騒動は眠る
あの日、あの熱が出た日から丸三日、私は熱にうかされた。原因もわからず、ひたすら高熱が続いていたそうだ。再びシェラを失うどころか、この国土から魔力すらも消失される危機に立たされた中でブリエッドマンド国王は、自身らの”私”への冷遇が、魔力の源である私が神の元へ帰ってしまう、つまり魔力の消滅を意味する魔力返しを引き起こしてしまうのではと、いくつかのことを決定したという。
”私”が目覚めた折には、それを実行する。
それ、は、目覚めた私を驚かせた。
ひとつ、名前を改めること。
王女ではなく、聖王女という王女と同格の立場にすること。
結婚相手は王族から選んでほしいが、今すぐでなくていいということ。
他にも細かくあった。新たに作る宮に移ること。服を新たに選びなおすこと。髪色を魔法で変えること。瞳の色を変えること。王女としてではなく、一からの作法を学びなおしてほしいということ。
つまり、私を私と認めるということだった。
そして一切の冷遇はさせないという約束。
ひどく当たり前のことだとは思うが、同時にこの国からシェラの完全な消失を受け入れなければならないということだ。長い儀式、いやお葬式の末、私は、ルイーズと名乗ることとなった。神官より賜った名だ。髪色も瞳もシェラの美しい銀髪から、黒に、と思ったがあまりうまくいかず銀と黒のマーブルとなった。でも、これはこれでいいかと、これ以上の修正を望まなかった。
なにもかも、これからはこの広い黒晶宮で静かに暮らすだけなのだから。
「シェラ、あなたが長い髪を切っても良いと言ってくれるのなら、切ってしまいたいのよ」
でも、なんだかあなたが戻ってくる気がして、切ろうとは思えなかった。
召喚されて、毎日のように受けていた嫌味も、逢瀬も、舞踏会も、悲しそうな顔もなくなった。ようやく世界が静かになったことは嬉しかったが、問題がなくなったわけではない。でも、今は、頬に受ける清々しい風を思いきり吸い込んでいたい。
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