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6:突然のお呼びですか?(中編)

「ぐすん。ぐすん……」


 ボクはリリィの膝の上で泣いていた。お父様に、やりたくもないことを押し付けられそうになったからだ。


「オーウェンス様。……どうされたのですか?」


 リリィは優しい声でボクの頭を撫でた。


「……お父様がね。ボクを働かせようとするんだ……ボクはやりたくないって言ってるのに……」


「まあ、そうなんですね……当主様にはどのようなご用件で呼ばれたのですか?」


「……ぐすん。……その、ボクの考えた扇風機が、画期的で、アバンの問題を解決するかもしれないから、ぜひこれを商標登録しないかって……うわーん」


 やばい、思い出しただけで、また泣けてきた。


「それは……素晴らしいことではないのですか?」


「うん……いいことなんだよ? でも、ちょっと……」


 自分が転生者だということはまだ言えてない。ていうか言えない。


 だから、その辛さや恐ろしさを説明する手立てはないのだ。


「……オーウェンス様、今日はゆっくり休みましょう」


「……う゛ん」


 ボクはそのまま、リリィに優しく撫でられながら眠りに落ちたのである。



「――――ん」


「あ、目が覚めましたか?」


 リリィがボクの顔を覗き込んだ。ていうか、上を見てもリリィの顔が半分しか見えない。


「…………」


 ボクはなんとなく胸を揉んでみた。


「ひゃうん!? お、オーウェス様。い、今はダメですぅ……当主様がお見えになってますから…………」


 顔だけ横に向けると、そこにはなんと驚愕というか極まり悪そうな顔をしていたお父様とお母様がいたのである。


 でもなんだか変だ。お父様の顔は3倍ぐらいに膨れ上がっているし、お母様のお洋服は朝着ていたのと違う気がする。


「お、お父様……」


 とりあえず、リリィの胸を揉むのはやめた。


「オーウェンス……」


 お父様は徐に、


「申し訳なかったぁああ!!」と、土下座をしたのである。


「……はい?」


 ……状況が飲み込めない。どうしてお父様は土下座なんてしているんだ? 


 お母様に目を向けても、ニコニコと返されるだけだし、リリィの顔は……まだ膝枕中だから見えない。


「お、お父様。顔を上げてください!」


「いや! そういうわけにはいかない! 私はとんでもない間違いを起こしてしまったのだから!」


「――……?」


 わ、わからねえーーー! 


 なんで、お父様は土下座しているんだ? なんで周りの人は誰にも言わないの? 



 ――……と、寝たら忘れてしまう人間がここにいたのである。




「お前はまだ10歳だというのに、商標登録という重たいものを背負わせて、その上私は強引に進めようとした。……罰ならなんでも受ける! というか受けさせてくれ! じゃないと……」


 その視線の先は、お母様に向いていた。


「……ああなるほど。――え、えーっとお母様? ボクはもう大丈夫ですから。はい。それじゃ、お疲れ様でしたー」



「……命拾いしたな」

 お母様はえらくドスの利いた声を残していった。



「…………はあーー」


「お父様、ごめんなさい……」


「いやいいんだ。それに……元はと言えば私が悪かったしな」


「お父様……!」


「オーウェンス……!」


 ボクらはがっしりと強く、抱き合った。



「ところで、オーウェンス。商標化の件だが」


 そしてお父様はさも当たり前かのように言葉を続け始めた。


 やばい。お母様に任せればよかったかな? 


「……あ、そんな目しないで! 母さんに売らないで……ッ!」


 本気で震えている男一人がいた。なんかここまでくると、惨めだな。


「……なにを言っているんですか、そんなことしませんよ?」


「…………本当か?」


 そこには涙目のダンディな男がいた。やばい、超絶キモチワルイ。


「ええ本当です。私も商標化の件にあたって、条件があります」


「なんでも言ってくれ」


「まずは、私の睡眠時間は8時間取ることです」


「……は?」


「そして毎日……あ、頭を撫でてください」


「…………わかった」


 お父様は怪訝そうな顔で渋々認めた。んまあ、娘の頭を撫でるなんて、この人柄じゃないしね。



「オーウェンス様、オーウェンス様」


「ん?」


「もうそろそろ降りてください……足が痺れて…………ひゃい!」


 そっか、そうだよな。多分ボクは2時間ぐらいふて寝していた。


 その上、今もなお許してくれているのだ。……ちょっと、いたずら心が沸いてしまった。


「ん〜ん?」


「ひゃい! あ、頭を動かさないでください! あ、足がぁ……痺れているんですぅ……」


「リリィは可愛いなあ〜――よっ」


「ふわあああ……そ、そんなとこ……」



(※至って健全です※)



「オーウェンス……そろそろ降りてやれ……」


 お父様はボクを抱き抱えて、リリィから離した。むう、面白かったのに……。


「はあ。はあ。はあ…………と、当主様ありがとうございます……」


「うちの娘がすまないな、リリィ……」


「いえ……」


「――ところでオーウェンス、商標化って言っても、そこまで働くわけじゃないのだぞ?」


 お父様は真剣な顔をした。


 はい出た〜。我が社はブラックじゃありませんアピール第一位の売り文句。


「…………」


「え、えーっとな。商標化ってのはいわば、自分の商品の売り込みなんだ。私の商品、あなた方作りませんかって。もちろん、国王陛下に頼めば、すぐ始まるだろうが、そこはオーウェンスにも気を遣ってだな?」


「……お父様、それは商標化ではなく、売り込みでは?」


「あっ…………」


 なるほど、今日の戦犯はやっぱりお父様だったか。


 ボクは大きなため息をついた。

ごめんなさい。もうちょっと続きそうです。

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