15.5:オーウェンスの居ぬ間ですか?
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魔力制御を覚えるため、オーウェンスが王都ミドガルド学園に出て数週間。
クーデリカ家は哀愁漂っていた。
「――おぉぉぉうぇんすぅぅぅぅ〜〜〜〜」
筋骨隆々な父、クーデリカ・ロールランドはオーウェンスの写真に泣きついていた。その姿は大熊が赤ん坊に縋り付く姿に等しい。
「やめてくださいあなた。オーウェンスは死んではいませんな」
その歳、45には見えない美魔女・チルチルはロールランドの背中をさすった。
「しかしぃいい〜〜〜最近は音沙汰が一個もないしぃいいい〜〜何かあったのかと思うではないかぁあ〜〜〜」
この父、ロールランドは見た目強そうだが、反面中身はガラス細工の如く脆い。
そのギャップに萌え、チルチルが結婚を決意したのは別の話だが。
最近、オーウェンスは予習復習の忙しさのあまり、連絡が取れていなかった。
「きっと、勉強が忙しいんでしょうな。ミドガルド学園は留年することで有名ですから」
「そうだといいんだが……ぐすん、オーウェンス……」
「元はと言えば、あなたが送り出したんでしょう。あなたが弱ってどうするのです」
「だって……行くと思わないじゃん。私を、私を見捨ててまでぇええ〜〜〜」
「はいはい。得意の強がりは家族の前ではなしにしてくださいな」
――とまあ、とにかく大変そうである。
一方聖マルクス学園では。――こちらも、学校の雰囲気は死んでいた。
教師陣、生徒陣ともども、その生きる活力を失った。
当然だ。本人は気づいていないかもしれないが、学園のアイドルが突然の転校なのだから。
初めの頃は休校になるほど、欠席者が増え、今では学校運営に最低限できるぐらいまでには戻っているものの、空気が死んでいるのは変わりない。
「「「はあ……」」」
もちろん、ユリウス・カルバン・フェーリもみんな死んでいた。
ここ最近、授業も観に入らず、頭のことには、オーウェンス、オーウェンス、オーウェンス……今や3人(学園全体)の思考は一致していた。
最初は彼らも転校することを決意したが、ユリウスもカルバンもフェーリも無理言ってこの学園に入学した手前、両親に相談することは、あえなく断たれた。
「フェーリよ……オーウェンスに会いたいのだが、どうすればいいのだろうか……」
王子は力無く聞いた。
「……王子……その手立ては私が知りたいです……どうか、我に叡智を」
「――ふっ。そんなことができたらとっくにしているさ……」
ユリウスは思考停止した。
「お、王子ぃ……」
カルバンは慰めの言葉をかけようとした。しかし、そのどれもが塵となり、灰となり、刃となるのは想像に容易くなかった。
「――そ、そうだ!」
カルバンは身を奮い立たせた。2人はかすかな希望に目を光らせた。
「お、お手紙を書いてはいかがですか?」
「それならもうとっくにしているさ……最初は帰ってきたのだがな、今では……」
ユリウスは再び机に突っ伏した。
「王子もですか……」
「私モ、だ……」
カルバンは膝を落とした。
フェーリに至っては、半分母国語が混じっている。
「――もういっそ。転校しませんか?」
カルバンは苦渋の決断を提案した。
「それは無理だな…;私は国でも名高い才女オーウェンスのためにこの学園に来たのだ。彼女がいなくなったから、変えてくれなんて、とてもじゃないが面目がない」
「ですが王子……メンツなど気にしていたらもっと最悪な未来がやってくるかもしれませんよ」
「おいやめろ……想像するだけでお前を斬りたくなる」
「それに関して、ハ、同感……ダ」
「なんで俺に!?」
「――でも、実際のところどうするんですか? 俺は明日父に告げようと思います。明日からはこの学園を離れるかもしれません」
「カルバン……お前……先駆けは……ユルサナイ」
「フェーリも恨み言言っていないで、対策を考えましょうよ。あなたが一番可能性が低いんですから」
フェーリは国の代表の留学生として、ここに在学している。状況を鑑みれば、再会を果たすのが不可能に近いのは間違いなく彼だろう。
「ダマ……レ……」
フェーリはカルバンの精神攻撃によって沈没した。
「――――私も、学園長に打診してみるよ。この際メンツはどうでもいい。今大事なのはオーウェンスへの愛だ。そうだろう?」
ユリウスは何かを決心したようだ。
「ム、確かに」
「王子……っ」
3人の思いは皆同じ。オーウェンスに再会することだ。
かくして決して消えない灯火が彼らの眼に宿った。
「ともに励もうではないか! そして彼女に再会しよう!」
「「はい!」」
そして彼らが王都ミドガルド学園にて再会を果たすのはもう少し後の話である。




