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61:ひとりで

「――それで、俺たちがなんだって?」


「ああ。どうやら私たちの力は心許ないらしいそうだ」


「そ、それは――っ!」


 あなたちじゃ太刀打ちできないから……っ! 


「ひっでーな。確かにオーウェンス様に比べれば見劣りするが、元々、俺たち三人は上流階級の中じゃあ、天才って呼ばれていたんだぜ?」


「クライム様に、フェーリ様が……?」


 ボクは二人の顔を見る。一人は偉そうに、もう一人は恥ずかしそうにした。


 あり得ない。


 以前の世界では彼らはボクの十分の一の魔力量だったはず。


 どう考えても、帳尻が合わない。


 唐突な魔力量の上昇、聞いたことのない新事実……。


 …………もしかして! 


 これは、繰り返しているのではなく、並行世界だと……!? 


 それならない話じゃない。ここはゲームの世界なんだ。ボクが学園に残る選択肢、それを取ったら、必ず分岐ルートが起こる。今回は、皆に実力を隠して、ひたすら努力する。それをとったからそうなったのかもしれない。


「――わ、わかりました……あなたたちの実力は確かなものなのでしょう。しかし、これ以上は危険です。学園の結界を抜けてください」


「断る」「お断りだな」「断らせていただきます」


 三人は口々に言った。


「み、みなさん! これは訓練や遊びではないのです! もしかしたら死ぬかもしれないのですよ? それをわかっていますか?」


「それを言ったら、オーウェンス様の方もでしょう」


 今まで黙っていたフェーリが口を開いた。


「オーウェンス様は確かにお強いです。私たちの助けなんて、必要ないかもしれません。しかし、今回の事件は黒幕がいます」


「――っ」


 確信をついた言葉にボクは答えられなくなった。


「今回の事件は、緻密に考えられた作戦に見えます。魔物に魔人、それに学園長がいない時期にです。知性のない魔物が、それを狙って、ここを襲撃できるとは思えません。それに、このミリテムの地は大規模な結界が張られていました。しかし、それを破らず――破れなかったのかもしれませんが…………現状を見る限り、標的は私たち学園のものだけと考えると妥当です。その証拠に……あちらを」


 フェーリは破られた壁の向こうを指差した。


「あれは……まじかよ」


 クライムはその光景に目を見張った。


 学園内には大量の魔物、しかし、魔物は街へ出ることなく結界周囲に沿って、避難した人を追うように群がっていた。


「はい。この学園にも複数の結界が張られています。私たちは学園のものを街へ避難させました。普通なら追ってくるはずです。しかし、魔物は結界から出られす、こうして結界の内側に残っています。結果、犯人は学生を狙った犯行、と言えます」


「なるほど……っ!」


 フェーリの鋭い推理に、ユリウスたちはとても感心しているようだったが、ボクは内心ヒヤヒヤしていた。


 襲撃のことしか考えていなかったので、経路のことは全く頭に入れていたかったのだ。


 あっぶねー! 


 避難させたけど、街全体が襲われてたらまじで詰んでたからな、これ。


 もし、街の結界ごと破壊されていたら……考えるだけでも頭痛が痛い。


 ……あ、いや、ボク馬鹿じゃないからね!?


「――と言ったふうに、犯人は私たち生徒を狙った大規模な襲撃事件を起こしたといえます。ここまで知能が回る相手、魔人……いえ悪魔相手だと考えるのが普通です。ここはみんなで協力して、その犯人を倒した方が得策です」


 フェーリの提案に二人は頷いた。


 ――――そうじゃない。残虐のグリンニッドはみんなで協力して勝てる相手なんかじゃない。ボクが皆を巻き込むことが心配のない確実な一手で仕留め切らなければ……っ! 


「――ち、違うっ! あれは人間が勝てる相手じゃないの!! ――チェイン!」


 ボクは三人を魔法で拘束した。


「……オーウェンス、どういうつもりだ」


 ユリウスはボクを睨んだ。


「恨まないでください。こうするしかなかったんです」


「考え直すんだ。皆で悪を倒そう」


 彼らは口々にボクを説得する。しかし、それは無意味だ。


「――いいえ。悪を倒すのは……グリンニッドを倒すのはボク一人で十分です。さようなら」


 また、この惨劇が終わってから。


 ボクは鎖を学園外に向けて投げた。

次回は明日0:00です

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