26:目的回帰、ですか?
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「――――はっ!」
目が覚めると、ボクは夜の魔獣平原で倒れていた。
「……ん、気が付いたか?」
少年――失礼。少女は、焚き火をし、芋の皮を剥きながら聞いた。
「ボクはなぜここに……確か……急に暗殺者に狙われて……」
「――それで暴走して今に至ると」
「え?」
暴走? ボクが? 冷静沈着泰然自若の体現と言われるボクが?
「……覚えていないのなら、それで良い。平生からあの魔力量を持っていたら恐怖以外の何者でもないわい」
「……はあ。あの、あなたは……」
「わしか? そうじゃのお……わしはどこにでもいる放浪者じゃよ。今は弟子を持って、ここに留まっているがの」
「その……名のある放浪者様。守ってくださり、ありがとうございます。夜の魔獣平原に一人倒れるなんて、命がいくつあっても足りませんから」
よく見れば彼女には大量の魔獣の魔力痕跡が残っていた。
「よいよい。借りは返したしの」
「ありがとうございます……?」
この人とは初対面なんだけどな。
――あ、ボクのアーティファクトシリーズのリピーターなのかな。
あとで特徴を言って、商会の方にもお礼をしてもらわないと。
「それで、お主。本当に何も覚えていないのじゃな?」
「はい……朝方に襲われたことは覚えているのですが……それっきり何も」
「それならよかったわい。あいつに怒られないで済む」
そして彼女は言葉を続ける。
「――じゃが、この惨害はわしは擁護できんぞ?」
彼女は自分の後ろを指差した。
ボクはじっと、その先を見つめる。暗くてよく見えないが、次第に夜目に慣れてきたのか〝それ〟を理解した。
彼女の背後は夜で暗かったのではない。そこには大きな空洞があったのだ。
「……これは?」
ボクは震えた。何もないとしか形容することしかできない空洞にただただ怯えた。
「――そんなこと、お主なら見ればわかるじゃろう」
「…………」
ボクの、魔力痕跡。
そこには、大量に、びっしりと、滞留している。
彼女は魔獣平原にいるボクを助けてくれたのではない。
一時的に魔力暴走したボクを止めてくれたのだ、と直感的に理解した。
「――普通の人間は、魔法を使うとき、体内にある魔力はあまり使わないのじゃ。じゃがお前さんは違う陽ようじゃな。……否。お前さんも周囲の魔力は使っておる。だけどあまりにも力加減ができないから、自己の内臓魔力まで使い始める」
のじゃ、と最後に小さく付け加えた。
「………………」
ボクは絶句した。目の前にある惨劇が、自分の異常性をいやでも顕にしていたのだ。
「――そこでじゃ。お主に一つ提案がある」
彼女は沈黙の空気を破った。
「……提案、ですか?」
「お主には力の制御を覚えてもらおうと思ってな。……先刻も言った通り、わしは名のある放浪者での、こういったことには少々得意なのじゃ。――なに。今から旅をするとかそういうものではない。一日に数時間程度、わしがお前さんに力のイロハを教える。……これを会得すれば、魔力暴走も発症しないかもしれない」
「魔力暴走……!」
ボクは今まで無視してきた単語に顔を歪めた。
「……これはあくまで、お前さんの意思で決めることじゃ。わしは強制する気はまるでない。……ゆっくり考えなさい。今日はもううちに帰るのじゃ。……一人でも帰れるか?」
「…………はい」
ボクは自分の寮に戻った。
今日は、魔獣平原で倒れるわ、帰って寮母さんに怒られるわ、リリィも大激怒、最後には泣かれるわで、踏んだり蹴ったりの日だった。
「――そういえば」
謎の放浪者は最後にこう言っていた。
「わしとここで会ったことは誰にも秘密じゃよ? …………特にお主の父上にはな」
なぜお父様なのだろうと、ボクは不思議に思った。
次回は24:00です。




