6話:初めての魔法
※少しグロテスクな描写があります。
最近は先生が歴史の授業を重点的にやるようになった。
しかも、この前の授業以降、先生が魔法のことをほとんど教えてくれなくなった。いや、正確に言うと、教えられることが何もなくなった、ということ。
先生は、
「いいですか、魔法はとても危険です。遊び半分で使ってしまうと大事故につながります。そのため、今すぐにほいほいと教えるわけにはいきません。この国の歴史の大まかな流れが学びおえたら教えてあげましょう。」
と言っていた。そのため、一通りの魔法の基礎知識を教えたらそれ以上教えられることがないらしい。とはいっても、魔力の溜め方、毎日できる魔力トレーニング、詠唱の意味これぐらいだったけどね。
今日は休日で先生が来ないからフリーだな… どうしたものか。本当にやることがないんだよな。
父さんは…… 休日なのに仕事か。大変だな。じゃあ母さんに掛け合ってもらって出かけてみようかな。
この体がこの世に生まれて5年。僕の魂がこの体に入ってから… 2週間が過ぎたな。
2週間も経ってるのに1回もこの家から出た事がないってよくよく考えたらヤバいな…
窓から見える街並みは、古風なヨーロッパの町並みみたいな感じかな?
きちんと並べられた石畳、きれいな街並み、透き通るほど青い空。本当にきれいだ…
これは外に出てみたくなるな。
よし! 母さんのところに行こう。
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「ママ、ちょっと外に出てみたいんだけど、連れて行ってくれない?」
すると、母さんは少し困ったような顔をした。
「う~ん、そうねぇ… 連れて行ってあげたいのだけれど私は今日おしごとがあるのよねぇ」
え!母さん仕事してたの? てっきり父さんのところに嫁いで来てから仕事をしてないと思ってた…
「だから、フィーナと一緒に行くならいいわよ。」
結構あっさり許可してくれた。意外だな。街並みもきれいだったし、治安とかも安定してるのかな?
「わかった、気を付けて行ってくるよ!」
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「おい嬢ちゃん、その恰好、どこかのメイドか? じゃあそこにいるのはいいとこの坊ちゃんか。今日はいい酒が飲めそうだ。」
家の敷地から出て早5分。速攻、路地裏で絡まれました。5分前の「この世界は治安がいいんだ」とか思ってた自分を殴りたい。
しかも、ただのチンピラとかじゃなくて、顔を覆面で隠した犯罪組織の一員みたいなのに集団で絡まれたし。
……ほんとにこれ大丈夫? 誘拐されても多分僕は殺されたりしないだろうけど、フィーナの安全は保障できない。
どうしよう。手詰まりだ。なんてことを考えてると、フィーナが不意に口を開いた。
「失せろ、下種が。この方はお前たちが指1本たりとも触れていいものでは無い。さっさと消えろ。そうすれば許してやる。さもなくば……」
そこまで言ったフィーナの次の言葉は目の前の男たちの笑い声でかき消された。
「「ギャハハハハハ」」
「この女、何をイキがってんだよ! えぇ?俺たちをどうするって? そんな小さな声で呟いてないで、でかい声で啖呵切ってみろよ。可愛がってやるからさぁ」
そうして、目の前の男が無造作に近寄ってきた。
何してんだよ、フィーナ! ここは、どうにか人を呼ぶか、逃げ出すしかないだろ!
