プロローグ②
2話目です。今回こそ転生します。
つい先ほど、線路に飛び込んだ…… はずだった。
「ここは…」
あたりを見回す。日本の病院とも駅とも違う場所だ。
なんなら、現実でもなさそう。
あたりには何もなかった。ただ、無限に白い空間が広がっているだけ。
床、空どちらも真っ白のため、何にもないこの空間の寂しさを加速させている気がした。そもそも、空があるのか…?
「夢…?」
僕がひとりでにつぶやくと、どこからともなく答えが返ってきた。
「夢じゃありませんよ。佐藤湊さん?」
その者は人でも、地球上に存在する生物でもなかった。少なくとも僕が知っている生物ではない。
目を見張るほどに美しい黒髪に、引き込まれそうな深い蒼色の瞳、まるでウェディングドレスのようなドレスを身に着けている。そして、その背には2対の純白の翼があった。
「あなたは…誰…?」
知人(人ですらないかもしれないが)にこんな美人がいるかどうかを必死に思い出しながら、僕は勇気を振り絞って質問した。
「「……」」
お互い一言も発さない。僕は驚いた表情のまま、整った笑みを浮かべる目の前の者と互いを見つめあっていた。
重苦しい沈黙が続く。居心地が悪い…
「フフッ」
その沈黙を破ったのは目の前にいる者の笑い声だった。
「つい先ほどまで話していたのに忘れちゃったんですか?」
さっきまで話していた……?
「まさか……駅で話しかけてきたあの女の人…?」
ほんの数瞬の沈黙の後……
「ぞうでしゅよ~‼ あの時駅で話しかけたのがわだじでずよぉ~!!!」
「えぇ…」
何この人。さっきまで凛々しい表情を浮かべてたのに今ではぐしゃぐしゃだ。
美人の涙は美しいといえども、ここまで取り乱していると、ねぇ……
この人、どうしたらいいんだろう。
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結局、10分ほど泣き続け、目の前のものは泣き止んだ。組み付かれて泣かれたから、服に涙が……
「コホン、失礼しました。私はレア。女神のレアです」
「め、め、女神~!?!?」
「そうです、女神です」
女神ってなに!? あの女神? いるの? てか、いたの? 本物?
確かに、目の前のものには羽が生えている。しかもこの謎の空間。目の前のものを女神として信じるには足る条件、だけど……
「ほ、ほんとに女神だとして、この場所は何なんですか? 夢? それとも、死後の世界?」
目の前の自称女神は自信満々に答えた。
「死後の世界ですか…… 半分あたりですね。ここは私が作った領域。なぜこの空間にいるのか、これまでの経緯、そしてこれからのこと。話さなければならないことがたくさんあります…… 立ち話もなんですし、座りませんか?」
それを言い終わると同時に、ポンっという音とともに向かい合ったソファーが現れた。もちろん純白。
この部屋カレーうどん厳禁だろ…
こんなことができるんだったら本当に女神なんだろうか…
湊がそんなことを考えながら恐る恐るそれに座ると、女神も向かいに座り、話を始めた。とんでもなく座り心地のいいソファーである。
「まず、あなたに謝らなければなりません」
「え?」
謝罪? いきなり? まだ何も知らないのに?
「あなたのご両親が亡くなったのは私のせいなんです。
私があなたたちの世界の女神としての仕事をしている最中、私がミスをしてしまい、それによって運命が変わってしまったんです」
「……」
絶句。父さんと母さんの死因についてもだけど、女神とかいうとんでも存在から謝罪されたという事実に固まってしまった。
「そして、あなたのご両親が亡くなった後、私がミスに気づき、急いで現世に行きました」
「……それは私の自殺を止めるためにですか?」
女神様が普段どんなことをしているのかは知らないが、現世に行ったということはそういうことだよね…
「そう…ですね。結局止められませんでしたが……… グスッ」
まずい、今にも泣きだしそうだ。
「いえ、私はあの時おかしくなっていました。きっと誰だって止められなかったと思います。」
……優しさからのフォローじゃないけどね。
「ありがとうございます。次にこの空間は何なのか、なぜここにいるのかについてですが、私が連れてきました」
「連れてきた?」
気を持ち直してくれてよかった。
「えぇ、本当はあのままあなたは死んで、そのまま死後の世界に行く予定でした。
しかし、あなたたちが亡くなってしまったのは私に原因があります。
……そのため、新しい人生をあなたたちに上げようと思って」
「新しい人生?」
ついていけない…… 頭の痛くなりそうな話だ
「はい。ただ、さすがに同じ世界に転生は無理なので、別の世界に転生してもらいます」
眉間を指でぐりぐりと押す。
「ちょ、ちょっと待ってください。さすがについていけません。もうちょっとわかりやすく、詳しく話してもらっても……」
「あぁ、ごめんなさい。つい話を急ぎすぎて。何かわからないところがあれば今質問してください」
質問って言われてもな…… どうしたらいいんだろうか
そもそも何にもわからないしな…… あぁ、これを聞いとかないとな。
「あの、初歩的ですが… 転生って……」
「確かにそうですね。あなたたちは、剣と魔法の世界―― いわゆる異世界に転生してもらいます。転生というのは、同じ魂を違う器に移すことです。」
思いっきりラノベやんけ! でもちょっとワクワクするかも…
もちろん、僕にもそういう時期があったわけで… 剣と魔法の世界と聞いてワクワクしないはずがない。
「あなた『達』というのは…」
僕は新しく湧いた疑問をぶつけてみた。
「あなたと、あなたの両親という意味ですよ。あなた以外の二人は、記憶を受け継ぐことはできませんが… 同じ魂ですし、見た目が違うだけで同一人物ですよ。」
「それは本当ですか! 良かったぁ……」
それなら安心して転生できる。
「それでは、転生をお願い… 」
いや、ちょっと待て。さっき剣と魔法の世界と言ってなかった…? もしそうならそんな世界で安全に生きられる気がしない… 違う世界に行かせてもらうか、いや… でも…
目の前の女神はすべてを見透かしたようにフッと笑った。
「安全については大丈夫ですよ。もうあんなミスが起こらないよう、ご両親には女神の加護を授けます。あなたにも力を与えましょう。それも、世界有数の実力者になれるほどね…… あ、もしかして私にそんなことができないと思ってます?
フフン、私、現世を任されるほど優秀な女神なんですよ? あまり見くびらないでください」
なんか急に女神が自慢をしてきたんだけど…… まぁいいか。
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「そう…ですね。それでは転生をお願いします。あっ、それと、そんなに強い力は、いりません。使いこなせる気しませんし。自分の大切な物が守れればそれで充分です」
「!… えぇ、わかりました。それでは、転生を開始します。あっ、それと、もし私に会いたくなったら、どんな形でもいいので祈りをささげてください。私は暇… ゲフンゲフン、あなたのためなら時間を取りますので。それでは」
なんか雑だなぁと思いながら僕の視界は白い光で埋め尽くされた。