起床する未来
暇だ。とても暇だ。
こんな時間、あまり感じたことがなかった。最初の一週間はよく眠っていたけれど、眠ることにも飽きてしまった。食事は日に三度。おやつもある。湯あみは日に一度だけでお願いした。朝と夕に提案されたときは驚いた。専用の小さな図書館もあるが文字がそもそも読めない。教師をつけると言っていたが未だ話が進んだ様子もなかった。
庭園はよく手入れされていた。東屋でのんびり花を眺めながらうたたねするのは至福だった。
うとうとしながら歌を歌う。前の世界の歌。そうすると、空気がきらきらし始める。
「色も変えられるかしら」
「大きさは」
「形を変えたり」
「動かしたり」
なんて、思考錯誤しているといつのまにか日が落ちようとしていた。
侍女がやってきてショールをかけてくれる。
「ルイーズ様、そろそろ風が冷たくなってまいりました」
「ええ、ありがとう。中に入りましょう」
魔法のある世界で、なんにもできない。
ここにいるだけでいい、なんて簡単で難しいのだろう。
ここにいるだけなんて、生易しいものではないか。これは軟禁だ。なにかしたいけれど、なにも思いつかない。私は何が好きだったんだろう。
一人の食事。一人の時間。一人の夜。
「ねえ、リーリー。私はなにをしたらいい?」
「外にでること以外のすべて、望むことをしていただけますよ」
「望むことねぇ」
自由を与えられて自由の中を泳ぎ回るというのも、とても難しい。
膨大な時間を前に、すくんでいるのかもしれない。
――こんな苦難、舐めて飲み込むぐらい……。
また声がした気がした。自分を励ましてくれてるみたいで心の奥から温かいものが湧いてくる。
「じゃあ、全部やろうかしら」
「え?」
「なんでもできるのでしょう?」
「え、ええ……まあ…ですが……」
「想像できること、ぜんぶに手を伸ばすの。そうしてたら、きっと、本当にやりたいことを握っているはずよ」
そう言って夜空に向かって手を伸ばした。
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