21.5:あくる朝 〜フェーリの門出〜
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ここは聖マルクス学園。 オーウェンスが去って約半年、彼女がスライムファンデーションに奮闘した少し後の話。
萎れていた再び学校の雰囲気も次第に活気づいてきた。
「どうすればいいんだ…………」
さんさん照らす休日のお天気の中、フェーリ=ヨルンは自分の書斎で頭を抱えていた。今後の目処が、オーウェンスに合法的に会えないからだ。
一方、クライムは、彼女の新商品の商談に、ユリウスは功績を讃えた授与式に参加すると言って、学園を離れている。
建前上は来週から、学園に戻ると思うが、彼らはそんなことは絶対にしないはずだ。これ見よがしに、学園を離れ。王都の方へ転校することだろう。
正直、彼らがとても羨ましい。
自分はイライザの国の代表として、この学園に留学している。自分が転校することは、国の行方にも関わるのだ。だから、自分からはなかなか動けず、こうして項垂れている理由になる、のダガ……。
――――僕は気分転換に、外の空気を吸いにいった。
聖マルクス学園の寮はすばらしい。幾何学的に調和された木々や花々や心地よく鼻腔を刺激する花の香り。秋にさしかかり、最近では金木犀が上品に奏るようになった。
――もはや、この庭一つ全てが、一つの芸術品として大成されていた。
その時、「――えーん。えーん……」と、かすかだが、小さな子どもが泣いている声がした。
「――道に迷ったのだろうか?」
フェーリは声のする方に向かうと、
「――……っ!?!? ま、魔獣、だと!?!?」
そこには、巨大な花の擬人魔獣、フラワードールがいたのだ。
「……学園の魔力に当てられて、魔獣化したのか!? 少年! 立てるか!?」
「――え、う、うん!」
「走れ! 早く逃げろ!!」
小さな小さな少年を見送ったのち、彼はすぐさま臨戦体制に差し掛かった。
「フラワードールは身なりは大きいが、求められる実力自体は問題ないはず。おそらく今の僕、なら……! ――は!」
伸縮する葉の攻撃をよけ、態勢を立て直す。よし、いける。
その確信を持った刹那。
――魔獣は急激に成長し、魔力量も格段に上昇した。
「な、なぜだ!? まさか、今、魔化したというのか!?!?」
魔化。魔獣がふとした拍子に成長し、内蔵魔力もそれに合わせて桁違いに跳ね上がる。
魔化は一般的に魔獣の危険度を表す魔獣階級を3つ以上指すものとして表される。
この魔獣の推定階級は……――中の3……っ!?!?
まさか! ありえない!
元々、フラワードルは誰でも倒せる下の1のはず。
……5つ以上階級が上がるということは、魔化ではなく、大魔化が起きたというのか!?!?
「……グリニッド先生は休暇でいない。ここで引いても、安心して任せられるものは少ない。そして……」
――何より先ほどの少年だ。ここで引くと、まず狙われるのは少年…………っ!
「……剣士として、ここで撤退するわけにはいかなくなったな」
フェーリは携えていた剣を引き抜き、警戒態勢をより強めた。
彼の母国、イライザはどの国でも珍しい魔剣士王国だ。
なぜ魔法を主体とせず、魔力効率の悪い魔剣を選んだのか。それは人種特有のフィジカルを活かし、魔法で強化に回した方がよっぽど効率的だからだ。
「フェーリ=ヨルン……いざ参る!」
剣に魔力を込め、フラワードールに斬り掛かる。
しかし、防がれた葉はびくともせず、数寸も歯が立たなかった。
「――くっ……さすがに大魔化相手にこれは無傷か……ならば!」
彼は自分の剣にさらに魔力を込め、込められた魔剣は7光の色彩を放つ……っ!
彼の奥義、『ナナビカリノヤイバ』は自身の剣に全ての魔力を込め、今まで以上に剣の硬度や威力、さらには彼の固有する魔力、火・水・風の3大属性があるからこそ顕れる秘技……っ!
「ここで……決める!」
明鏡止水の最中、彼は居合斬りを構える。『居合抜刀』彼が最も得意とする技だった。
それを察したのか、魔獣も一撃必殺を練りだす。
――――
――――――
――――――――
一枚の辨が落ちた瞬間、彼の奥義は花開いた。
「…………奥義。ナナビカリ。居合抜刀」
――――――――
――――――
――――
そして、一体のフラワードールは断絶されたのだった。
「…………ふう。終わった、のか……?」
目の前の魔獣はもう塵となり、消えかけている。夢心地だが、確かに自分は格上の相手に勝利したのだった。
「――お見事じゃ」
「何者!?」
そこには、先刻の少年がいた。
「少年! どうしてまだここにいる! 危ないといったではないか!」
「たわけ。わしはあれごときに負けはせんわい。お前さんを試していたのじゃ」
「試す……?」
フェーリは不穏な言葉に身構えた。
「早計警戒せんでも良いじゃろうが。わしはお主を取って食ったりはせんよ。……お前さんをスカウトしろと、旧友が騒ぐものでな、小芝居を打ったってわけじゃ」
「じゃあ、あの大魔化も……?」
「もちろんそうじゃよ。10歳ならばあれぐらいは、最低限倒せないとわしの弟子にはなれんわい」
「……弟子だと?」
「うむ。わしは魔剣士の間では、ちょいと有名でのお……絶剣、とでも言えば伝わるじゃろうか?」
ジジイ口調の少年は片目でフェーリを見た。
「――絶剣……だと…………? かつて存在した魔剣士で最強とされるお方が、お前だと? ――笑わせるな! もう何十年も前の伝説だ。そんな人がおまえであってはならない!!」
「……ならば、試してみるか? そうじゃのお……わしは一歩もここを動かん。お主程度の刃、人差し指で抑えてやるわい」
少年は利いた風に指を立てた。
「……『絶剣』の逸話まで真似をするというのか!! おまえは一体どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!!」
「つべこべ言わずはよ来い、へこませたるわ」
「……その言葉あとで後悔するなよ」
彼は強化魔法で身体を向上させ、完全に不意をつく刺突を繰り出した――――――……はずだった。
しかし、刃はわずか及ばず、宣告通り彼は人差し指で止めていた。
「馬鹿な……!」
「んん? これで終わりか?」
「……っ! まだだっ!」
彼は一瞬で背後をとり、さらに振り向くことを予測して頭上をとった。
(もらったな)
未だ彼は僕を捉えられていない。僕の勝ちだ……!
