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1:念願の女の子になりました?

「…………ェンス……オーウェンス様!」


 やけに綺麗に響く声がする。


「――オーウェンス様! 朝ですよ。起きてください!」


「あと、5分だけ……」


「そう言って、起こしているのが今なんですよ! 起きてください!」


「んーー……あと……5時間だけ……」


「この期に及んでさらなる要求をっ!? 図々しいにも程があります!!」


「……じゃあ……5日後…………」


「起きる気あります!? ていうか起きていますよね!? 起きてください!!」


 ボクはその女の子の言われるままに、重たい瞼を開けた。


「ん……わあ…………」


 目の前には四つん這いになった目にも眩みそうなほど美しい金髪紅目の女の子がいた。幼いからだろうか、まだあどけなさが少し残っているものの、明るい将来が約束された顔容。


 しかしそのあどけなさとは反対に明らかに年齢にそぐわない発育の持ち主だ。きっとクラスでは一番の巨乳だろう。


 そして透き通るような甘い声はボクの耳を燻った。


 ――その少女の全てはボクの鉛のような眠気を吹き飛ばしたのだ。


 正直に話そう。一目惚れした。


「……ボクと結婚してくれ」


「はい?」


 その女の子は今日一番の意味がわからないという顔をした。


  ○○○


「オーウェンス様はいつもおかしいと思っていましたが、今日は過去一ひどいです」


「あはは……」


 その少女――アグネス・リリィは曰く、ボク専属の使用人らしい。


 そしてボクこと、クーデリカ・オーウェンスは女の子だった。


「お着替えお手伝いしますよ」


 リリィは慣れた手つきでボクの服を脱がそうとした。


「いやいや。ちょっと待って! リリィさん!」


「はい?」


 リリィはまた意味がわからないというふうに小首をかしげる。


「カワイイ……じゃなくて! なんで着替えのお手伝いするの? まるで貴族みたいじゃないか!」


「みたいもなにも、オーウェンス様の一族、クーデリカ家は由緒正しき名門の貴族ですよ? そしてオーウェンス様は次期後継です」


「……へ?」


 即答だった。なるほど、大体掴めてきたぞ。


「お忘れになられたのですか? ……かつてこの場所・ミリテムは戦争で土壌も枯れ、農民は飢餓の渦中にありました。次々と農民は餓死していき、もうだめだと思った矢先……そこで現れたのが現当主ロールランド・クーデリカ様です! 誰にも思いつかないような改革で、瞬く間にミリテムを復興させ、さらにはこの国・アバンの主要都市にまで上り詰めさせた。オーウェンス様もロールランド様の娘として恥ずかしくないよう……」


「へえ〜。やっぱりボクって女の子なんだな〜」


 自慢気に語るリリィの言葉を無視して、部屋にあったやけに豪勢な鏡を眺めた。


「――って聞いていないし!」


「いやだって……お家とか、由緒とか? そういうのお断りなんだよねー」


 鏡に映ったリリィを片目に、自分の姿を確認した。


 やっぱりボクは女の子だ。


 鏡に映るボクの姿は明らかに女の子のそれだった。


 ベタ塗りのような長い黒髪、そして黒目。声は高いとも低いとも言えない、少しハスキーのかかった中性的な声で、顔はこれといった特徴もない。


 そして肝心の胸は――――ない。


 鏡に映るリリィのは遠目からでもはっきりあるとわかるのに、ボクには全くない。


 全くの無だ。


 ……いや。まあ、ボクは元々男の子だったし? 別になんの問題もないよ? 


 ただ……でも…………。


「――どうせ女の子にするなら、胸ぐらい少しくらいつけたっていいでしょうがぁ!」


 鏡に向かって思いっきり殴った。グーで。


「オーウェンス様⁉︎ いかがなさいましたか!?」


「はあ……はあ……ああ。リリィ。別に気にすることはないよ。ただちょっと現実に受け入れられないというかなんというか…………」


 ドーナッツ型になった鏡に項垂れて、ボクはこの世界に生まれる少し前のことを思い出した――――。



 ――結論からいうと、ボクは転生者だ。前世の名前は直山透。その名を言えば誰もがわかる有名大学にも卒業する後、ブラックな企業サマのもとで十年もその身をしゃぶられた。


 ……まあ、そんなのはどうだったっていいんだ。前世のことなんて、なんの未練もないし。強いていうならば、自分が死んだ後とか、ほっぽり出した仕事の事後処理とかそんなところだ。……まあ死んだ後なのでどうしようもないが。


 大事な話をすると、前世の僕は女の子の憧れていた。前世じゃあ、そういうのも受け入れられないのも当然で、悩んだ挙句――自殺した。


 ――多分、今僕がボクであるのも、そういう意味なんだろう。



 でもまさか転生した世界が乙女ゲームの世界だなんて!


