表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/68

7:突然のお呼びですか?(後編)

 今回は少なめです。何卒何卒。

 戦犯(お父様)の申し出を受け入れて数日後、案の定ボクは暇をなくしていた。


 やはりお父様の目に狂いはなく、どの商会もボクに交渉をかけてくる。


 もちろん、ビーバイシーは考えるよ? ウィンウィンが1番。


 ボクの足元を見るような人は、満点の笑顔でお帰ししますわあ。


 ――あ、令嬢役にも板がついてきた? 



「それで、オーウェンス様」


「は、はい」


 いけない。まだ商談中だというのにぼーっとしちゃった。


 しかも今交渉しているのは、あのカルバン商会なのに。


 今後とも、仲良くしていきたいが、それも交渉次第だ。


「――えっと、生産はそちらにお任せしますわ。私はあくまで特許権と、少しばかりのお情けを頂けたら嬉しいですわ。今後ともそちらとは仲良くやっていきたいので」


「特許権、ですか……?」


 あ、そうか。この世界ではまだないのか。


「えっと、つまり私のアイデアであると言うことがはっきりわかれば、いいのです。例えば、我が家の家紋とか、それだけでブランド化につながりますから」


「なるほど。ではオーウェンス様はこれ以上のアイデアを持っていると……?」


「さあ……」


 ボクは笑顔で返した。


「……そうですか。では今後の方針ですが……」

 それからは滞りなく商談は進んでいった。今後も、カルバン商会とも仲良くできそうだ。



「疲れたぁ……」


「お疲れ様です」


 来客用のソファに突っ伏していた自分に、リリィが紅茶を差し出してくれた。


 今日は、砂糖とミルクがたっぷり入ったミルクティー。うん美味しい。


 ――リリィは本当によくできた使用人だと思う。


 ボクの贔屓目なしでもそう思う。どの使用人とも仲良いいし、学校でもリリィはクラスの中心だ。気配り目配りを常に怠らず、誰にでも優しく笑って、手を差し伸べてくれる……。


 ――なんか、こう考えてくると、ボクとリリィがふスァしくないような気がしてきた。


「んん……」


「どうかされましたか? お口に合いませんでしたか?」


「ううん、とっても惜しいよ。ありがとう。でも……」


「はい」


「リリィに何にもしてあげられないのが、悔しいなあって」


「――っ! い、いえ! お、オーウェンス様はそのままでいいのです! 私は、あくまで使用人ですから……」


「使用人であると同時に、ボクの婚約者でもあるんだよ?」


 ボクはリリィの左手を取った。


「〜〜〜っ! お、オーウェンス様はおかしいです。……私たちは女の子、なんですよ……?」


 リリィの頬は紅潮し、潤んだ目でボクを上目遣いで見る。


 その言葉と挙動にどうにかなってしまいそうだった。


 ――しかし落ち着け。クーデリカ・オーウェンス、10歳。


 そう言うことに発展するのはまだ早い。


 リリィの言葉を引用するなら、もっと段階を踏んで、だ。


 だからこそ、ここはしっかりと大人の対応を……。


「……そうかも。ボクはリリィといるとちょっと、おかしくなるんだ……」


 リリィの金色の髪に指を這わせ、絡めとる。


「お、オーウェンス様……まだ、ダメですぅ……!」


「リリィ…………」



「――オーウェンスか? 失礼するぞ?」


 刹那、ボクらの思考は急激に冷却された。


 リリィは元いた場所に、ボクは優雅に紅茶に口をつけた。……むう、冷めている。


「入れ直しますね」


 リリィは何一つも問題ない澄まし顔でボクの紅茶に手を取った。


 ――あ、よく見ると、頬が少し紅い。


「お、お父様……どうされましたか?」


「首尾はどうかと思ってな。聞いたところによると、結局カルバン商会を選んだらしいじゃないか」


「ええ。私の部屋の鏡も素晴らしかったですし、何より、庶民にも親しまれております。貴賤問わず、市民の方々にも普及していくのが、領主の娘の勤めですわ」


「うむ。私の教えはしっかりと受け継がれているようだな。関心関心」


「それに。経済を回すには、やはり上のものより庶民を動かすのが1番です。……富裕層の相手をするのは少し気が滅入りますわ……」


「そうだな。それは追々、オーウェンスに任せるとしよう」


「はい。それが領主の一人娘としての勤めですわ」


 ボクは笑顔で答えた。


「さすが我が娘だ」


 お父様は私の頭を撫でて後にした。


 約束は守ってくれるあたり、なんだかんだしっかりしていると思う。


「あの、オーウェンス様……」


「ーーリリィ。今日ボクはもう部屋に戻るね。用があったらまた呼んで」


「あ、はい……」


 その日のリリィはどこかもどかしそうな顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