――刹那、彼の確信はそこで途絶える。
「――じゃからいったじゃろう? わしはお主の刃を指で受け取ると」
「――――!?!?」
彼は上を向き、再び人差し指で受け止めた。
「若干10にしては悪くない動きじゃった。……しかし、相手が悪かったの」
「くそ……!」
何がいけなかったのだ。完璧に気配は消した。どこに穴があるというのだ……!!
すると、
「――あれ。そこにいるのは、フェーリくんと、『絶剣』こと、ミリカ=キースではないか」
そこにいたのは、学園長兼この地ミリテムの長、ロールランド様だった。
「フェーリくん。そこで何をしているんだい?」
「……突然、フラワードールが発生したので、討伐しました。しかし、この少年が絶剣と嘯くので、ついカッとなってしまって……すみません」
「嘯くも何も、彼こそが、正真正銘、『絶剣』ミリカ=キースだよ」
「――へ?」
「じゃからいったじゃろう。わしは絶剣じゃ」
学園長にアイコンタクトをとる。しかし、それは皇帝の意を表すものだった。
「……いえいえいえいえ。嘘でしょう? この小さな少年が、何十年も前に活躍した絶剣だとおっしゃるのですか?」
「見た目で決めるでないぞ。若造。わしはおまえより、何倍も生きとるわい」
少年こと、ミリカは 少年は、自慢らしい態度をとった。
○○○
ここではということで、僕は学園長室に招かれた。
「――んで、どうしてミリカはケンカしていたの?」
「わしの弟子にするなら、少しいたぶってやろうとおもってのお」
「全く……ミリカは…………」
「あ、あの!」
「ん? なんだ?」
「その……本当なんですか? 彼が、絶剣だということは……」
「もちろん、本物だ。なぜなら、私は彼と数年間旅をしているからね」
「伝承は本当だったのですか……!?」
かつて、絶剣とともにしていた冒険者グループ『絶』。絶剣、絶魔、絶眠、絶生の異名の名をともに、魔王を倒すという、偉業を成した伝説の冒険者。その黄金紀はどの国でも言い伝えられ、この世界の人間は誰も知らないものはいないものほど、絶大な人気を誇る。
「……まあ、昔ね。内緒だよ?」
学園長は小恥ずかしそうに指を唇を当てた。
「――ていうか!」
彼は唐突にミリカをげんこつした。
「あべし! ……何をするのじゃ!」
「そもそも私は、見てやれといったんだぞ? フェーリくんは試練までクリアしてるのに、何勝手に追加発注しているのだ!」
「うう……だってえ……彼が生意気なことを言うからあ……」
「謝りなさい。……フェーリくん。この度はすまなかった。彼も悪気はないと思うのだ。どうか許してやってくれないだろうか?」
「え、ええ。……ところで試練とは?」
「君に、チャンスを与えようと思って」
「チャンス……ですか?」
「そう。聞いたところ、君はオーウェンスを追いかけたいのだろう? そこで、ミリカに弟子をとってもらい、王都の方に転校してもらおうと思ってね。ミリカは近いうちにミドガルド学校の剣術指南として雇われるからね。そのついでさ」
「は、はあ……」
「――それで、どうするのじゃ?」
ミリカは聞いた。
「え、えっと……もちろん、申し立ては嬉しいです……ですが私はイライザの代表としてこの学園に入学しました。私個人の恣意だけで、そんな横暴なことはできません」
僕はキッパリと断った。
「そう言うと思ってね。君の母国にも話をつけておいたよ。今まで弟子を取らなかったミリカが急に心を変えたんだ。そんな左足なことぐらい、二つ返事だったよ」
「――――そ、そうなんですか!?」
僕は思いもよらず立ち上がった。
「ああ。本当さ。それでどうするんだ? この場で決めないと、この話は無かったことになる。……彼女は出発するからね」
「え、彼女……ですか?」
「ああ、そうか。これはあまり知られていなかったな。ミリカは、『絶剣』ミリカ=キースは女性だ」
「え、えええええええ!?!?」
「なにを驚いとるのじゃ。どっからどう見ても正真正銘、オトナなレディじゃろう」
「いやだって、その体躯は……――ごふっ」
言い終わるもなく、俊足の拳が繰り出された。
「……何か言ったかのう?」
「…………イエ、ナニモ」
かくして、無事に僕の理想は叶ったのである。と同時に、言ってはならない禁句を覚えたのであった。
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