『このゲームは幾つもののルートがあって、それごとにエンディングも異なる。第一王子のイケメンユリウスくん。異国の留学生フェーリくん。商人の子供のカルバンくん。そして完璧美少女の使用人アグネス・リリィだ! 同性愛要素を盛り込まれたこのゲームは幾度となくヒーローを無視して、ノーミスクリアでなければ迎えることのできない裏ルート……! 幾多ものの困難を乗り越え、君たちは理想の相手とクリアできるかっ!?!?』


 ……と、頭のどこかからナレーションが流れた気がする。ていうか、ナレーションちょっと、ギャルゲーチックに感じるのボクだけ? 

 

 それに。


 ボクは世間やお父様やお母様、ましてやナレーションがなんと言おうと、リリィと結婚する。リリィと一生を過ごします。今決めました。


 というわけで、これからリリィを落とすべき奮闘します。



「え、えーと……大丈夫ですよ! オーウェンス様! 女の子は胸が全てじゃないんですから!」


 あまりにもショックを受けた自分に見かねたのか、そう言ってボクの目の前で巨峰を揺らした。そこでボクの理性は途切れたのだった。


「――へえ……全てを持っている子はいいよねえ……。自分ごとじゃないから、他人事としてものを語れる。――そーいえば、ボクは今女の子だったんだ。それなら問題、ないよね……?」


「お、オーウェンス様……?」


 そこから行われた行為は割愛させていただこう。


 ボクは揉みしだいたり、フワフワしたりとかしていない。


 それに、布越しに咥えたりなんかしていないし、頂上をいじったりもしていない。


 ただ楽しんだだけだ。


「――はあ……はあ…………」


 今、リリィは頬を紅潮させて、ぐったりしている。


 リリィは最初イヤイヤだったが、途中観念したのかそれとも別なのか、抵抗することをやめ、その身をボクに味わわさせてくれた。


 うむ甘美。至福のひと時だった……。


「ご馳走様でした……」


 ボクは手を合わせた。


 この経験は人生の中で一番の黄金体験としてクーデリカ家で語りつがれることだろう。


「お粗末さまです……――っていけない! オーウェンス様! 早く着替えますよ! でないと学校に……」


「――ん。もう着替えたけど」


 リリィを味わった後に、さっさと着替えておいた。


 貴族の服しかり、無駄にボタン多くて少し戸惑ったが。


 ――て言うか、ドレスじゃないんだ。残念。


 色々とおかしいんじゃないのこのゲーム? お嬢様と言ったらゆるふわドレスでしょ。


「あのオーウェンス様が……お召し物をご自身で……――ああ、オーウェンス様もご成長になられたのですね。リリィは感激でございます」


 リリィは袖を濡らし、トリップしていた。


「いや、着替えぐらい自分でできるよ。……ていうか。それぐらい自分でやらせてよ。恥ずかしいじゃん」


「わかりました。――では、朝ごはんを食べたら、学校に参りましょう。今日が人生で初めての学校ですから、失礼のないよう、クーデリカ家の血筋たるものらしくお願いしますね」


 その切り替えの速さはさすがだなあと思った。


   ○○○


「――なあリリィ」


「はい。なんでしょうオーウェンス様」


「…………」


 送りの馬車に揺られながら、学校に向かっている。


 朝ごはんの際、全く顔を知らない大人と食事をするのはいささか気が引けたが、それが自分の両親だと気づいたときには、あまりにも似てなさすぎて驚いた。


 ツルッパゲ筋骨隆々の父。見た目ちっさな可愛いぬいぐるみの合法ロリィお母様。


 うんおかしい。どう考えてもそのチョイスはあり得ない。普通、美男美女の両親がセオリーでしょ? もはや斬新すぎて、逆にこの世界を好きになれそうだ。


 でもこのゲーム、絶対レビュー最下位でしょ。


「――ボクっていつもこんな感じだった?」


 とりあえず、どこからがスタートなのかを探ってみた。


「――……特に変わったところはないかと。今日のオーウェンス様は()()()()()でなら変わっておられますが……」


 リリィは頬を赤らめて、自分を抱き抱えた。


「ん? 結婚してくれる気になった?」


「な……っ。なにを馬鹿なことをおおおおっしゃられるんですか!? だいたい、私たちは女の子同士なんですから、普通らしく……」


 リリィは紅い頬をより一層紅くした。


「リリィは……ボクのこと……キライ?」


 馬車が小石を踏んづけたのか、車両は小さく揺れた。


「……き、嫌いとかそういうわけではございませんが……ただいきなり結婚ってのはちょっと……。もう少し段階を踏んでいただければ……――ハッ! いったい(わたし)はなにを!?」


「そっか。段階を踏めばいいんだね。――じゃあ。リリィ。ボクと付き合ってくれ」


「寝言は寝て言ってください!」


 馬車は学校の正門をくぐったようだ。

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