55:リリィのスライム奮闘記
「てやあああ!」
私はオーウェンス様の無茶振りによってスライムを捕獲しようとしています。
しかし、スライムは残酷です。私レベルの魔法で死んでしまうのですから。もともと、魔獣は光魔法に弱いものもありますが、それにしても弱すぎです。
正直、今までのどの経験よりも絶望しています。どれだけ手加減しても! すぐ死ぬし、逆に手加減しすぎたら――――
「きゃああああああ!」
この体液をはかれるのだ。おかげで服は粘液まみれ、ベタベタのドロドロです。……うう、早くお家に帰ってお風呂に入りたい。
しかも、一番腹立つのは彼らが好戦的なことです。一匹倒せば釣られてまたやってくる。そして倒すか、粘液をかけられるのかのどちらかです。
…………今回は粘液をかけられるだけですみました。
「ふ、ふふふ…………」
何度もめげました。どれだけ捕まえようとしても、弱すぎてすぐに倒してしまうわ、ひいてはベタベタにされるわと、踏んだり蹴ったりです。
これまで、ーウェンス様のご要望に応えなかればという使命感で頑張ってきました。
しかしそれももう限界です。
どうして私はここまで頑張っているのでしょう?
どうして彼らは私をいじめるのでしょう?
弱いくせに。
どうせすぐ殺しちゃうのに。
私はストレスが溜まりました。
わかっている? あなたたちは生かされているんだよ?
私と、オーウェンス様の温情によって、あなたたちはすこーしだけ長生きができるの。
普通ならありがたいと思うはずですよ?
泣いて喜んで、ありがとうございますと土下座して感謝するところよ?
それなのにあなたたちは私に歯向かい、
その上、殺される。
……私にありったけの粘液を残しながら。
――あはっ♡
そうか、死にたいのか。
死にたいから、私のストレスを溜めて殺させているのね。
うふふ……良いわよ。乗ってやろうじゃないですか。
その度胸に免じて、せめて一思いに殺してあげましょう。
さあ、死になさい。
「光の…………あだっ」
「――何をしているの、リリィ」
オーウェンス様は私の頭を小突きました。
「うう……だってぇ…………」
「うわっ」
途端耐えられなくなり、涙腺が決壊します。私はオーウェンス様に抱きつきました。
「――私、たくさん頑張りましたっ! かれこれ2時間は苦闘しています! それなのに、オーウェンス様の約束は果たせない愚か、彼らは私を汚すのですよ!! 見てください! この大量の粘液を!! もう、下着にまで染み込んでいるんですからね!!」
「――うん、確かにベタベタで、正直近づいてほしくないというか、今すぐ離れて欲しいかな?」
「それに聞いてください! 彼ら私を嘲るかのように笑ってくるんですよ!? 顔こそ見えませんが、それこそフッって笑うんですよ! フッって! ありえなくないですか? 彼らは私によって生かされているのに!!」
「わかった。リリィボクが悪かった。悪かったから、とりあえす離れてくれ」
「オーウェンス様まで…………うわーん!」
「――うおっ」
唐突の孤独感に、より涙が増します。私はオーウェンス様の服をさらに濡らしました。
「――ごめん、本当にごめん。リリィ」
しばらくの静寂の後、オーウェンス様は私を頭を撫でながら言いました。
「――ボクが悪かったよ。確かにリリィにはまだ早かったのかもしれない。……ごめんね。無駄な使命感を負わせて、無理させちゃって。もう大丈夫、今度は一緒にやろ?」
「オーウェンス様…………」
私は感動しました。オーウェンス様の優しさに、ぬくもりに、涙を抑えずにはいられません。
「ありがとね。リリィ。もう大丈夫だよ」
だから…………
と、オーウェンス様は続けます。
「――とりあえず、そろそろ離れてくれない?」
私はその日のことを(いろんな意味で)忘れません。
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次回は6:00の予定です。(前後します)




