57:話のいと
本日公開できなかった6:00分と9:00分は必ず今日中にします。すみません。
「それではみなさん、今日も魔法理論の授業を始めますよ」
魔法科の授業もすでに数回。あの薄っぺらい上部だけの笑顔を見るのも飽き飽きしてきた。
それでもボクはこの学園の顔、悪態をつくのは内心だけにしときますわあ。
「それじゃあ、オーウェンスくん。この問題わかるかな?」
「――魔法は普通、魔法陣を媒介として、周囲の魔力を借りています。しかし、それを短縮し、ほぼ自分の魔力で詠唱する……それが短縮魔法です。これができるのは、相当な鍛錬を積まないとできるものではありません」
「大正解。先生の説明よりも完璧だな。――もういっそオーウェンスくんに先生してもらおうかな?」
みんなは先生のボケに笑った。ボクは気分が悪くなった。
こういうふうに、何も知らなければ、ただ面白くていい先生として終わっていた。
しかし、この後の惨劇を知っている者からすれば、腹立たしいものほかなかった。
「…………………――ではお言葉に甘えて、教鞭を取ろうかしら」
ボクのノリにみんなはゲラゲラ笑った。
「…………」
――――――
――――
――
「オーウェンスくん」
「はい」
放課後、グリニッド先生に話しかけられる。ボクは身構えた。
「大事な話があるんだ。あとで職員室に来てもらえないだろうか?」
「……――わかりました。ではのちに向かいます」
ボクは護衛用のスライムと魔道具一式を手に確かめて向かった。
「――失礼します」
「やあ、オーウェンスくん。待っていたよ」
「はい。それで先生ご用件というのは」
「その前に少し雑談していかないかい?」
「……そうですね」
周囲を確認する。周りには先生もいる。万が一の時には目撃者もいるし大丈夫だろう。
「――突然で申し訳ないが、オーウェンスくんは偶然は存在すると思うかね?」
「え、えっと……」
ほんとに急だな、おい。
「――私は、存在すると思います」
リリィと出会えたこと、このゲームで生まれ直したこと、そして死んでもなおやり直せること。これら偶然を考えれば、自分がどれだけ幸運だったかを思い知らされる。
ボクは前世ではあまりいい生き方はできなかったけど、この世界はそれなりに気に入っている。
「そうか。否定して申し訳ないが、私は存在しないと思う」
「……それはなぜですか?」
「例えば、手にリンゴがあるとしよう。私が手を離す。さてどうなるかね?」
先生はデスクのリンゴを持った。
「……床に落ちますね」
「そう。これは偶然か?」
落ちたリンゴを拾う。
「いえ、先生が落としたので必然です」
「そう、私はこれが偶然の縮小だと思う」
「えっと……すみません、何が言いたいのかがわかりません」
この人は何言っているんだ?
「もう少しわかりやすく説明しようか。――今から職員室に来る人は、生徒か先生か、どっちだと思う?」
「さあ……」
そんなのもの、運ゲーだ。
「――運じゃない、次に来る人は『先生』だ」
「――っ!」
本当に先生がきた。
「お、面白い手品ですね。どういう魔法ですか? 視覚魔法で遠隔的に見ていたのでしょうか?」
「そんなことをしていないというのは君が一番よくわかっているだろう」
「――!?!」
確かにそれが本当だということはわかっていた。魔力探知で魔法の痕跡や魔力の移動を見たが、全くなかった。
しかし、魔力探知が読まれた……っ!? 今のボクのスキルなら、それを隠すのは容易なはずなのに。
「私はね、オーウェンスくん。偶然とは一番の必然だと思うんだよ。今の先生当てクイズだって、時間帯や人の流動を見ていれば簡単に予想できる。――つまり、この世の中は見えない変数が私たちを取り巻き、たまらなく社会を複雑化しているだけなんだよ」
「…………」
結局、先生の話で下校のチャイムが鳴ってしまった。
ボクを呼んだ理由も雑談の意図もわからず、この日を終えた。
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投稿頻度が落ちる日もありますが、2022年中には100話到達します!!
次回は18:00の予定です。(前後します)




