33:焦燥と、勝利と(ユリウスの場合)
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ユリウス、フェーリ、カルバンは驚愕した。
オーウェンスが1級で出場し、そこで圧勝していることに。
また、その付添人、リリィ=アグネスまでも強いことに。
もちろんアグネスは常に成績トップで、実技でも普通に良い成績を残していた。
ただそれがオーウェンスの栄光によって消されていただけなのだ。
〝一番のダークホースはアグネスなのかもしれない〟
これは3人の共通認識となった。同じ5級エントリー者で、最も強いとされる少女、アグネス=リリィ。現に彼女は、裏で行われている賭博で一番安心とされている一人だ。
彼らは、焦燥に駆られながらも、一回戦を突破するのである。今回はそのお話。
『これではオーウェンスに勝てない』
ユリウスの率直な感想だった。先ほどの試合――魔法剣とは思えないほどの魔力効率、そして何よりオーウェンス自身のスペックが高すぎる。
流麗とも言える剣技、そして目を奪われるほど美しい魔法構成。
彼女は魔法を愛し、魔法に愛されているのだ。
そして彼女はまだ本気を出していない。
事実、彼女の顔には汗ひとつ滲んでいなかった。オーウェンスはきっとこのまま勝ち進んでいくことだろう。
しかし、オーウェンスが勝つことはとても喜ばしいことだ。
直接対決でこそ己の優位性を証明できる。
そしてオーウェンスが同じリーグを選ばなかったことにも、自分を思い遣ってのことだと納得がいく。
(勝って必ず……っ!)
――その先の目的は、誰しもがわかっているはずだ。
しかし。
突然の影の実力者、アグネス=リリィ。彼女がこの新春大会で障害となる一人だ。
オーウェンスと戦うには、リーグ優勝が第一前提……敗者復活戦もあるが、それではもしオーウェンスがリーグ優勝してしまったら、元も子もない。
求められるのは全勝なのだ。
そしてこれは学校全体の目的だろう。
学校1の有名人、オーウェンス=クーデリカを倒せば、かのものは一躍有名人。
みな誰しも、大なり小なり抱えている目標だろう。
「ふぅ……」
ユリウスは控え室で深呼吸したのち、試合会場へと足を運んだ。
(一回戦の相手は、ルーク=ユピテル。魔道適正が3つ以上あると与えられる資格、魔女家系に生まれた幼娘。年齢は10歳のものの、才能の片鱗はすでに見えている、か。
――おもしろい。これほどまでに、自分が苦境に立たされたことがあっただろうか。
相手にとって不足なし……は、お互い様か)
ユリウスは一人笑った。諦めではない、覚悟の笑みだ。
「――では、一回戦を始めます。それぞれ名前と、使用する武器と得意魔法をお伝えください」
「ユリウス=ネーゼだ。皆の知っている通り、この国の第一王子だ。武器は魔法中心の遠距離、得意魔法は水魔法だ。……皆応援してくれると嬉しい」
ユリウスの呼びかけに、周りが一気に湧く。メンタルから掌握する、ユリウスの思惑通りだ。
「え、ええと……ルーク=ユピテルっす。拙は魔女の家系として代々魔法の研究を行っております。得意魔法は風魔法を中心とした飛行、雷魔法、毒魔法っす」
ユピテルはウィッチーの帽子をあげ、快活に答えた。
「では、両者遠距離魔法なので距離をとって……試合開始!」
「――ウォーターボール!」
「――フライ!」
先制の水球は間一髪、ユピテルの飛行が先だった。
「無駄だ。避けることすでに知っている。……ウォーターボールは私の手足となるのだ」
虚空を打った水球はユリウスの呼応と共に軌道を変え、宙を舞うユピテルを襲う!
「え、ええと……あった! サンダー!」
その声と共に、雷鳴が空を割る。全体魔法サンダー、広範囲に落雷を当て、直撃したものはひとたまりもないという。
なお、今大会では特別な結界が施されているので、効果により威力が軽減する。
「ちぃっ! ガードナー!」
咄嗟の判断で、落雷を避け、次なる手を考える。
(考えろ。考えろ。相手は宙を舞い、上から攻撃してくる。一方こちらからの攻撃は、フライにより当てることはほぼ不可能……っ! 追尾術式を施してもなお、圧倒的な攻撃の手数によって負ける。これでは――)
――ほぼ詰みではないか。
ユリウスは諦めかけた意思を奮い立たせる。
否! それではオーウェンスに告白ができない。オーウェンスがあそこで待っているんだ……っ!
そしてユリウスは観客席にいるオーウェンスを見た。
「――なに他所見してんすか。他所見は禁物と、マンマに教わらなかったっすか? 三対の落雷!!」
「――っ。ガードナー!」
ユピテルの猛攻にユリウスは防御の術しかない。
ユリウスは、走り、防ぎ、回避した。
しかし――――
「……後ろ、ガラ空きっすよ」
「なに! ――ガっ…………」
「遅いっす。――サンダ」
空を舞うユピテルは、刹那の最中に、背後をとり、直接ユリウスに、中級魔法サンダを当てたのだ……っ!
防御魔法もろくに張れなかった、ユリウスはそのまま吹き飛ばされる。
「――もう、降参するっす。王子をいたぶるのは将来が心配なんすよ」
ユピテルは箒からおり、降伏勧告をした。
「……安心、しろ……我がネーゼ家はそこまで女々しく……ない」
なんとかしてユリウスは体を起こす。
「――へぇ……直接サンダを喰らってもなお立つ、と。だけど、その怪我で何ができるというんすか? 服はボロボロ、身も心も絞られ、それでもなお、なすべきことがあるというんすか??」
「――確かに……私と君では相性が悪いかもしれない……――だが。」
ユリウスは上を見上げた。涙がこぼれないようにするためではない。
「――だが。このときを待っていたんだ。君が、足をつけてくれた、このときを待っていたんだ」
――勝機の糸を確実に掴んだから、嗤いを抑えられなかったのだ。
「覚悟はいいか? ――術式解放! 水龍の咆哮っ!」
刹那、急激に魔法反応が増える。同時に4つの巨大な水柱がスタジアムに現れ、ユピテルを襲う……っ!
これはまずい、ユピテルは再び上空へ戻ろうとした……――が、
「無駄だ。これもウォーターボール同様、追尾機能がついている……今度は自動だ。果たしてお前は逃げれるかな?」
「…………なるほど。防戦一方に見せかけて、実は術式を施していたんっすね。そして、今までの行動は全て釣り行動だったっと。――降参するっす。優勝は来年っすね」
「――しょ、勝者っ! ユリウス=ネーゼっ!!!」
そうして、ユリウスは危なげながらもユピテルに勝利したのである。
遅れましたが、2022年12/19 19:00分のものです。
明日は遅れないようにします。




