59:迎えた“ひ“
明けましておめでとうございます。主はしばらく勝手の休養をとってしまいました。
結局、目標は果たせませんでしたが……申し訳ございません。
今年もよろしくお願いします。今後の方針は追って伝えようと思います。
そして迎えた三度目の迎春。ボクはいつになく緊張していた。
当然だ。失敗すれば、今までの努力は芥となる。絶対失敗できない。今度こそ必ず成功する。必ず、リリィとこの月を乗り切っていやる。
決戦は魔法科の時間、正午だ。この時間に彼ら――黒装束の魔人もやってくる。
まずは彼らを殲滅、雑魚相手に手間取っている暇はない。
そして次に混乱に乗じて逃げたグリニッドを捕捉、排除。体の端から中心にかけてなぶり殺してやる。助けを懇願されてもすぐには殺さない。限界の死線を何度も何度も見せてやる。
そう思っているうちに複数の魔力反応が現れた。
「――くる」
彼らが、くる。
唐突に学校のガラス天井が破られる。そして手下の一人が、
「ギャハハははは! 魔人様のご登場だぜえええええ‼︎ おらさっさと血肉よこせやゴラァ‼︎ ギャハハはははは……」
「――神技『ユズリハ』」
即座に身体強化、接近、排除された。
「――は? はあああああああ⁉︎⁉︎」
胴体を断たれた雑魚Aの頭部は宙を舞う。そして、軽やかに転がり落ち、消失した。
「まずは一体」
「何者だっ!」
五人の手下のうち、まとめ役らしい雑魚Bがボクを名指す。――あ、今は四人か。
「うるさい黙れ死ね。雑魚は雑魚らしく、さっさと死ねばいいんだ」
「――――っ⁉︎!?」
その時、オーウェンスの視線は周囲を戦慄させた。何度も死戦を駆け抜けたような軍人のような眼。それは普段のオーウェンスから想像できないものだった。
「きゃあああああああああああ!!」「に、逃げろ」「助けて!」
――と、遅れたように悲鳴や諦めの声、それらが混じった惨禍になる。魔人が急にやってきたのだ。無理もない。
グリニッドはもう――いないか。混乱は遅れてやってきたものの、気は十分に取られたからな。さて、さっさと片付けるとしますか。
「さっきの技に、今の目線……そうか、あれが主人の言っていた危険人物か」
「そうですね。あの魔力量に制御精度、普通の人間じゃないっす」
雑魚B、Cが呟いた。何度もいうがこんなところで時間を取られるわけにはいかない。すぐに片付けよう。
「話は終わったか?」
「……ああ」
「そうか、じゃあ今殺す――スライムソード、刻印魔法変化。煉獄魔法ボルケーノに氷結魔法アイスバーン……――混合魔法『ホワイトアウト』」
刹那、教室全体が霧に包まれる。冷たく、熱い……そんな相反する空間が出来上がった。
「これは……」
「気をつけろっ! 敵が何かを企んでいるっ!! みな警戒を怠るな……――ぐぁっ!」
「隊長!? ――くそ、霧で何も見えない!! どうすれば……!」
仲間はわからないまま斬られる。周囲の状況も掴めないまま、魔人たちは蹂躙されている。一体……!
そしてその時、「ふふふふふふ…………」
と、オーウェンスの笑い声が魔人を包み込んだ。
「――魔人は殺す。グリニッドも殺す。全ては……――」
未来のため、その言葉を皮切りに魔人たちの意識は途絶えた。
「グリニッド様……あれは危険です……彼女は……私たち魔人よりも…………」
薄れゆく意識の中、一人の悪魔はそういった。
「ふんふ〜ん♪」
無事計画も成功した。今頃、私の配下が大勢のものを殺し、多くの魂が魔王様復活の儀の糧となっている頃だろう。
しかし――オーウェンス=クーデリカ……彼女は脅威の存在だ。一応伝えてはいるが、彼女は恐ろしい。
できれば私の実験体となって欲しいところ、だが。
「――――あれ?」
おかしい、魔力反応がない。いや、魔力反応はたくさんある。しかし、私直系の魔力が――……っ! まさか!?
「オーウェンスぅぅうううううクーデリカぁあああああああああああ!!!!!」
殺したというのか? あの数分で? 私の配下を??
ありえない。手下とはいえ、私の血を濃く継ぐもの……――魔力等級はゆうに啓発者以上だ。彼女がいるからこそ、配備したのだぞ?
それを、ものの数分で全員を????
ありえない、規格外すぎる。
「…………しかし、ここまでは想定内。次のプランも、最終手段もまだ残っている。――ケヒッ」
一人の少女を連れ、悪魔は不気味に嗤った。
次回は19:00です。




