やかだった動物が狂化したり、
突然死したりと国が窮地に追い込まれてしまいます。
そんな時に王城の一室にある光る窓から現れた聖女、
桐生 梓。
聖女の力で魔素の原因である魔王を
倒すためにに第1王子であるハインリヒとその仲間たちと
狂化した動物=魔物と戦ったり、
魔王討伐に向けて訓練したり。
笑いと涙と恋愛と....
王道の異世界ファンタジードラマとなっておりますので、
ぜひ、お楽しみに!
実はね私も最近1.2.3話までの台本を読んだところで
結末はまだ知らないので先が楽しみだし、
撮影も楽しみなんです。
そして、主題歌はソロアイドルとして活動させて頂いてます私が歌わせて頂きます。
作中にも何曲か歌ってるシーンがはいる様です!
それじゃあ公開はかなり先の1年半後となりますが!
お楽しみに!」
超大型の屋外ビジョンが消えると人は歩き出し、
ドラマについて語り始める。
「面白そうですね!1年半後!見るの私も楽しみです」
そう屋外ビジョンを見た後にはしゃぐメガネに長身の男。
その脇には黒いパーカーの帽子を深く被り、
サングラスをする怪しい男が1人。
男は深くため息をついた。
「俺は全然楽しみじゃない。むしろ、今からでも
中止になって欲しい。」
「何でですか!そんなこと言わず...
次の仕事、次の仕事。さぁ頑張りましょう!車に乗って!」
パーカーの男はため息をふたたびつき車に乗ったあとにサングラスと
深く被ったパーカーの帽子をとる。
青みのかかった短めのウルフカットに、整った青白い顔が
現れる。
そう、先程皆の注目の的になっていた【華麗なる王子様】の主演である桜咲真我だ。
「真我さんは何がそんな気に食わないんですか、
ソロアイドルを初めて僅か1年で1万4000人入る会場で
ライブをするほどの超人気アイドル。
2年目にして知らぬ人はいないアイドルになり、
ドラマの主演に大抜擢!!!益々人気が増えるに違いない!」
「もともとスカウトされて、金のために始めた事だ。
もうこれ以上人気にならなくてもいい。
私生活もまともにゆっくりできやしない。」
「わがまま坊ちゃんが。諦めて仕事に励め。」
元々車に乗っていた男がデコピンをしてきて、
しかめっ面で「なんでこいつと一緒の...」
と舌打ちをする。
少し暗い赤色の髪の毛にガタイのいい男が
しかめっ面をつねって嬉しそうに笑う。
「やめろっ!桐生!」
「真我、お前な、しかめっ面ばかりしてるとそのうち敵を作るぞ。
芸能界はな媚び売ってなんぼなんだよ。
笑え笑え。」
「うるさい。」
桐生 渚。
真我と同じソロアイドルで同じ事務所。
表上では仲良しでいつも一緒にいる設定。
「なぎしん」
と2人の事を呼ぶファンも多くいる。
2人で言い合いながらも、次の仕事場所につき
車を降りる。
片手に自分の出演する【華麗なる王子様】の4話めの
台本を読みながら歩く。
1話でヒロインの桐生梓が召喚される。
2話で異世界に飛ばされ落ち込む桐生梓をハインリヒが
励まし、気にかけてくれるハインリヒに恋に落ちる。
ハインリヒのためにも帝国を救おうとやる気を出し
魔王討伐に向けたメンバーが揃う。
3話でハインリヒの通う学校で自分が救おうとしてる
帝国のことを学びたいと学校に通いはじめる。
学校のパーティー中に外の空気を吸いに
桐生梓が中庭にでると
同い年くらいの少女にナイフで刺される。
なかなかにありがちでくだらない内容に
欠伸をして、「早く魔王倒してくれよ。学校いくなよ」
とつぶやく。
そして4話。
「なになに...
