27:Lesson1『まずは基本から』
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「――では始めようぞ」
結局、ボクは放浪者さんの申し出を受け入れた。
そもそも、当初の目的は魔力暴走を起こさないために魔力制御を覚える、だったからだ。最近はいろんなことが重なりすぎて授業をまともに受けられなかった。
……そもそも学校の時間は寝ていた。
公式チート(前世の知識)があれば、10歳の学習なんて言わずもがな。
初めて知った魔法理論は過去に何徹もしたおかげで、今年度のカリキュラムは終了。見知ったことを受けるものほど眠いものはない。
ただでさえ夜は、スライム狩りに、たくさんの人との商談、会談、展示会、新事業の打ち合わせなど多忙に多忙を重ねたような生活。少しぐらい許してくれてもいいはずだ。
起こしてくれていた先生も「……まあオーウェンスは点取るしな」って諦めてくれましたもん。どこにいっても実力主義、素晴らしき社会ですわあ。
最近は、予定にも目処が立ってこうして放浪者さんに授業を受けることができる。
「――オーウェンスは理論はもうわかっているはずじゃ。魔法の起源や仕組み、短縮魔法陣もよくわかっておる。……そもそも、オーウェンスは無詠唱をしておるじゃろう?」
「はい。詠唱しなくてもできるので……」
「さすがは全適性Sじゃのう。がしかし、そこが穴でもある」
「と言いますと?」
「うむ。そもそも魔力暴走は魔力量が多いもの属性適性が高いものほど起こりやすいのは知っているな?」
「はい」
「彼らの多くは魔法獲得までの時間が人より短い。故に、鍛錬をあまりせずとも、身の丈に合わない技にまで簡単に手を出せる。……常人なら耐えかねないものでもな」
「……つまり、分をわきまえず次へと進むのが、魔力暴走の理由だと」
「わしの考えではな。わしの経験によると、魔力暴走するものにはそういった傾向が強い。そして、お前さんもその坩堝にしっかりとはまっておる。――オーウェンス、お前はすでに魔力暴走が始まっているのじゃよ」
「…………え?」
ボクは突然のことに膝を落とした。
ボクは、もう……魔力暴走が始まっている……?
じゃあ、学校の友達との生活は?
お父様とお母様とは??
……リリィとの未来は???
もう……ない、というのか…………?
そんな……いやだよ…………。
「――じゃが、解決策もある」
「本当ですか!?」
ボクは放浪者さんの手を握った。
「本当じゃよ。そう気を落とさんでもええわい。方法は簡単。あまえさんがもう一度魔法を1から学び直せばいいだけじゃ」
「1から?」
「そう。最初は複雑な魔法陣を描き、その上で長ったらしい詠唱をする。……普通の人であれば誰でも通った道じゃ。お前さんも、そこを経験するのじゃよ」
「……なるほど! わかりました……! やってみます!!」
「待てい。わしが稽古してやると言ったのは、お前さんの魔力暴走が治るまでじゃ。数時間で良い。わしと一緒に稽古を続けるか?」
「はい! 是非お願いします!」
「良い意気込みじゃ。じゃあまずは……」
放浪者さんは紙とペンを差し出した。
「――魔法陣を描くところから始めようのお」
「――できました! これでどうですか! 師匠!」
「……お前さん……どうしてそれができたと言えるのじゃ……」
ボクは今までの中で最も上手く描けたものを提出した。
「――まず、お前さんには画力が無さすぎる。日頃から魔法陣を描いていのが目に見えておるよ。魔法陣は綺麗な円から始まる。なのにお前さんはこんな歪なものでほざきおって……!」
酷評だった。ちくしょう、上手く描けたと思ったのに。
「それに、これは最も簡単にかけるウォーターの陣じゃぞ? 魔法陣に組み込まれている形も違うし……お前さんの目は一体どこについておる? お前さんの目は節穴か?」
うっ。そこまで言わなくてもいいじゃないか……。確かにボクはちょっぴり絵が下手だけどさ?
――そもそも、ボクが絵が描けないのは、前世からの業なんだ。そんなことを今更言われても、ぼくにどうしろというんだ。
「――まあでも、基本形はつかめておる。勉強はしていたんじゃのう。……良し悪しは別として、これを描けと言ったら迷わず描ける。……まずは、写し絵をせい」
「わかりました」
こうしてボクは師匠が書いた魔法陣を台紙に、薄い紙で延々と写し続けた。
「――よし、そこまでじゃ。次はその魔法陣を持って、わしに倣いながら詠唱をせい。そしたら自然と魔法が出るものよ」
「わかりました」
「――大地を癒し、潤いをもたらす天からの恵みよ。また、神々の涙とし、幸運にも我らの休息となる地を。今ここに。……ウォーターボール」
師匠の言葉に続くと、紙にあった魔法陣は色を放ち、線をなぞり、やがてボクの真下に展開される。
その幾何学的な美しさに目を奪われながら、詠唱を最後まで唱えた。
そして、ボクの体は温まり、どこか嬉しい感情が湧いてくるような心地を覚える。刹那、その泉から湧き出るように、ボクは水砲を発現させた……っ!
――えいやなんで?
「……そう。これが魔力暴走の始まり。扱いずらさを覚えるのは発症中盤になってから起こる。これが初期、魔力の過剰放出じゃよ」
師匠はことの顛末を知っていたような顔をしていた。
「身に沁みてわかりました……」
「じゃから、お前さんにはこっちのリストバンドもつけてもらう」
「……これは?」
「お前さんがすでにつけておるそれは魔力を抑えるだけのものだったのじゃ。そしてこれは魔力を体から、漏れないようにするためのものじゃ」
「それって、魔法の詠唱ができないんじゃ……」
「たわけ。お前さんの魔力量は群を抜いておるわい。これでストッパーをかけておかないと、周りのものが魔力酔いしてしまうわ」
ああ、だからボクの周りにいる人はみんな気持ち悪そうにしていたのか。すまないことをしたな。
「え、じゃリリィは……?」
彼女はどうなのだろう? リリィは四六時中と言っていいくらい、ボクのそばにいる。もしかして顔に出さないだけで、実はすごい気持ち悪いとかそういうのはないのだろうか?
「お主の連れは、おそらく幼少期から受けていたせいで耐性があるのじゃろうよ」
「なるほど……ってなぜリリィのことを?」
「――……むっ。そうか。これは知らない設定じゃった……」
彼女はしまったという顔をした。
「どういうことか詳しく聞かせてくれますよね?」
ボクは笑顔で聞いた。
「それはあ……そのお………… ――いやわかった、教えるからその笑顔やめて!」
そうしてボクはことの真相を知ることとなる。
次回は6:00です




