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第五十一話 十束ひなた

土曜日。

風神幹部3人は倉庫には向かわずある場所へバイクを走らせていた。


「はぁ…。やっぱ気乗りしないなぁ」

No3が大きくため息をついた。


「だから倉庫で待ってればよかったじゃない。誰も一緒に来てなんて言ってないよ」

「ひどーいかーくん」


No3達の通う学校近くでバイクを止めた。

駅まで続く商店街がある。

そのちょうど真ん中辺りにあるパン屋で3人は足を止める。


『リトルマーメイド』

と看板にあるそのパン屋は昼どきなこともあり混雑していた。


店内には入らず、隣の路地から裏へ回る。

裏側はだいたい店の裏口や倉庫が並んでいたが、リトルマーメイドだけは違った。


表のパン屋とは違う字体で『little mermaid』と看板をかかげたバーになっていた。

土屋は躊躇いなく扉を開け中へ入る。

まだ開店していない店内は昼間だというのに薄暗く、カウンターのランプだけがオレンジ色に辺りを照らしていた。

その向こう側に、スラリと背の高いシルエットが浮かんでいる。

後ろを向いているその背中に土屋が声をかけた。


「ひなた」


シルエットが振り向く。




女性にしては短すぎるショートカットに、はっきりとした顔立ち。大きなリングピアスをしていて、体のラインが分かるTシャツにスキニーを履いている。まるでモデルのような様相だ。