目覚めない梓にハインリヒが駆け寄る。
「目覚めてくれ。梓。」
ハインリヒの涙と共に梓の手を握るハインリヒの手が光り
梓は目を覚ます。
「ハインリヒ...私。」
ハインリヒは梓を抱きしめキスをする。
「よかった。よかったよ。梓。」
「ハインリヒ…私を救ってくれたのね。
私を刺したあの子は?」
バツの悪い顔をするハインリヒに梓はさっする。
「今は気にする必要ない」
おいおいおい。
刺した少女、名前も分からずに出て消えてったな。
名前ありそうなキャラだけど。モブ?」
「おい、真我!」
真我!と叫ぶ桐生渚の声が後ろから何度も聞こえ、
ため息混じりに返事をして振り向く。
「真我!」
振り向いた時には目の前に車が来てて
ライトが俺を照らしてた。
「は???」
ーーーードンッ
鈍い音と共に身体が宙に浮き、青空が見えた。
ふと、3話目の台本の内容が過ぎる。
そういえば桐生梓を刺した子、3話目でハインリヒの婚約者って
名乗ってたな。名前は言ってなかったけど。
俺が本当にハインリヒだったら
婚約者いるのに異世界の女にうつつなんか
抜かさないのに。
俺なら決められた結婚でも幸せにするね。
彼女を
ーーーーガッシャン
「真我!!救急車!救急車を!」
見慣れた赤色の髪が青空と一緒に
視界に映るが、徐々に視界が霞んできて目を閉じる。
「頼むから!誰か...助けてくれ。」
渚の頬を伝い、顔に落ちる涙の感触も徐々に消えていく。
ーーーーーーーーーーーーー
リガルト王国エレオノーラ公爵領
公爵邸の一室。
「っっっはっ.....」
荒い息で目覚める。
冷汗が止まらず、音が鳴りやまない胸に
手をあてて落ち着かせる。
ベット脇の水際しでコップに水を入れ一気に飲み干し
部屋からベランダにでる扉の方を見ると朝焼けの光が差していた。
強く痛む頭を押さえる。
「最悪だ。」
シンガ・エレオノーラ。それが私の今の名前。
リガルト王国公爵家の長女に生まれ、
7歳の時に出席した隣国との交流会時に隣国の王子に見初められ、
同じように王子に一目ぼれした私達は婚約を結んだ。
ただ、隣国とは距離がかなり離れていて
山道が続くため、15歳になった今でも片手で
数えられる程しか王子には会えてない。
ちょうど明日から隣国に留学生として行くことが
決まっていて、昨日の夜までは夢見てた王子と
共に過ごす学園生活に胸を躍らせていた。
そう、昨日の夜までは...
昨日の夜、私は長い夢をみた。
それは自身の前世の夢であり記憶
桜咲真我として生きた記憶。
ここは自分が主演を演じた【華麗なる王子様】の世界であること。
今の自分は自分が演じた主人公ハインリヒ・ランカスターの婚約者
シンガ・エレオノーラであること。
「私だ。ヒロインの桐生梓を殺めようとしたのわ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同時刻、クワ帝国
100年程前までは戦争もなく自然豊かな帝国だったが
最近、魔王が現れ魔素が空気中を漂い
人々や元々は穏やかだった動物が狂化したり、
突然死したりと国が窮地に追い込まれている。
そんな中、
帝国の王城の一室。開かずの間と呼ばれてる部屋。
この部屋は長年「開かずの間」と呼ばれ異様な空気を放つ
その部屋には自然と誰も近づかなかった。
しかし人々が帝国の状況を悲しみ
魔王のいない平和な日常に戻る事を祈った時
天より一直線に光が王城に差した。
皇帝は「開かずの間の扉が開いたのだ。」と断言した。
この情勢の中で開いたであろう扉に何かあると考えた皇帝は
帝国の騎士団を連れ、調査に向かおうとしていた。
「父上‼」
「ハインリヒか。」
「開かずの間の扉が開いたと聞き、参りました。
果たして安全なのでしょうか。」
「それが魔力が強いものしか行けぬのだ。何人か先に調査に向かったが
魔法の使えない、魔力をもたない者は
開かずの間に入った瞬間、狂化しだした。
かなり強い魔素だった様だ。
皇帝直属の魔法騎士団も何人か向かわせたが魔素の過剰摂取で倒れてしまった。」
「なんと...
