35:焦燥と、勝利と(フェーリの場合)
面白いと思った方は、いいねブックマークしていただけると見逃すことなく閲覧することができます! 何卒何卒。
感想や質問は励みになります! 是非是非。
また2022年12月13日から、ツイッター(@Yumiera_naro)も始めました。
こちらのフォローも差し支えなければ。
「モウダメダ……」
フェーリは撃沈していた。まさか全員が突破していることに驚いているのだ。
そもそも、クライムが勝利したことに驚いている。
彼は生まれつきから魔力操作がままならない。
普通ならそこで彼の魔法人生は諦めるはずだが、彼は諦めず日々怠ることはしなかった。
そして、女神は微笑んだのか、オーウェンスによって彼の新たな可能性がもたらされたのだ。
魔法が使えなくても、適性がなくても、魔法は使える。
そうして編み出した第一号はスライムネット。彼女のスライムファンデーションから着想を得たのだ。
捕縛術式は比較的簡単な構造をしている。スライムの流動性を利用すれば……というのが彼の発想だ。本当にすごい。僕にはそんなことはできない。
「――元気出せってフェーリ」
ホクホクした顔でクライムは言いました。
「あなた仲間だと思っていたのに……」
「なんかそれ酷くね?」
苦笑いだった。僕は乾笑いだ。
「――だが。一回戦を突破しないと、オーウェンスとは闘えないぞ? オーウェンスを射止めるには、彼女に勝たなければならない」
「そんなことはわかっています……ユリウス。だけど負けたら師匠にドヤされる……」
鬼コーチミリカ。
修行は明日学校でも関わらず夜にまで及び、素振りや腹筋など基礎的なトレーニングを1000回させられた後、その後すぐに師匠の技の型の練習する。
これはミリカの「よし」が降りるまでは決してやめられない。
腕が痙攣して、木刀から手を離せば、
「怠けるでない!」
――と叱責され、水を欲すれば、
「魔法で作れい!」
――という。体内の魔力を媒介する魔法で作られた水は、渇きを潤せないのを知らないのだろうか?
さらにはミリカが満足するまで打ち込みをし、当然寝る時間なんて生まれるわけがない。10歳といえど、一流学校の生徒だ。予習復習は怠れない。
ひいては自分はミリカとロールランド様の温情でここにいれるのだ。期待を裏切るようなことをすれば…………その後のことは考えるだけでもゾッとする。
「……――そんだけ?」
だがクライムは拍子抜けな顔をする。それを言うのは、この生活を体験してから言ってほしい。
「すまないフェーリ。私もそう思う」
ユリウスにも同意が得られなかった。
「――この生活になったらわかりますよ……」
僕は説明するのを諦めた。
「――そろそろ、時間なので」
「おう、頑張れよ」「頑張るんだぞ」
ユリウスとクライムは僕の背中を強く叩いてきた。痛い……
だけど、その痛みはどこか心地よいような気がした。
「――では一回戦、第10試合を始めます。それぞれ名前と、使用する武器と得意魔法をお伝えください」
「――フェーリ=ヨルンです。武器はこの……剣を使います。得意魔法は氷魔法です」
「ゼルニア=レミリだ。使用する魔法は土魔法だ」
年齢10に見えるが、身長は150センチを超えているだろうか。異国人である自分と同じ目線にいる。一見すると男にも見えてしまいそうな顔立ちだが、女子なのだと今ではわかる。
――そういった見分けは〝魔力の色〟で最近わかるようになってきた。
赤毛できつい吊り目、語尾からも我の強さが窺える。
「――では、ゼルニアさんは魔法ですので、距離をとってください。……では最終試合初め!!」
「ロック!」
「――居合抜刀」
ゼルニアの放った岩石はフェーリによって一刀両断された。
普通、岩を刀できるのは難しい。しかし、それは実物としての話だ。
どんな魔法。ましてや、10歳の魔法、どんなに優れていても、魔力のムラはある。
偽物は偽物であるが故に、その弱点も大きい。
フェーリは、この数ヶ月間、ミリカに魔力を視覚化することを中心に教わった。(もちろん、基礎トレーニングは欠かしていないが)
「魔力を視る、そして揺らぎを捉えるんじゃ。そうすれば魔法剣は、原点である……」
――魔法をも超えるっ!
