シェラとシェラ王女
王国歴1056年。
ブリエッドマンド王国、および周辺諸国は長い間、魔力の急激な衰退に頭を悩ませていた。魔力を源とする魔法とともに生きてきたからだ。そして魔力は、他世界の神子によってもたらされる。召喚魔法によって、この世界の最も高潔で清き、神の近くにいる魂と引き換えに……。
それが、シェラ王女で、私だ。
「なぜそれが許されるわけ?」
婚約者に手酷い言葉を投げつけて、そのまま顔を見ることもなく部屋に戻ってきた。次女も全員下げさせて、一人ベッドに腰掛ける。
この世界にきて数週間経つが未だに納得いかない。むしろ苛立ちが募るばかりだ。勝手に呼ばれて、そこは幽閉が決定している世界で、一生幽閉されて子作りをしろと、その相手は眉間にしわをよせながら愛を囁いてくる。
しかもだ、私の顔を見れば侍女も執事も国王も、悲しそうな顔をする。私が口を開けば絶望して、仇のように睨みつけてくるものもいる。これが一生続くのだろう。よく知らない世界の魔力のために……。馬鹿馬鹿しい。せめて元の自分のまま、この世界に来ていたら少し違ったのかもしれない。
ふかふかの布団にだらしなく大の字になり天蓋を見つめる。
元の世界にいた時、私はどんな人間だったんだろうか。いまいちハッキリと思い出せない。知識はあるが、産まれた土地や自分の本当の名前もわからない。全部がぼんやりしている。親はいたんだろうか。兄妹は? 恋人は? それとも天涯孤独だろうか?
私は幸せだったかな。
目から溢れる涙は、ひだまりのように生温く感じる。
コンコンコン……
ドアが遠慮がちにノックされる。ドレスを脱がせたい侍女だろうか。まあ確かに、コルセットは緩めてほしい。こんな綺麗なドレスに皺ができるのも本意ではない。でもなんだか今はなにもかも重くだるく身体にのしかかっている。返事もしたくない。
私は、はたしてこんなジメジメした人間だったろうか。ふと疑問が頭をもたげる。
こんな苦難、舐めて飲み込むぐらいしてみろ。
もう一人の自分が励ましてくるようだ。ふふっと、息が漏れる。「どうぞ」と一言返事をしようと口を開くが言葉にならない。でてくるのは吐息ばかり。いや、これは息があがっているのだろうか。身体の奥底から火の玉が産まれてくるようで。とても熱い。身体がちっとも動かない。自覚すればするほど、熱は上がっていく。焼かれているようだ。
この熱さは、私のものではない。魔力というものだろうか。
いや、熱の奥に人を感じる。これは、――王女、シェラ……?
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