8:なんだか人気者ですか?
「オーウェンス様! 扇風機はオーウェンス様考案って本当ですか?」
「ええ。私が考えましたわ。もうご利用になりまして?」
「はい! とっても素晴らしかったです!」
「それが聞けて嬉しいですわ。――あ、意見とか不備があれば、逐次言ってくださいね。そう言う生の声が、1番大事ですから」
「すげえな……」
「ああ、なんでも。あの扇風機って言うアイテムは魔石問題も解決するらしいぞ?」
「マジかよ。秀才にして、それを決して気取らない。まさに領主の鏡だな」
「…………」
ボクの考えたアーティファクト(命名:ボク)は予想以上に大反響らしい。
本来この暑さを耐えるためには、我慢と少しばかりの魔法だったらしいが、ボクのアーティファクトはそれを覆す。
必要なのはほんの少しばかりの魔石。しかも低級魔獣で取れるものでいい。
誰にでもわかりやすく、その上庶民にも買い求めやすい値段。
カルバン商会はなんでも、代表は元庶民。
生まれも魔法の才能も生粋の庶民止まりだったそうだ。
必死に努力して、わずか一代で大商会にまで上りつめた。
まさにエリート中のエリート。
そんな生い立ちもあってか、庶民にも買い求めやすい値段を基本理念にしている。
(もちろん貴族向けの販売も取り扱っているが。)
ボクはその心意気に惹かれて、選んだまである。
「ただでも……」
最近は、人と触れる機会が多すぎる……。
公式チートのおかげでこうなったのは嬉しい反面、しんどい全面だ。
「無理もないですよ。オーウェンス様はそれだけ、すごいことをやってのけたんですから」
リリィはボクにお茶を差し出した。
「……リリィ、敬語」
「――あ、失礼……じゃなくて。オーウェンスはもっと誇ってもいいのよ」
「あ、お茶ありがとね。そうはいってもなあ……」
ボクは心労相まって、机に突っ伏した。
「行儀悪いよ、オーウェンス。次期当主としての自覚を持ちなさい」
リリィはボクを正しく座り直させた」
「――少し、いいでしょうか」
話しかけたのは、カルバン商会の息子クライム君だった。
「ええ。どうしましたか? リリィ、お茶を」
ボクはすぐさま淑女モードで対応する。
「お気遣いなく。……失礼する」
カルバン君はその体躯とは裏腹に軽やかに座った。動けるタイプなのかもしれない。
「それで、ご用件というのは?」
「いえ、一度こうしてお話しがしたくて、参りました」
「お堅くならないで。私とカルバン商会の仲でしょう?」
「……承知しました。ところで、あの発案者は本当にオーウェンス様なのですか? ――あ、いえ。疑っているわけではなく」
「ええ。うちの図書館に可愛いドラゴンがいまして、そこで魔法の講義を受けた際、閃きまして」
こいつ、なかなか敬語外さないじゃないか。――今は営業モードなのか。
「あの暴君アックスを可愛い呼ばわり……いえ、失礼。――ということは魔法もお使えるのですか?」
「ええ……軽く5大属性…………」
「――コホン! ……失礼しました」
リリィはわざとらしく席をした。
「――じゃなくて、アックスのお陰ですわ。私一人では、まだ魔法は早いですわ」
ボクは左手の腕輪を触りながら答えた。
「……そうですよね。まだ入学して数ヶ月ですから。……そろそろ、魔法の授業も始まるそうです。お互いがんばりましょう」
「ええ」
カルバン君は、「お茶、美味しかったです」と、言葉を残し去っていった。
結局何が目的だったかわからない。
「――オーウェンスは人気者だね」
「別に。探りを入れてきたんじゃない?」
「それもあると思うけど……ただでも。それだけじゃ、なさそう」
「というと?」
「――まあ、私の気のせいかも」
「そ。まあ言いたくなったら言って」
「うん。えっと……ていうか、オーウェンスは迂闊すぎ」
「あはは……それはボクも思った……」
「いい? 5大属性全てに適性あるなんて、前代未聞なんだから。そこのところをもっと意識してよ」
「ごめんなさい。次は気をつけるよ」
「それと……」
「ん、なに?」
「この口調やめてもいい……? なんだか、私っぽくなくて、あまり好きじゃないの」
「らしさ、らしさねえ……」
ボクはその言葉に少しセンチな気持ちになった。
かつてボクも、らしさを求めるあまり、周りから孤立してしまうことが多くなった。
自分らしくやってるだけなのに。やっていることは周りと変わらないじゃないか。
半袖を着て、短パンに足を通す人もいれば、ふわふわの服を着て、スカートを履く人もいる。
ーーそれとまったく変わりないじゃないか。
それなのに、周りは…………。
ーーーーそうか、ボクのやってることも同じなのか。
理想を押し付けちゃあいけないよね…………。
「――オーウェンス、オーウェンス?」
リリィはボクの顔を覗きこんでいた。
「……ん。あ、ごめんちょっと考えごとしてた」
「しっかりしてよね、もう」
「リリィ」
「なに」
「今まで散々タメ語とか強要してたけど、これからはリリィの好きなようにしていいからね」
「え、それって……」
「ううん。そんな深い意味じゃないんだ。押し付けるのは良くないなあっていう話」
「……そうですか! 嬉しいです。やっぱり公共の場ですから、こういうことは、本当に二人の時だけにしたいなって思ってたのですよ……」
リリィはとても嬉しそうだった。同時にボクの胸にもなにかが刺さった。
「…………リリィ」
「はい?」
リリィは可愛らしく小首を傾げた。
「カワイイ……じゃなくて。そういうセリフはボクだけにしてね……ほんと…………」
「……? もちろん、そのつもりですが」
「がはぁ!」
「オーウェンス様!?」
ボクは久しぶりにリリィの言葉に射殺された。
リリィの天然攻撃によって、ボクは出血過多だ……あ、やべ死ぬ…………。
ピーーーーーーーーーーーーーー。
「オーウェンス様!?!?!?」
数時間後、なぜボクは今保健室のベッドにいるのだろうと、首を傾げるのはそれはまた別のお話。