直々に父上が向かうところだったのですか?」
「ああ...王族はこの国の中で1番の魔力量を持つ。
私が行くのが一番、犠牲者を出さずに済むだろう。」
「それでしたら、危険ですのでここは私が参ります。」
「ハインリヒ....我が子を危険な場所に行かせるのは心苦しいが、
私よりも魔力量のあるお前の方が確実であろう。
頼まれてくれるか。」
「もちろんです。父上。お任せください。」
ハインリヒはハインリヒの連れてきた魔法騎士団の中でも
王族に匹敵するほどの魔力量を持つ騎士を連れて
地下の薄暗いところにあるその部屋に向かう。
地下に進むにつれて魔素はまして行く。
開かずの間の存在は知っていたが
王城にこんなところがあったとは....
人が住めるような所ではないな。
ハインリヒは騎士の先頭にたち地下への階段を慎重に降りてゆく。
地下まで降りると広い広いコンクリートで囲われた部屋の様な物があり、
その部屋の真ん中には木製の古びた一階建ての一軒家が立っていた
周りには先に調査に入り、狂化した城の者の死体が転がっている。
「ここは....」
ハインリヒは死体の悪臭が魔素とともに漂うその部屋を
呆然と眺める。
「ハインリヒ様....これは‼」
「どうした?」
家の前まで行くと騎士が家の付近に落ちていたであろう
物をもって見せる。
王族の証であるピンバッジだ。
なぜ、これがここに?ここに王族は来ていないはずだが。
「開かずの間の開かなかった扉とはこの家の扉のことか?」
「いえ。この家の扉の先にも扉ががあるとの情報を頂いてます。」
父上からの情報か?父は此処には来たことないはずだが...
父上にしか分からない言い伝えの様なものが存在するのか?
謎に思う点はあるがハインリヒは言葉を飲みこんだ。
「なるほど......
承知した。俺の後に続け」
勢いよく扉をけり破る。
開けた瞬間に騎士が何人か倒れ、目でも分かるほどの濃い魔素が
家の扉より流れる。
「一旦扉を閉めて引くぞ!」
「ハインリヒ様!中に、中の扉の前に人がいます!」
「なに⁉
俺はまだ耐えられる。お前らは下がるんだ。」
「ハインリヒ様っ!」
ハインリヒは騎士がついてくるより先に家の中に入り、
扉を閉める。
開かずの間、開かないんじゃなくて開けられないんだ。
魔素が濃すぎて入れるような場所じゃない。
家の中にある扉は中途半端に開いていて、
明らかに濃い魔素はこの扉が原因だと直感する。
扉から差す光に目をやり、扉の中を除いた。
「なんだ。これは....先が見えない。」
虹色にぐにゃぐにゃと歪み色を変える扉の先に
思わずめまいがする。
扉の前に男女2人が倒れてる。
「おい!大丈夫か?返事はできるか」
2人を揺すると男の方が目を覚ましあたりを見渡す。
「なんだここ。夢....か。」
男が寝言の様につぶやく。
女の方は目を覚まさず、顔色も悪く冷汗もすごい。
ハインリヒは女を抱きあげ大声をだす。
「夢でもなんでもいい。とりあえず、俺についてこい。
ここは危険だ。立ち上がれ」
目を覚ました男は気だるそうに立ち上がりハインリヒに続き部屋を後にする。
家の扉をあけ外に出るとその光景に思わず、吐き気がこみ上げてきた。
「なんだこれは。」
魔獣に食い散らかされたかのように転ぶ
さきほどまで一緒にいた騎士たち。
その先に巨大な魔獣に立ち向かう一人の騎士は俺の側近にいた騎士だ。
「ハインリヒ様⁉
お逃げください!急に魔素を吸って倒れた兵士が
バケモノへと変形し襲ってきたのです。」
「お前はどうするんだ!俺が加勢する!」
「今はあなた様の命が大切です。お逃げください!」
がぁあ...ぐぁあああ
兵士をなぎ倒し、ハインリヒへと襲いかかる。
「ハインリヒ様!」
女を1人抱えてるハインリヒは思わず、
後退りをしてしまう。
「おい、こいつ倒せばいいのか?」
ハインリヒは後ろから聞こえた意外な声に
思わず、「へ?」とアホな声を出してしまう。
ハインリヒの視界にハインリヒより一回りでかい、
血のような赤黒い髪の毛の男が現れ、
化け物と取っ組み合いをはじめる。
「なんだ。強いのは見た目だけか。」
そう言うと男は化け物に向けて叫ぶと同時に
火を纏った拳を化け物に突き出し、
その突き出した拳は化け物を貫通した。
呻きと共に化け物は倒れる。
「なんか、よく分からないが...
