54:残虐のグランニッド
「――どうしてその名を知っているのだ?」
お父様はものすごい剣幕を立てた。その形相は、今までのお父様の顔の中で最も怖かった。
「え、えっと……」
「答えなさい、オーウェンス。どうしてお前がその名を知っているんだ?」
「え、えと、その……」
――実は、前世で彼に殺されちゃって……とか言えるかよ!?
どうする、どうする、どうする。この場において最も最適な回答は……――
「――実は、今から1年後、残虐のグランニッドによって私たちは皆殺しにされます」
「……なにを言っているんだオーウェンス」
この子はなにを言っているんだという顔で見る。
「嘘じゃないです、本当です。私は――神様からそう天啓が降りたのです」
まあこの世界は元々ゲームの中なんだし? 神様と言っても嘘じゃないだろう。
「神様……そうか。オーウェンスは英雄の加護を引き継いだのだな」
「英雄の加護……ですか?」
聞いたことのある言葉に疑問を覚える。
「そう、英雄の加護だ。噂によると、数秒、あるいは数年先の未来まで見えるようになったり、魔力適正や魔力等級が格段に跳ね上がるなど、その効果はさまざまにおよぶ」
「なるほど……」
グランニッドと言っていたこと同じだった。英雄の証、英雄の加護、どれもボクを表せていない言葉だった。
ボクは転生者だ。そしておそらく何度でも生き返る。だからボクは英雄でもなんでもないし、ただの普通の女の子だ。
「そうか……英雄の加護を宿しているなら、そう言ったことも不思議ではない、か……」
お父様は一人呟いた。
「――いいだろう。教えよう。残虐のグランニッド、それは魔王幹部の中でも最も小根が腐った悪魔だ」
悪魔というものを知っているかね? 悪魔とは、魔人のはるか上位互換、その身に宿す魔力も使える魔法も桁違いに強い。
――そして私は、一度だけその悪魔と戦ったことがある。魔王討伐の道のりで、な。今でも忘れない。途中にあった村で宿を取ろうと立ち寄ったら、彼はそこで村の人々を殺戮していた。弄び、殺し合いをさせ、そして結局殺す。彼はどの悪魔の中でも残忍性が高い悪魔だ。
また、彼は悪魔の中でも特に闇魔法を得意としていた。――もちろん、魔人である以上、闇魔法は使える。しかし、彼のそれは段違いだった。緻密な魔力構成で作られる魔法は、初等魔法でさえも、私たち人間の使う上級魔法ほどレベルが高い。
彼を倒そうと私たちは奮闘した。しかし彼は聡明でもあった。身の程をわきまえたと言ったことろか……敗北を予期したのか彼は姿を消したのだ。以来、彼は私たちの前に姿を現していない。きっと今頃はどこかの人間世界に溶け込んでいることだろう。
――――
――
こうしてお父様はグランニッドのことについて余すことなく話してくれた。
これで一つ前進した。
もしかしたら今回でこの惨劇を終わらせることができるかもしれない、そんな淡い期待を胸にボクは次の段階へと進む。
そういえば、お父様が最後にこんなことを言っていた。
「最後にひとつ。彼を見分ける唯一の方法がある。彼はとても狡猾で、魔力操作も長けている。そんな彼を見つけ出すのは難しい」
――しかし、彼の背中は決して癒えない。私たちが力合わせて与えた最後の一撃だ。
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次回は明日0:00の予定です。(前後します)




