30:Lesson3『本気で』
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「結局お主は新春大会に出ることにしたのじゃな?」
今日も師匠に魔力制御の手立てを教えてもらっている。
「はい! 大会では、総合優勝をします!」
「そんなにあのオンボロが欲しいのか……まあ良い。ならば、それまでにお主の魔力制御を完璧にせねばならぬな。……そろそろ、いいじゃろうか……」
ミリカは独り言のように言った。
「――よし、じゃあわしが渡したリストバンドを外してみい」
「……え、もういいんですか?」
「うむ。そろそろお主も外部の魔力を借りて魔法を使うのに慣れてきた頃じゃろ。さあ、疾くとせい」
「わ、わかりました……」
ボクは言われた通りに外してみた。すると体内から急に魔力の温かみを感じた。
「――では、次のレッスンじゃ。この状態で、わしから一本とってみい」
「……え?」
なんでそんな簡単なこと……。
「抜かせ。わしは衰えても、今のお主には負けんよ」
あの時は不覚をとったまでじゃ。と付け加えていた。なんのことだろう?
「――ま、ここで絶剣を証明したいところじゃが、流石にお前さんではちと分が悪い」
こうしてみてはどうじゃ、と続けた。
「わしからは一向に手を出さん。お主の攻撃にカウンター……受け流すだけじゃ。武器は……これでいいじゃろう」
ミリカは木の棒を拾った。
「この棒で防ごう。お前さんは例のスライムソードとやらを使っても構わんよ」
「……前回の修行では、魔力が練れませんでしたから、なかなか合格がもらえなかっただけです。しかし……いいのですか?」
「今の私、負ける気がしませんよ?」
今日のボクは結構調子がいいのだ。例え師匠相手でも、負ける気がしない。
「それはやってみればわかるというものじゃろう」
めんどくさそうに答えた。
「そうですね……では最初からん全力で行かせてもらいます。身体強化……全身。スライムソード……無詠唱刻印、3大魔法中級…………」
「――神技。『ユズリハ』」
ファイア、ウォーター、ウィンドの基本的な組み合わせで構成された淡色の刃は、朧げに現実を断つ……っ!
「…………」
オーウェンスは今までにないほど、高揚していた。体のうちから魔力が溢れてくる懐かしさ、外部から魔力を借りて作る効率の良さ、魔法の全てを今感じていた。
それはミリカの修行の成果であり、今確実に自分の力で魔力、魔法を制御していると実感している。
「来ないのか?」
ミリカは眠そうに構えた。
「幾つ秒が、持つでしょうか。楽しませてくださいね」
「抜かせ。一瞬で受け流したるわい」
ミリカは狩るものの目で笑った。
「「…………」」
夜の魔獣平原に、今一縷の月影が落ちる……っ!
「はあああああ!」
まずはオーウェンスが真っ直ぐに踏み込む。受け流すだけなら、手先の小細工など不要……! 圧倒的な力量差で押さえつけてやる……!
オーウェンスは『ユズリハ』をミリカに当てようとした。
しかし、
「お主ならそうくると思ったわい。何ヶ月お前をみてきたと思っておる」
ミリカは手持ちの木の棒に魔力を込め、硬化させオーウェンスの剣を軽くいなした。
「ちぃっ!」
これでは不可能か……しかし! まだ隠し球はある……!
「まだです! アーティファクト、スライムボール捕縛術式!」
オーウェンスは投げたと同時に、瞬足でミリカのもとに近づく……っ!
「くるとわかっておれば、これも防げるわい。二度も深くはとらんよ。――ほれ」
ミリカはただの棒でスライムボールを薙ぎ払い吹き飛ばす。これも想定内。
「――っ! ボールの先ではないのか!?」
ちゃーんす♡
師匠はボールの先にボクがいると思っていたはず、確かにそこにはボクの魔力の残穢はある。
しかし! 魔力探知ばかりに頼るものなら、ボクの魔力をそこに残せばいいじゃないか……っ!
この勝負、もらったな。ミリカはあくまで受け流ししかできない。それはボクの刃が彼女の刃に当たることを前提とした条件……当たってしまったら受け流しは成立しない……ッ!
――と、オーウェンス自身が勝ちを確信した。しかし、その勝利の目は一瞬で消失する。
「……っ!」
オーウェンスは躊躇したのだ。それは愛着や名残惜しさ、慢心からくるものではない。
ただ一瞬、自身が死ぬ幻覚を視てしまったのだ。今ここで踏み込めば、勝てるかもしれない……――否。確実に絶命するという生存本能が起こったのだ。
「…………どうした。来ないのか?」
ミリカは満面の笑みでボクに聞いた。
「……っ! 命拾いしただけで何を粋がっているんですか!」
オーウェンスはもう一度踏み込んだ。しかし、すぐに後退りした。
「――――!?!? ???」
今度は自分の胴が両断される幻覚を視たのだ。
オーウェンスは自分の行動自身に違和感を抱いていた。
――こんな話は聞いたことあるだろうか。
武の極みは、幻覚を視せる、と。圧倒的な力量差がある時、一方は何もしていないのに、斬られたと錯覚する。それは生存本能というべきなのか……一歩踏み込むだけで、その強大さにひれ伏してしまうのだ。
オーウェンスの前世でも古武道というものもあった。事実、武の極みに至ったものの同士の試合はお互いが何もするわけでもなく、勝敗が決まることが多い。
彼らは行動に移さなくとも、すでに会話をしているのだ。
(だからって、負けるわけにはいかない……っ!!)
オーウェンスは、震えていた。
何もしないはずの、していない相手に、次の一手で殺されるという恐怖心が芽生えた。
「――――っ! てやああああああああああ!!」
その柵から無理やり逃れ、彼女は切り札を使う……!
突然だが、スライムは特定の形状を持たない。通常は丸い身なりをしているが、それは表面張力の関係だろうか、自然の摂理として、あの楕円球が最も効率がいいのだろう。
しかし、それはあくまで通常の話なだけで、戦闘時は初等魔法の球を放ったり、中には形態を変えて、そのまま捕食するものもいる。こうなったら最も最悪な事態が起こる。
高濃度の魔力に包まれた人間は一度魔力酔いし、即刻にきを失い、あとは緩やかと捕食されていくだけ……これが上位スライムの特性でもある。
しかし、上位スライムは魔獣平原にはおらず、かつての魔王がいた極地周辺にいるとかなんとか。
オーウェンスは文献でそれを学んだ時、思ったのだ。
スライムボールもできるんなら、スライムソードの方もいけんじゃね? と。
そしてこれが彼女の最後の悪あがきとなる……っ!
「……スライムはいくらでも形状を変えるのですよ。秘技、ユズリハ。三つ巴」
三枝にわかれたスライムソードは異なる方向からミリカを襲う……っ!
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今宵、オーウェンスはミリカに勝てなかった。
今日は二度も遅れてしまい申し訳ありません。
次回はないようにします。
疾いもので、ついに30話に到達しました。
近いうちに1〜5話を改稿するかもしれません。
お知らせはしますが、特に大きく内容が変わるわけではないので、ご安心を。
これからも『乙女ゲームに転生したボクは元男ですよ?』の応援をよろしくお願いします。




