4:あつさには敵いません?(後編)
――とは言われたものの……。
「結局アックス。ボクって魔法使えるの?」
「ええ。使うことはできます。ただ……」
「ただ?」
「――正直、使って欲しくないっす。オーウェンス様が使えば一度、世間を騒がせることでしょう」
「それって喜ばしいことじゃないの?」
「とんでもありません! オーウェンス様は国の即戦力になるほど魔法に愛されております。そんなことが他国に知れ渡れば、オーウェンス様を手にかけて、戦争が始まります」
戦争。その言葉にボクは背中に汗を滲ませた。前世でもこの手の戦争は死ぬほどあるからだ。金塊や土地、国のメンツや、尊厳、無慈悲にもその全てを賭して行われた。その惨劇は、体験していない身でも、想像に難くない。
「…………まあ、確かに。リリィと一緒にいられないのは御免だなあ……」
「は?」「へ?」
一人と一匹は拍子抜けな声を上げた。
「――な、ななな、何を言っているんですか!? 確かにオーウェンス様が消えてしまわれるのは、私も寂しいですが、もっと、もっと! 大切なことがありますよね!?」
「いやあ。だからいつも言ってるじゃん。ボクはリリィのことが好き。リリィのこと以外はわりかしどうでもいいんだよね〜」
好きな人のために体を張って何が悪い。ボクはリリィのためならなんだってするぞ?
「――はあ……そういえばオーウェンス様はこういう方でしたよね」
リリィは頭を痛そうにしていた。
「お二人さん。もしやそういう関係で……?」
小恥ずかしそうに、アックスは両手で顔を隠しながら聞いてきた。
「そうだよ」「違います!」
「…………」
もののカンマ数秒で否定された……。
思わず膝を落としてしまった。
いやしかし! ボクはメゲないからな!
ボクは気を奮い立たせて、リリィに膝つけた。
「リリィ! 好きだ付き合ってくれ!」
「寝言は寝て言ってください!!」
「ぐはあ!」
くそう、また断られた。どうすれば、リリィの好感度を上げられるのか……?
――――はっ!
「アックス!」
「へいなんでしょう!」
「やっぱりボク魔法を使いたい!」
「オーウェンスのお嬢ならきっとそう言うと思ってましたっせ」
「――! じゃあ……」
「ただし。お嬢にはこれをつけてもらいます」
そう言って渡されたのは…………
「首輪?」
ボクはその意味を少し考えたが、やはりわからず。
「はいアックス」
「わーい♡ ありがとうございます! ……って違うわい!」
アックスに着けてみた。なんというか……すごく、いいとオモイマス。
「どうして自分でつけといてそんなこと言うんすかあ!? やっぱり俺の扱い雑しやすぎません?」
「――違いますよ。オーウェンス様。これはここにつけるのです。
そう言って、リリィはアックスのお腹につけた。
「はい。可愛い♡」
リリィは両手を合わせた。
「わーい! 確かに可愛い♡ ――ってだから!」
「リリィ……遊びすぎだって……これはここにつけるんでしょ」
そう言ってボクは自分の右手に嵌めた。(ちなみにボクは左利きだ。)
「ええ……可愛かったのに……」
リリィはなぜか物寂しくしていた。――……マジで言ってんのか?
「――はい。これは魔力を一時的に制限するものっす。現在のオーウェンス様では今の魔力の10の1まで抑えていまっせ」
「それってお体に障りはないのですか? 以前、オーウェンス様は発作があると申していたので……」
「それはよくわかりませんが……とりあえず。普段の学校生活も含めて、大丈夫な程度に調節しているっす。ご心配無用ですよ」
「そうですか……」
「…………」
心配してくれるのはありがたいのだが、原因はリリィだからね?
ボクは何も言わなかった。
「――とりあえず。これで暑さを凌げるね」
「何を作るのですか?」
リリィはボクが頼んでおいた荷物を下ろした。
「ありがとう。リリィ。今から作るものは、おそらく最も画期的なアイテムだよ」
「はあ……」
リリィは頼まれたものに目を遣る。
使い捨ての大量の魔石に、軽くて丈夫な紙、風の初球魔導書などなど……一見使えなさそうだが、実は違う。
「これはね、リリィ。扇風機を作るんだよ」
「扇風機……ですか?」
「うん。扇風機。ええと、どう言ったらいいかな。水車の風バージョンで、風を送る機会だよ」
「はあ……」
「まあ、見てなって」
ボクは予め書いてあった設計図を手に取りながら、組み立ていく。
「ここをこうして、多分魔力って繋ぎ合わせられると思うから……魔力で満たした紙をこの羽根に繋ぎ合わせて……っと」
「おお……これは……!」
リリィは真新しさに目を奪われていた。ふふん、これでボクの株も爆上がりだ。
「……ちなみにオーウェンス様。これはどうやって使うのですか?」
「――あ、まだ完成じゃないよ。ここに風の魔法を使い捨ての魔石を原料に、詠唱して……――あれ?」
そういえば、アックスに魔法の唱え方聞いてなかったっけ?
「……オーウェンス様?」
リリィは小首を傾げて、次はまだかという視線を送る。
くそう。浮かれすぎて聴くのを忘れていた……!
でも、今聞きにくのは決まり悪いしなあ……。
ーーええいままよ!
「ウィンディ!」
途端、魔石は新緑の色を放ち、とてつもなく巨大な魔法陣を描き出した。
幾何学的な美しさに一瞬目を奪われるも、その思考も刹那の瞬間。
そこから放たれるのは、突風……っ! もう、台風なんじゃないかってぐらいぐるぐる渦巻いている。
部屋にあった紙やらなんやらは、あちこちに散らばった。
ちなみに、リリィのパンツも見えています。じっくり見ます。
「……えへへ……白か…………そうかリリィは白なんだね」
「訳のわからないことを言ってないで、なんとかしてください! 早くしないと大惨事に……」
「――は! そ、それで、この魔石をこの窪みはめれば……っ!」
カチンと、小君いい音を立てた後、初めから何もなかったように風は止み、ボク特製扇風機はちょうどいい具合に回り始めた。
「…………? お、オーウェンス様。これは……?」
乱れた髪を整えながら、リリィは聞いた。
「ふっふっふっふ。完成だ!」
どうだ! この完璧なアイデアは! アックスの講義から、ピンと来たのだ。
つまり、魔力を電子回路のように使えないか、と。
万物は魔力でできているなら、それもできるはず。だって魔力はどこにでもあって、誰にも見えないのだから。ボクの魔力で満たした薄い紙を配線がわりに、あとは動力源を魔石にすれば、あら不思議。電池式の扇風機とそれほど変わりはない。
「確かにこれは気持ちいですねえ〜〜〜〜」
リリィは風に当たりながら、目をそばめていた。
「そうだろうそうだろう。ボクのこと惚れ直したかい?」
「あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜〜」
「聞いてねえし!」
この世界でも、その行為は変わりないんだな。ふとボクは思った。
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜〜〜」」
今日からは毎日投稿できそうです