29:新春大会ですか?
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「ところでお前さん。新春大会には出ないのか?」
ミリカに制御の仕方を教えてもらって3週間。このリストバンドでの修行も慣れてきて、噂の新春大会は刻々と近づいてきた。
ユリウスはかなり頑張っているらしい。ボクに告白するためなんだもんなあ……残念だけど。そもそもボク、出ないんだけどね。
しかし、なぜかマリィもこの大会に出るようで、「エントリーしましょうよ! むしろマリィがしておきましょうか!」ってたびたび催促してくる。
リリィがいうには、「みなオーウェンスを倒そうと躍起になっているのですよ」と。だからボク、出ないんだってば。
「――そうですね……とても魅力的だとは思うのですが、私が出てもしょうがないですし……」
「ふうむ……お主の実力なら、余裕で優勝を狙えるというのにな」
「お褒めの言葉感謝しますわ。ですが私は手荒なことは苦手なので……」
「お主は十分凶暴じゃよ…………」
「え?」
ミリカの呟きを聞きとれなかった。
「――なんでもないわい。……それに、何やら景品もあるみたいじゃぞ?」
「景品……ですか?」
そういうのは間に合っている。お金はたんまりあるし、その気になれば作れないこともない。そう思いつつ、一応聞いてみた。
「うむ。どうやら古代の魔道具だとかなんとか……」
「――出ます!!」
言い終わる前に即答した。
――え? 古代の魔道具?? なんでそんな美味しい景品逃していたの??
もしかしたら今後の研究材料に役立つかもしれないじゃないか……ッ!!
よし、出よう。みんなには悪いけど。出場してさっさと優勝かっさらいます。ひゃっほう。
「――え、や。しかし……あれは壊れているし……」
「そんなことありません! 壊れていれば直せば良いのです! うふふ、やったあこれでまた新しいのが作れるかもしれない……――はっ! こうしていられない! 師匠! 今日はこれにて!! さようならーーー!」
ボクは冬の夕暮れ時の魔獣平原を爆速で前進した。
去り際の、ミリカの「あんなんで食いつくやついたのか……」という言葉はボクの耳に入らなかった。
「――出ます! 新春大会! エントリーさせてください!!」
ボクは嬉々として、店じまいをしていた受付に迫った。
「……え、ああ、はい。では、ここにお名前とエントリー級を……」
エントリー級? 学年ごとに違うのか?
「どの級を優勝しても、魔道具はもらえるんですか?」
「え、えっと……違います。古代魔道具が優勝商品なのは、総合優勝者のみです」
受付のお兄さんは引き気味に答えた。
そっか……総合優勝か……つまり、それぞれの級の優勝者がマッチして、そこで優勝を果たせばいいのか……。
それだったら一番高い級で無双した方が、後々よくね?
「――じゃあ、ミドガルド学校の一年オーウェンスです! 一番高い級でエントリーします!」
「……え、い、1級ですか? これは通常、最上位学年の5年生がエントリーするものなんですが……」
「実力があれば受けてもいいですわよね! ね!」
ボクは笑顔でゴリ押し気味に聞く。
「も、もちろんでございます。では、使用する武器や得意魔法などをここに……」
ボクなら優勝できるという言葉を信じて、魔法剣でエントリーした。スライムソードなら魔法効率は杖や詠唱するより、断然効率いいしね。
スライムソードを危険物扱いされそうになったときは、自分の素性を明かして、よくしてもらった。
――私、手荒なことは好きじゃないですの。
「――リリィ! ボクも新春大会に出ることにしたよ!」
「そうですか」
むう、そっけない。まるで知っていたかのようだ。
「どうしたのリリィ? なんか機嫌悪い?」
「いいえ? ただ最近オーウェンス様とお話しできないとか、ちょっと出番が少ないからとか、そういうのではありませんよ?」
「それはごめん……んまって。後半なんの話をしているの?」
「さあ……私もよくわかりません」
いつものように可愛らしく小首を傾げた。
「カワイイ……じゃなくて! わかった! 今日は一緒に寝よう? おあいこってことで!」
「その手には乗りません。いつも私が不機嫌な時はそうやってごまかすですから」
「――っ」
くそう強情め。
「じゃ、じゃあ! わかった! これからはリリィとの時間もちゃんと取るし……」
「…………」
リリィは無言だった。
「ならば! 前やったマッサージをいつでもしてあげる! これでどう……」
「――許します」
「だ……え? 今なんて?」
「だから許すと言っているのです。……守らなかったら怒りますからね?」
「わ、わかった……ちゃんと守る!」
最近、リリィの世話が少し焼けてきた気がする。
「――ところでリリィ。ミリカ=キースって知ってる?」
リリィに肩揉みをしながら聞いた。
「――んっ。絶剣様ですか? はあ……はあ……はい。よく知っております。ミリカ様は、ロールランド様のかつての相棒です」
「そうか……ん、相棒?」
「知らないのですか? ……まあ当主様はあまりこの話はされないですからね」
ボクはリリィにお父様の過去の話を聞いた。
かつては伝説の冒険者グループ『絶』の一員として、その名を馳せたこと。そのグループは魔王討伐まで上り詰めたらしい。
そして、お父様は、当初は『絶生』とよばれ、彼が一度通れば生命は全て失われるとまで言われていたこと。そしてたまたま出会ったお母様に惚れ、お母様の貴族の家督を継ぎ、ミリテムの為政者として現在は名を残しているらしい。
――――いや、よくよく考えたら、お父様ってめちゃくちゃすげえな……。
学園運営に、ミリテムの統治、そして国王直々の政治官とスーパーキャリアの持ち主って……。
「――と、ロールランド様はとてもすごいお方なのですよ…… ――あっ」
今度、お父様も労ってやろう。リリィの肩を揉みながらそう思った。