大きめの黒い瞳が3人を捉え、薄い唇が小さく動いた。


「あ。土屋先輩だ」


まるで棒読みで、その声からは一切感情が読み取れなかった。


「久しぶりひなた。また髪切ったの?」

かずゆきも声をかける。


「ええまあ。どうしたんですかこんな時間に」

「お前の力を借りたい」


土屋がまっすぐにひなたを見る。

ひなたは特に視線を合わせずに下をむいてぼそぼそと喋った。

「はぁ…。まぁそろそろ来るとは思ってましたけど。No3先輩も来るなんて珍しいですね」


NO3の肩がぎくっと跳ねる。

「あ、うん!まぁね。ごめんねーなんか…」

「いや別にそういうつもりじゃないですけどとりあえず座ってください」


*


ひなたの前のカウンターに腰掛けた。

ひなたは3人に水を出す。

「お酒が良ければお酒も出しますけど別にお水でいいですよね?このあとお店も開店しますし。別にあたしはいいですけど」

ひなたは相変わらずぼそぼそと喋る。


口元は笑っているが、逆にそれが黒い印象をあたえる。

薄暗い店内も手伝って、不気味かつ逆らいづらい雰囲気があった。


「水でいいよ」

かずゆきは面白そうに笑いながら言う。

ひなたもカウンターの向こう側で座った。


「…だいたい予想はついてます。伏見アンディと山寺美咲の情報が欲しいんですよね?」

「さすが。」

「やっぱりあの二人が首謀者か」

「そうですね。どうやらそうみたいです。」


ひなたの声は依然無表情だが、No3は顔を歪めた。


「くそ…。伏見のやつまだ瞳ちゃんを。やっかいだな」

No3が呟くと、ひなたがじっと無表情に見つめてきた。

気付いたNO3は身じろぐ。


「…なに?」


ひなたはまた視線をおとして若干の笑みを湛えた唇をうじうじと動かした。


「いえ別に。別に先輩のこと頭悪いとか思ってるわけじゃないですよ。ただやっかいなのは伏見アンディより山寺美咲なのになと思っただけで」


「山寺美咲が実質権力を握ってる…ってことか?」

「はいまぁ恐らく。伏見アンディも危険人物ですけど、所詮山寺美咲に利用されてるだけですから。価値が無くなったら捨てられるでしょうね。」

「まて。確かに山寺のヤバイ話は色々しってるが、そこまで危険なのか?女一人だぞ?それに伏見を利用って…じゃぁ山寺の目的はなんだ?」

かずゆきがまゆを歪める。


*


「彼女にはたくさん駒がありますから。それに土屋先輩を手に入れるためならなんでもすると思いますし。」

3人は目を見開いた。

「山寺美咲の狙いは…総長?」

「はい恐らく。そのために伏見アンディと手を組んだと考えるのが妥当でしょうね。黒井瞳が目的の。彼女の土屋先輩への執着は異常ですよ」


3人は沈黙した。


今まで楓神を潰そうと目論んだ輩はたくさんいた。

しかし天下に名を轟かす総長の座を手に入れるために多くの危険人物を手玉に取り決起する女など初めてだ。


とても信じられない。


「やっぱあんたすごいな。俺でもどうしたって手に入らなかった情報を…」

かずゆきが感心したようにため息をつく。

「まぁこれでも一応情報屋ですから。」

「で、今の動きは掴めてるのか?」

「はいまぁ一応」

ひなたは爪を弄りながら話し始めた。


「今分かってるだけで山寺美咲の手下は3人います。どれも闇に手を染める者ばかり。まず河合一輝。こいつは山寺美咲のためならなんでもやります。薬、殺人未遂などで捕まったこと数知れず。どうやら昨日も楓神の倉庫近くをうろうろしていたらしいですね。」


「「「!!!」」」


土屋達は声も出せなかった。


瞳のこともあり、用心はしていたが、まさかここまで近くに敵の手が迫っていたとは思わなかった。


まして昨日は瞳が一人で飛び出してしまった。

何もなかったことを神様に感謝するしかない。


*


「あれ?気づかなかったんですか?

まぁ天下の風神ですから、倉庫に一人でくるようなやつはいないとたかをくくってしまうときもありますよね」

ひなたはここまでの会話で少しも声の調子をかえない。

「別に嫌みを言ってるわけじゃないです。そう聞こえるんでしょうけど」

「…あんたホント…どこからそんな情報仕入れてんだ?

パン屋とバーだけでここまでは無理だろ」

かずゆきはもう若干唖然だ。


「それは企業秘密です」


ひなたは妖艶に笑った。

No3が身震いをする。




情報をいくつか聞き、自分たちの持つ情報も教えているうちにすでにここに来てから2時間近くたっていた。


「それじゃぁまた。ホント助かったよ」

3人は席をたつ。

「いえいつものことですから。こちらも色々情報もらえましたし。先輩方が喜んでくれたなら、それでいいです。」

「…ホントにそれ思ってる?」

「何いってるんですか。思ってますよ土屋先輩。当たり前じゃないですか」

笑顔でやけに明るい調子でそう言うひなたはどうも胡散臭かった。

「じゃぁな。お前も気をつけろよ」

「はい。…あの」

進みかけた土屋は振り返る。

「?」

「…いぇ。よかったら、また飲みに来てください。あの子達も喜びますから。瞳さんもご一緒に。」


土屋はふっと笑う。


「あぁ」

「それじゃ」

「洋子によろしく♥」


No3がウィンクして出ていった。


それまでほぼ表情に変化の起きなかったひなたの顔が、初めてしょっぱそうに歪んだ。


*


店を出て路地を歩く。

「ひなたは相変わらずだな」

笑いながら呟いたかずゆきに、No3は涙目で抗議する。

「やっぱ怖いよ!俺苦手!」

「NO3はひなたのお気に入りだからな」

土屋も珍しく笑った。

「どこが!?俺めっちゃいじめられてるけど!」

「だからだろ。いじめがいがあるやつだから、お前いじるの好きなんだよ」

「ツンデレ!?」

「ぃや、どちらかというと都合のいいおもちゃ」

「やっぱやだ!!」


一通り終わると、また話は山寺美咲に戻る。

「ひなたのおかげで色々助かったな。やっぱあいつはいい女だ」

「でもひなたは、河合達を使って何しようとしてんだ?俺らの倉庫あたりをうろちょろしたところで、攻めてきたらこっちが勝つのは目に見えてるじゃん」

「だから攻めてこないんだろ。おれらを見張ってることは分かったんだ。とりあえずその頭を締めて企みを吐かせるしかないでしょ」

「かーくんこわーい」

「恐らく狙いは黒井瞳。俺らに適わねえと分かってるなら、弱みに焦点を絞るはずだ」

「ひとみちゃん今日家だよね。たぶん大丈夫だと思うけど…」

「一応倉庫に連絡いれろ。やつら周りにいるかもしれねぇ。俺らは瞳んちに寄ってから…」

言い掛けたところで、土屋のケータイが鳴った。

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