第八十三話 君の一瞬を記憶できる才能
次の日、学校。
となりの席で座っている颯太に話しかける。
「ねー颯太、颯太ってりんご嬢すきでしょ」
「…なんで分かったの」
「え、だって颯太と出会って間もない時?俺たちは公然の秘密の仲だって言ってたじゃん、あれりんご嬢の歌じゃん、私言われたこと全部覚えてるし忘れないんだよ~」
「…小春、マジで頭いいな」
「まあね、親からは散々投資されてるからって言われたしね」
「それも覚えてるのかよ」
「でも、いいよ。今は水に流して忘れてあげよう」
「…ありがとう、小春」
「…で、りんご嬢のライブいつ行く?」
「え、…行くの?」
「ネットで調べて速攻で調べてチケットとったよ!一緒に行こう!」
「お、おう…金はどうした?」
「お母さんにおねだりしちゃった!いつか働いて返すわ」
「俺の分はちゃんと払うから」
「うん、分かったよ」
「じゃあ来週の水曜日、学校フケてリンゴ嬢のライブに行こっ!」
*
今日はいよいよリンゴ嬢のライブの日…!
バスでホールまで到着。
リンゴ嬢のライブは旗を振るのが礼儀らしい。
私は早速旗を買って颯太にも渡した。
「なあ小春もっと遅くくれば良かったんじゃね?」
「いやー早く来ないとグッズが売り切れるかと思い…」
仕方なく二人で、ライブ会場の溜まり場で座って待つ。
周りを見渡すと、リンゴ嬢ガチ勢がいっぱい居て頭がおかしくなりそうだった。
「はい、開場しまーす」
アナウンスの人の声とともに、みんながどかどか入っていく。
私はグッズでタオルを買って旗の準備もばっちりだ。
テレビでしか見たことないリンゴ嬢どんなライブだろう…
「颯太ーきんちょうするよ~」
「俺も、こんな所初めて来たからどうしたらいいか分かんねえよ」
ざわざわ周りが騒ぎ出す、早く見たい、まだかまだか、と言うその声にすら興奮する。
いよいよリンゴ嬢が舞台に姿を現す。
ギャアあああとかひいいいいとかいう声がうるさい。
いや、多分自分も変な声でてた。
いつの間にかみんなオールスタンディング…!!
興奮する…楽しい…楽しい!!我を忘れて旗をふる…!
ライブってこんなに楽しいものだったんだ…!!
「颯太、楽しいね!」
呼びかけると、颯太は呆然とした顔で旗も振っていなかった。
そしてリンゴ嬢の最後の言葉。
「またこの県に寿司食いにくるね」
周りがワッと沸いた。
*
次の日、部活の時間。
部活は多忙を極めていた。
基礎訓練後、ひたすら立稽古。
「みんな、まだいける、まだまだいけるぞ」
草薙先輩の言葉にぐったりしながら創作は多忙を極めていた。
「しじみがとるるぅって頑張ってんだよ!どーしてそこでやめるんだそこで!!」
先輩の言葉に一聖君が呟く。
「先輩、俺もう無理かもしれません…」
その言葉に先輩は笑う。
「ネバ★ギバ」
ネバーギブアップ…
そんな…先輩…松岡さんを崇拝しすぎているよ…
ヨッシーは練習を重ねるごとに神に近づき、天使長は回を重ねるごとにお粗末になっていく。
私も負けじとすべてが面倒くさい天使3を熱演していた。
草薙先輩がぼそりと呟いた。
「よしっこの調子なら5月末には公演いけるな…」
「えっ…?」
「5月末には上演するぞ」
*
颯太の家で真剣に草薙先輩の脚本を読み返す。
改めて読み返しても、本当にこれは名作だ。
今日は颯太の家に遊びに行った。
「ねー颯太ー私達うまく演じられるかねえ」
「俺は完璧だけど、小春、また本番前寝れないんじゃねえの?」
え、寝れなくても次の日爆睡するから平気なんだけどな。
「公演日は3日もあるんだぞ、本当に大丈夫か?」
「へーきへーき何とかなるって…3徹ぐらいよくあることよ」
颯太は何だか考え込んでいるような、険しい表情をしていた。