感覚があったっていうことはここは現実か。
とりあえず、ここから脱出しよう。」
そう言うとなぎ倒された騎士を担ぎあげ、
ハインリヒの前を走り出す。
ハインリヒは何も言わずに後を追いかけ、
王城の見慣れた場所に着くと緊張が解けたのか、
その場に膝から崩れ落ちる。
駆け寄る王城の者たちに女と騎士を預け、
治療するように支持した。
休む暇もなく、ハインリヒは「付いてこい。」と
赤髪の男を自室に連れてく。
「お前...何者だ。」
ハインリヒがそう言うと、男は首をかしげながら
少し悩んだあと真面目な顔でハインリヒを見つめる。
「そうだな。俺もよく分からない。
親友を亡くして、感傷に浸ってたら
声が聞こえたんだ。声のする方に歩いていったら
虹色の光に包まれて、さっきの場所で倒れてた。」
「やはり、虹色のあの光の先からきたのか?」
「恐らく。そしてその光の先はこの世界でいう
異世界に繋がってんだろ。」
「異世界だと。」
「俺のいた世界にあった物語の世界にここは似てる。
そして、俺は元々力を持たないただの人間だったが
手から火が本能的に出せた。そして強い。
恐らく俺は、その物語の言葉を貰うなら
異世界から来た特別な力を持つ“聖人”と呼ばれる者だろ」
「では、お前と倒れてたあの女性も聖人なのか?」
「恐らく。この世界を救う異世界からの救世主、
“聖女様”っていったところだろ。信じるも信じないも
俺自身もよく分からないからな。」
ハインリヒがいまのこの国の状況を説明すると、
男は頷き、もともと知ってたかのように
すんなりと納得した。
「なるほど、あんたはここの王子様
ハインリヒ・ランカスター。この世界を救いたいから
俺とまだ目覚めてはないがなんかしらの力がある可能性の
高いあの女の子の力を貸して欲しいわけだ。」
「そうだ。望むものは全て与える。
俺への無礼も許そう。
父上もご納得してくださるはずだ。」
一つ質問していいか?と男はニコッと笑う。
「王子様は、「ハインリヒでいい。」
「ハインリヒは婚約者...なんてもんいたりすんだろ?
さっきここに来る途中にチラッとメイドの声が聞こえたんだ。
何でも、明日から婚約者が同じ学園に通うとか。
お出迎えに夜はより婚約を固いものにするためにパーティー
も開くのに中止になるかもと。」
「ぁあ。確かに婚約者はいるし、
明日、婚約者と会うことはできないだろう。
それでそれが何か?」
なぁ。と男は言葉を続けた。
「その婚約者、
名をシンガ、シンガ・エレオノーラって言うんだろ。」
「ぁあ。そうだが。」
抑えきれない笑みを男は男らしいゴツイ手片手を
口に当てて隠す。
「いや。
ただ、勘がするんだ。」
「勘?」
「ぁあ、俺の親友が生きてるっていう勘だよ」
婚約者であるシンガとなんの関係があるんだ。と
不審に思いながらも「他になにかないか?」
と聞く。
「また何かあったら聞く。
それで、これからはどうするんだ?」
「皇帝である父に今までの事の流れとこれからの事を相談する。宰相や城の重役を集め今後についての会議も行われるだろう。お前に何か望みがあるならば、その会議の時に
話すといい。」
立ち上がり、行くぞ。と歩き出すハインリヒに続き
男も歩き出す。
部屋を出たところでハインリヒが振り返る
「そういえば、お前の名を聞いてなかったな。」
赤髪の男は綺麗な所作でお辞儀をし口を開ける。
「俺の名前は
渚。
桐生渚と申します。王子様。」