「――なっ。今、お前、岩石を斬ったというのか……?」
「――人はモノを聞くとき、二種類の目的があるんです」
「は?」
フェーリの的を外れたセリフに疑問を隠せない。
「まずは一つ。純粋にものがわからない時です。これは普通です。そしてもうひとつ。
現実を受け入れたくない時です。今僕は確かにあなたの魔法を斬りました。それは見ていてもわかる歴とした事実。しかしあなたは僕に聞いた。……この先をいう必要はありませんよね?」
フェーリは不敵な笑みを浮かべ、意味のわかったゼルニアは鬼の形相になった。
「つまり……私が、お前を受け入れたくないということか!! たまたまのことに調子乗って! そんなに自信があるなら、これはどうだっ!」
ゼルニア手を掲げた途端、たくさんの土が会場を飲み込む。そして砂嵐がフェーリとゼルニアを包み、二人だけの世界になった。
「拡張術式、土の踊り場マッド・ビート・ラヴ!」
「……なるほど」
フェーリは土を噛み締めながら、状況を正確に分析した。
これが魔法の発展系、周囲や環境にまで影響を及ぼす技『拡張』
広範囲に己の陣地を展開し、自身に都合の良い魔法を付与する。その分、相手も魔力を使い、これは僕や彼女にとっても背水……背泥の陣、というわけか。
「無駄だ」
「――っ!?」
ゼルニアの声は背後にこだました。反射的に刀を抜くが、それは空を斬るだけだ。
「今の私はこの砂嵐と同化状態。つまり、あなたを囲っているすべてが私なんだ。故に、どんな攻撃も私には効かないし、お前はただただ食い殺されるのみ」
――今回の場合、それが付与魔法なのだろう。
「確かにそれはしんどいですね」
「そうだ。だから早く降参するといい」
「それも困ります。そろそろ時間が近づいているようです。これで決めませんか?」
「馬鹿な奴め……でもそういうのも嫌いじゃない。お望み通り、ここで勝たせてもらう……っ!」
「居合抜刀……」
フェーリは再び目を閉じた。刀に魔力を込め、やがて刀からは冷気が溢れる。
次で決める。その覚悟が、感覚を全神経に集中させて、ゼルニアの攻撃を待つ……っ!
「またそれ? だけど、それはもう無駄。ここでくたばるのだ!」
そして砂嵐はどんどん縮小し、獰猛な粉塵がフェーリを襲う…っ!
「――抜刀。カミナシヅキ」
一瞬世界が止まった。周囲のものの誰もがその現象に理解が追いつかなかったのだ。
急に彼女の拡張魔法が展開されたと思えば、急激に内側から莫大な魔力が増大する。
そして気づけば、冬のアバンの国はさらに冷やされた、観客の熱気などない、絶対無二な冷却空間。
砂嵐はブリザードにへと変化したのだ……っ!
「いやああああああああああああああ!!!!!!」
突然の断末魔が上がった。やがて嵐はさり、身はボロボロのゼルニアだけが残る。
目の前の現象を信じられない。それは当人のゼルニアが一番理解していない。
「あなた……本当に刀を抜いただけだというの? 魔力を込めて、私が攻撃した同時に抜く……それだけで、私の砂嵐がかき消されるというの!?」
ゼルニアはさっきのフェーリを言葉を思い出した。
「人がモノを聞く時は二種類の目的があるんです。もう一つの意味は……言わなくてもわかるでしょう」
「――少し、違います。私は抜刀と同時に確かに魔力を少し解放しました。少しです。揺らぎをもつ拡張魔法ほど、筒抜けなものはないですから」
――結局、最後の言葉の意味をゼルニアは理解できなかった。
遅れてしまい申し訳ありません。
次回の主人公は、例のあの子です。




