1話:誕生しました
やっと物語が始まりましたね。一安心です。
うーん、うーん、むにゃむにゃ…
ハッ!
…ここは? 詳細をよく聞かずに転生を承諾しちゃったから、わからないことが多いな…
そもそも今は朝なのかな? それとも… いや、いいや。
なんというか ……不思議な感覚だなぁ。
まず、視界が低い。横を見ようとすると、枕に顔がうずまってしまう。
…この枕、すっごく気持ちがいい。どんどんと顔が沈んでいく。
体を動かしてみる…… 問題なく動くね。少し体が小さい気がするけど……
前世で読んだラノベでは、5歳ぐらいの時期に急に前世の記憶とか、力の目覚めるなんてのがあるけど……
せめて5歳ぐらいだったらな……
この精神年齢で、大人たちによちよちとあやされるのは結構心に来る気がする
枕に気を取られてたけど、この布団もふかふかだな。
眠たくなってきた。布団に身を任せるとスッと意識が落ちて行った。
…………
……
…
「――きて―― ――きて―だ―― 起きてください。」
うーん… ちょっと待って。あと…あと5分… あと5分だけ……
………
……
…
「もう朝食ができてますよ。それに、どこでそんな言葉覚えたんですか…」
朝ご飯… いいにおいがするな…
「わかった… 着替えていくから先に行ってて」
その言葉を言った瞬間、隣からハッと息をのむ音が聞こえた。
「ひとりで服を着替えられるようになられたんですね!素晴らしいです!このことを旦那様に伝えに行かなきゃ」
それはバタバタと部屋を出て行った。
それにしても誰だったんだろう。口調からして両親ではなく、メイドかなんかじゃないかな。
…よし、起きて着替えるか。
ベッドから身を起こすと、そこはとても広い子供部屋だった。周りには、木で作られたおもちゃや、本棚に収められた絵本がたくさんある。なんというか、周りの景色と部屋の広さがミスマッチだな…
ええと、着替えはっと。 ……あったあった。すごく肌触りがいい服だな。絹?木綿? 絹と木綿は豆腐か。どうでもいいな。
さっさと着替えて朝食を食べに行こう。
……ん?
たんすの上にあるこれは…鏡か? 鏡にしては曇ってるな。おっ、でも自分の顔ぐらいなら見えるぞ…
ふむふむ…
僕、めっっっっっっちゃイケメンじゃね? つやつやですっごい滑らかな黒髪! 多分4歳とか5歳じゃないかな。ぱっちりとしたキレイな黒目! 優し気な顔立ち! 4,5歳でこの顔なんて、こんなんモデルか、アイドルなれるわ! 多分そんな職業ないけど!
よし、普段着だと思われる服に着替えたから朝食を食べに行こう。
周りの人に、違和感を抱かせないようにしないと。
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匂いのするほうは… 1階か。というか僕の部屋の大きさも含めて、この家すごいサイズなんじゃない? 貴族の家かなんかかな。
おっ、ここだ。ふーっと深呼吸を。ぼろを出さないように気を付けないと。
よし、行こう。
ダイニングであろうと思われる部屋に入ると、二人の人物に目が行った。
ひとりは、父親だと思われる人物。もう一人は母親だと思われる人物。というか、この二人が僕の両親で間違いないだろう。なんというか… そんな感じがする。
父親はダークブラウンの髪に、温かい茶色の瞳。イケメンだ。僕の顔は父親にではないだろうか。
一方、母親の黒髪、黒目の美人さん。多分、僕の髪と瞳は母親譲りだろうな。
もう会えないと思った両親に会えてはやる気持ちを抑え、上ずった声であいさつをした。
「父上、母上、おはようございます。」
ペコっとお辞儀をして、顔を上げると……
そこには信じられないような顔をしている父親と、涙ぐんでいる母親の顔が!
…あれ、なんか悪いことしたかな。 な~んて思ってたら、二人が堰を切って話し出した。
「どこであいさつを覚えたの!? まだ教えてないのに! この子は天才よ! あなた、この子は将来とんでもない大物になるわ!」
「あぁ、そうだね! 絶対に大物になる! ひとりで着替えるって言いだした時点で今日はお祝いの予定だったが、盛大に祝わなくては! フィーナ!今日は この子の好きなものを作ってあげなさい!」
「はい! 旦那様!」
フィーナと呼ばれたこの人は服装からしてメイドだろう。僕を起こしに来た人と同じこえだ。
「そ、そんなたいしたことじゃないよ…」
なんか大変なことになりそうだったから一応フォローを入れておいた。グッジョブ!僕!
「まあ、なんて謙虚なのかしら!」
あれ? 効果ないな?
「その口調もいいけど、いつも言ってるようにもっと甘えていいのよ?」
そこまでで限界だった。前世の両親の口癖のその言葉がきっかけで隣同士に座っている両親のもとに飛び込んだ。目からは自然と涙が零れ落ちていた。
これだ。この二人が。この二人だけが僕の父さんと母さんだ。
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結局両親も泣き出し、なぜかフィーナも泣き出したことで収集が付かなくなっていた。
小一時間両親とともに泣き、落ち着いたところで朝食を食べて、子供部屋へ向かった。
どうやらまだ『僕』の魂が入る前の僕は、うまく両親に甘えられてなかったらしい。
急に甘えだしたのは、甘えたかったけど、どうやったらいいか分からなかった、
貴族の子供みたいな口調は、出かけたときにすれ違った人の中で使っている人がいたから、それを真似した、ということにしておいた。
なんか…… ほっとしたな。女神さまの加護もあるらしいけど、それは話半分に聞いといて、自分で頑張って大切な人たちを守れるようになろう。
書くのが楽しすぎます!