聖夜:クリスマスサンタは笑わない
これはボクはこのゲームに転生して1周目のお話。
ボクの名前はオーウェンス=クーデリカ。前世では直山透なんて呼ばれたりもした。
この世界に転生して、もう1年近く……ふ、気づけば早いものだ。
あたりは雪景色、常夏の国だと思っていたミリテムでも、(春と秋は夏のようなものだが、)四季があるのだと気づいたこの頃。
王都では、モミの木っぽい木に飾り付け、ネオン街……とまではいかないが、あたりには色とりどりの魔法ランプが眩しく照らすようになってきた。
学校ではリア充が増えてきて心穏やかじゃない季節がやってまいりましたわあ。
今日は、クリスマス。紅きサンタの私がより一層紅く染めてやりますわあ。
「クリスマスって、なんであるんだろうね……」
ボクは休日の寮のテラスでつぶやいた。
クラスのみんなはいない。今日は彼氏が〜とか、実は彼女が〜とか、ボクに自慢げに説明してくる。
……いや、悪気がないのはわかってるよ?
これでもボクは人気者ですし? そういった相談を聞くのは珍しくないし。
でもさあ、今だけはやめようとかそう言う慈悲ないの?
て言うか、お前ら10歳だよね? ほんとマジ何マセてんのって感じだし。
はいはい、どうせボクはクリぼっちですよ〜っと。
「……あの、オーウェンス様」
リリィは恥ずかしそうに、頬を染めてモジモジとする。
「ん? リリィどうしたの?」
「――いえ、どうしたも何もどうして私はこんな格好をさせられているのですか!?」
リリィは今絶賛サンタコス中なのだ。
近くにあったド○キみたいなお店で仕入れた特注品、今日クリスマスで絶賛萎え萎え中の自分を慰めようときてくれたのだ。
「リリィが言ったんでしょ? なんでもしますから元気出してくださいって」
「確かに言いましたけど……! あれは、オーウェンス様がきてくれないと、今日の朝は起きないって言うから……」
「約束は約束だから。ほら、行くよ」
「お、オーウェンス様どこへ向かうのですか!? そして私もこの格好でついていくのですか!?」
「うう……恥ずかしいですぅ……」
「大丈夫だって、ほら。あの人も同じ服着てるよ」
指さす方向はケーキ屋さん。
「あれは仕事だからです! それに……私の服は胸元もあいてちょっと心許ないですぅ……」
「文句を言わない。今日はその格好でデートしてもらうから」
「えええ!! この格好でお外をずっと歩くのですか!?」
「大丈夫だって。ほら、ボクら10歳だし、子供なお可愛い遊びだと思うよ」
リリィの格好は18禁だが。
「ようよう、姉ちゃん。ちょっと俺たちといいことしねえ?」
そんなこと言っていたら、見るからにイタいドキュンA、Bが現れた。
「――いやあ。ボクたち10歳ですから……」
「じゅ、10でこの胸……!?」
ドキュンBは鼻を伸ばした。
「……そろそろ退いてくれませんか?」
「いやあ、君はいいんだよ? 僕ぅ、その彼女をちょーっと貸してくれたらいいんだしさ?」
「あ、あの……」
――ぶちっ。
頭のどこかで切れた音がした。
「スライムソード、展開。刻印魔法、省略詠唱。『オールドゼウス』」
流れ出る魔力、今までできなかった省略詠唱での刻印魔法。
「お、おい……」
「なんだよこりゃあ……」
ボクは武神と化していた。
「今、ボクのことをなんて言った?」
「「ヒィイイイイイイッ!」」
「ボクのことを……貧乳男女って言ったかあああああああ!?!?!?!?!?」
「「言っていない!!!」」
「ここにきて、嘘までつくのか……そうか、じゃあここで――――」
「オーウェンス様!」
リリィはボクに急に抱きついた。
「――へ?」
「オーウェンス様は立派な女の子です。今はダメでも……まだ希望はありますよ! そうですよね?」
リリィがドキュンに話をふる。彼らも激しく同調した。
「そうですよね? じゃあ、行きましょう」
「――うん」
ボクはその場を後にした。
「「………………なんだったんだ」
気づけば彼らは手を組み合い、ヘたれこんでいた。
「――メリークリスマスです! オーウェンス様!」
何事もなかったようにデートは続き、今はイルミネーションを背に、ケーキを外で食べている。
(リリィの服は後で買って、着直した。)
「メリークリスマス。リリィ。――はい、これプレゼント」
「いいんですか!? ありがとうございます……明けてもいいですか?」
「もちろん」
「わあああ! ……手袋! 嬉しいです! 大事に使いますね!」
「喜んでくれて良かったよ」
前日にマリィと2時間悩んで買った甲斐があった。
「私からもプレゼントがあるんです……はい」
「わ、これってもしかして」
「ええ。手編みマフラーです」
「すごい! これ全部リリィが編んだの……? ――わ、暖かい」
「刻印で熱魔法を入れましたからね。……適正ではないので少ししか暖まりませんが」
「ううんそんなことない。とっても……暖かい」
「そ、そうですか?」
リリィは照れくさそうにした。
「――ところで、今日はどうして私と?」
「そんなのリリィが好きに決まってるじゃない」
「オーウェンス様……」
「リリィ……」
胸熱な展開、二人の顔は近づいていき、そのままキス……と言うところでボクのクリスマス当日の夢は醒めた。
メリークリスマスです。これからもよろしくお願いします。




