10:魔法の講義ですか?
「さあ、今日はみんなが待ちに待った魔法の講義だ。くれぐれも、無理はしないようにな」
魔法科担当のグリニッド先生が言った。
グリニッド先生。28歳と、教師としては若いものの、魔法学に関しての実績はかなり高いらしい。
何でも、10年に1人の逸材とも言われる魔法の加護《三菱》を持っているだとか。
また、イケメンでどの生徒にも優しく接するので、生徒からの人気もよく、ボクのクラスの担任でもある。
「――とは言っても、一人は魔法の講義なんて必要ないと思うがな」
……先生に苦笑いで見られた。
それにみんなも「それもそうだ」みたいな目で見るのやめてくれませんかね。
「まずは魔道適性を見てもらう。魔法を使う前に、少し講義をしよう……」
――と、5大属性がどうとか、構成単位は魔法とか、アックスが言っていたことと全く同じことを喋っていた。
あ、でも。アックスは魔力量等級とかは言ってなかったな。
「――魔力等級について話すぞ。その名の通り、魔力量に応じて、便宜的にクラス・グレードが決められる。まずは初級、1から10級まであるぞ。そして初段、1段から10段まである……そして、皆伝1から5類に分かれるのだが……まあ、これは必要ないだろう。僅か10歳で皆伝級の魔力量なんてありえないからな」
――とか言っていた気がする。
あとは精霊の加護とか。魔法の修得率に関連するので、いわば天賦の才みたいなものだ。
だからと言って、頑張れば天才をも超えることはできると熱く語っていた。加護持ちの余裕だろうか。
「ーーでは、まずはオーウェンスにしてもらおうか」
「「……ッ!?!?」」
ボクはリリィを、リリィはボクをと、風にお互い向きあった。
(だ、大丈夫かな……)
ボクはリリィに目配せをする。
(大丈夫だと思います……仮にもクーデリカ家の書庫担当ですので、信頼はできるかと)
(本人はあんなに可愛いのになあ……)
(ええ。ですが実力は本物です)
「本当かなあ。前、炎魔法を使ったときは変化は見られなかったけどな……」
「オーウェンス様! またわたしの許可なしに魔法を使ったのですか!?」
あ、やべ。これリリィには内緒のやつだった。
「――オーウェンス?」
「……え……あぁ、はい! お任せください」
こうなってしまえば、どうしようもない。
「うん。そこに手を合わせて……はい」
みんなボクの結果が気になるのだろうか、ボクの周りにはぎゅうぎゅうずめに近寄ってきた。
そういえばあれ変な声が出るから嫌なんだよな。
「……あれ」
おかしい、何も反応がない。
「あ、あれ〜? おかしいな、壊れたのかな。これ壊したら先生にどやされるんだけど……」
うん、やっぱり壊れたらしい。適性検査機のドラゴンみたいな置物も、目が死んでるもん。
アックスに仕返しできたみたいで、ちょっと気持ちよくなった。
「は、はい。じゃあ、これに手を当ててみて……?」
今度は銀色で張り詰められた、やけに豪勢なものが出された。
「――ま、また壊れた……?」
不具合だろうか、ボクがちょっと手を当てただけで壊れてしまった。
「じゃ、じゃあ次!」
今度は金箔の分。なぜかまた壊れる。
「次!」
「次!」
「次!」
「次!」
「次!」
「次!」
「はあはあ……もう、これ以上壊れると学校のものがなくなってしまうからね……? 次で反応してくれよ…………」
先生はやつれた顔で最後らしい測定器を持ってきた。
最後はもはやどこに置いていたのだろうというぐらい、ものすごく大きい。
「――――…………」
ボクは手を当てた瞬間、全身が魔力に包まれる感覚を覚える。
体内にある魔力が駆け巡り、全身中が暖かくなる。
「……どうですか?」
「……し、信じられない……。く、クーデリカ・オーウェス。……全魔法適正……え、S」
「…………」
おいおい、アックス、ボクの魔力を抑えてくれたのじゃなかったのかよ。
やってくれたな。
「――さ、さらに。精霊の加護《五菱》。……魔力量皆伝5類相当…………」
刹那、アックスの言葉を思い出した。
「――――はい。これは魔力を一時的に制限するものっす。現在のオーウェンス様では今の魔力の10の1まで抑えていまっせ」「……とりあえず。普段の学校生活も含めて、大丈夫な程度に調節しているっす。ご心配無用ですよ」
――どこが大丈夫なんだ。おい。
「「「「「えええええええええええ!?!?!?」」」」」
結局、今日の講義はボクの魔力測定にしか使われなかったのである。
 




