17:開発、再びですか?(後編)
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リリィの助言通りにボクは設計を進めていた。確かにリリィの発想は素晴らしい。これなら、微細な魔力だけで指定の魔法が可能となる。しかし、問題もあった。
そもそも、この世界に魔法というものがありながら、魔道具――つまりアーティファクトが開発されなかったのか。
――答えは簡単。魔力伝導率が悪いからだ。
この世界には魔法剣も存在するけど、使われている一番いい剣を使ったとしても、実際は20パーセントも満たないそうだ。
それならば、存在する魔力を利用した方が、よっぽど効率いいんじゃね? っていうことなったらしい。事実、この世の中の魔法関連のお仕事はほとんどが魔法使いである。
魔道具開発者は今のところ、ボクだけとも言ってもいい。
しかし、これは才能云々の問題だし、ボクみたいになんでも魔法を使える人間がぽんぽんと生まれる世の中でもない。極論、この世界は魔道適性が全てなのだ。
ボクはあんまりそれをよく思わない。才能あるなしに関わらず、魔法は、誰でも等しく使えるべきなのだ。
「過去にこう言ったことに望んだ人はたくさんいたんだろうけど……」
そもそも、ボクみたいなひょんな転生者が長年未解決の問題を解けるはずもないのだ。
「――素材、探すかあ」
ボクは久しぶりに魔物がりに出た。
「――ふっ! ファイア!」
真夜中、ボクはエンカウントしたバーンウルフと呼ばれる大型の狼魔獣を難なく倒した。
こうして壁の外を出るのは、学園時代以来からだろうか? ――思えば、あのときから半年が経とうとしているのだ。ふふ、懐かしい。
魔法の存在を知った日からボクは家をこっそり抜け出しては、研究を進めていた。あの頃はちょうど、公式チートが使えて勉強も簡単だったし暇つぶしには最適だったのだ。
しかし今では、膨大な魔法理論や魔法史の予習や復習……あいにく、ボクの前世には魔法はお門違いだ。加えて、開発および、研究……10歳にやらせることじゃない。
「――――ん、スライム?」
スライム。よく見るゼリー状で主に初心者が経験を積むにはおすすめの魔獣だ。粘液のようなものを吐き、攻撃し、その属性は体の色によって変わる。
ちなみにつぶらな瞳で笑顔をこちらに向けてくれない。そもそも眼や口などの器官が存在せず、アメーバみたいに溶かしては捕食するだけの存在だからだ。
「そういえば、スライムの主成分ってなんだろう……?」
流石に食べてみようとは思わないが、あの鮮やかな色や弾力、ツヤを見ると気になるものがある。
「……捕まえるか」
このとき、ただの捕獲が日を迎える作業になるとは思わなかったのである。
そもそもこの世界では、魔獣は倒すと多くは魔石などをドロップする。一説によると、知性を持たない生き物が魔力に当てられて、魔獣化するという説もあるが、それも噂程度。
――それは置いといて、重要なのはこの世界は魔獣は倒すと跡形もなく消滅するのだ。さっきバーンウルフに例外なく、全ての魔獣は塵となり、姿を消す。
ましてやスライムみたいな低級モンスター、ボクがちょっと触れただけで、死んでしまうのだ。苦労して捕まえたとしても、一般の網ではするりと抜けられる。
……もう、限界だった。
だが同時に、ボクのなにかが燃えた。ここで必ずサンプルにする。その意思が、思いを貫いたのだ……ッ!
「――や、やっと捕まえた……」
解決したのは、属性相性を利用した魔法の網だ。
魔法にも有利相性や不利相性など存在する。
そこで考えたのだ。スライムにも適応できないかと。色で支える魔法がわかるほど、魔力がこもっているのだ。存在自体が魔法と言っても過言でない。
「どーだっ! 属性を突いた完璧な魔力牢は! この発想に至るまでに、幾重のスライムが犠牲になったが、そんなことはどうでもいい! ――ほれほれ。出られないだろう?」
スライムを閉じ込めた牢屋を片手に力説する寂しい人がいた。――というか、ボクだった。
――調べてみれば、思ったとおり、スライムは素晴らしいほどまでの魔力伝達率を誇っていたのだ。伝導率脅威の99%以上。もはやスライムは生きるアーティファクトの始祖なのだ。
これからは神として崇めよう。
おまけに都合がいいことに、スライムに別の術式を付与すれば、既存の術式に上書きすされるのだ。例えば、水スライムに火の術式を付与すれば、火スライムになるといった感じ。
つまりスライムさえあれば、どのようなアーティファクトも発明が可能なのだ……っ!
――やばい、感動しすぎて泣けてきた……これは本格的にスライム教を新興しなければ。
「ここに、幻影魔法と光魔法の術式を入れて…………」
王都に引っ越す前に書庫から大量の魔法書をくすねておいてよかった。
「――――よし、できた……っ!」
ついに、ついに……スライム式ファンデーションが完成したのである!
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