絶望がすぐまで迫ってきた…… と、考えた瞬間、近寄ってきた男の右足が吹き飛んだ。
いや、正確には切り飛ばされたというほうが正確だろう。どうして、誰が、なんて思っていると、フィーナが口を開いた。
「私が一介のメイドだと思うなよ」
冷たい声が地面でのたうち回ってる男に降り注いだ。
一瞬、あっけにとられていた取り巻きの男たちがすぐに持ち直し、各々、武器を取り出す。
なるほど、フィーナが魔法を放ったのか。初めて見る魔法。足を切り飛ばすなんてどんな魔法を使ったのだろうか。
そんな光景を見てもなお、向かってこようとする男たちを見て、哀れとも、勇敢だとも思った。
「おい、お前たち。来い。」
フィーナが空に向けてその言葉を放った直後、黒いローブに身を包んだ者たちが付近の建物から飛び降りてきた。全員、フードで顔を隠している。
なんとか顔を見ようと思い、覗き込んだけど、その者たちの顔は真っ黒だった。まるで、そこの空間だけ抜け落ちているような。これもある種の魔法なのだろうか。
覗き込んだ顔を見てしまい、驚いている僕を見て黒ローブ集団のうちの1人が話しかけてきた。
「安心してください、ローレンス様、私たちは味方ですよ。ただ、あとでフィーナには少し話があります」
女性の声だ。この声、どこかで……
フィーナはその言葉を聞いて、顔をゆがませていた。何かやらかしたのだろうか。
黒ローブ集団は男たちに相対した。今からなにが起こるのかと食い入るようにその光景を見つめていると、不意にフィーナが僕の目をふさいできた。
「ちょっ、フィーナ、何するの!?」
僕はその光景をもっと見ていたかった。正確には、黒ローブ集団がどのように戦うのかが気になった。
「ロール様にはまだ早いですからね」
と言って僕を路地裏から押し出した。なんだよ、フィーナのやつ。もうすでに自分が人の足を切り飛ばす様を見せたくせに。別に気にしてないけど。
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そのまま、おしゃれな雰囲気のカフェに連れていかれた。フィーナがカフェのマスターに小さい声で何かを伝えると、カウンターの奥の部屋に通された。そこには、向かい合うように置かれたソファーと間にシンプルだが、よくできた木製の机がおいてあった。
そして、向かい側のソファーには黒いローブに身を包んだ女性が座っていた。先ほどと違うのは、フードをかぶっていないということだ。黒いローブに負けない美しい黒髪だ。
僕はこの人を知っている。この人はうちのキッチンメイドだ。
「フランチェスカ、なんでここにいるの?」
フランチェスカは小さく微笑むと僕たち2人に座るように促した。
「その話以外もしなければならない話がるので、まずは座って飲み物でも飲みませんか?」
その言葉に従い、僕たちはフランチェスカの反対側に座った。僕たちが座ったのを確認するとフランチェスカはカフェのマスターを呼び、いくつか注文した。
「ここはどこ?」
二人に聞くと、フィーナが答えた。
「ここは旦那様が秘密の商談にお使いになる部屋です。」
「まぁ、最近は使っておられないですが。」
と、フランチェスカが補足した。
そうこうしているうちに、頼んでおいたリンゴジュースが来た。僕は前世でもコーヒーが飲めなかった。父さんが「いずれおいしく感じることになる」なんて言ってたけど、一生飲めない気がする。
そんなことを思い出していると、フランチェスカが口を開いた。
「まず、ローレンス様を危険な目にあわせてしまい申し訳ありませんでした。」
その言葉と同時に、フランチェスカとフィーナが頭を下げる。
いや、全然大丈夫なんだけど…… むしろ、魔法が見れてありがたいくらい。
「いや… 大丈夫だよ。フランチェスカ達とフィーナが助けてくれたんだよね? ありがとう。それと、さっき助けてくれた人は大丈夫なの?」
その質問にはフランチェスカが答えた。
「ありがとうございます。あの者たちは大丈夫ですよ。やわな鍛え方はしていません。」
フランチェスカは笑いながらそう言い切った。僕が、彼らの無事に胸をなでおろすと、どの様子を見ていたフィーナが口を開いた。
「それと、もう1つ。怒りに身を任せ、ローレンス様にお見苦しいものをお見せして申し訳ありませんでした。いかなる罰でもお受けします。」
あぁ、それがあったな。僕は初めての魔法を目の前にして驚いていただけなのだけど… もしかしてそれが彼女たちの目には恐怖しているように映ったのだろうか。
「謝る必要ないよ! 僕は大丈夫だよ。それより、フィーナの魔法が見れて楽しかった。今度、もう1回見せてくれない? 僕も魔法を使えるようになりたい!」
僕がそう言うと、2人は安堵していた。僕の心にトラウマを植え付けてしまったのを危惧したのだろうか。
ぶっちゃけ、あの光景を目の当たりにしてグロテスクだとは感じた。ただ、その直前に怖い思いをしたせいだろうか。それが残酷だとも、かわいそうだとも思わなかった。
「それでは、気になることがあれば質問をお願いします」
そうだ、聞きたいことが山ほどある。それを聞かないことには納得はできない。
まず何から聞くべきかな……
今回も2部構成になりそうです…