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第四十六話 謎のJungle

バイクで倉庫の前に着くとあきらかに異質な物が視界に飛び込んできた


真っ黒なポルシェが倉庫に横付けされているのだ

黒ずくめの男の人達が車の周り、倉庫の入り口にうじゃうじゃしてて…

怪しい…


「ああー、来たのか、あの人…」

「久しぶりじゃね?」

「あいつって誰?」

「ああ、そっか…瞳ちゃんはあったことないんだっけ?」

「すげー胡散臭い奴だよ」



土屋君が倉庫の扉を開けると

不良たちがずらりと列をなして並んでいた


「総長!あの方がいらっしゃいましたよ!」

「ああ、知ってる」


奥へ進んでいくと

いつもは現総長が座っている真っ黒なソファーに

ふんぞりがえっている人がいた

真っ黒なサングラスをかけて、全身真っ黒なスーツに身を包んでいる


…怪しい…怪しすぎる!


「ジョンさん!来るなら来るっていってくださいよ~」

No3がジョンさんのもとに、わっとかけよる


「おう。かずゆきも元気か?」

「そこそこ」

「はは。あいっかわらずだなぁー」


ジョン…さん?

ジョンと呼ばれた男があたしに顔を向けた。


「君、初めて見る顔だね?名前は?」

「あ、黒井瞳です…」

「ああー君が瞳ちゃん!No3から話は聞いてたんだよ」

「そうなんですか?」

「はいこれ名刺」


渡された名刺には

株式会社 謎のJungle

代表取締役 野村純

と記されていた


謎のJungleという文字を見て、ますます怪しさが増した

こんな会社見たことないし、もしかして宗教とか…?


ジョンさんはサングラスをはずしてにっこり笑った


「そして元、風神総長が俺ってわけ♪」

サングラスの下から随分と綺麗な顔立ちが現れた

舞台俳優のように整った造形に、しばらくみとれてしまったほどだ

しかし大きな目はどこか可愛らしいと思えた

深い茶髪で長い髪は、少しパーマがかっている


「証拠もあるよ、ほらっ」


スーツの襟元から取り出されたのは一枚の写真

おそるおそる写真を見ると


銃を構えたジョンさんがカウボーイ姿で

テンガロンハットをかぶって馬にまたがっていた


「あの、これ…」

「おっと★間違えた、これはプライベート写真だった」


いったいどんなプライベートなんだろうか…

代わりの写真が差し出される


その写真は

七代目 総長 と書かれた特攻服に

現総長が使っていた日本刀を持っている

間違いなく、総長だったらしい

No3は写真をのぞきみながら、そういえば、と割り込んできた


「ぬーさんは元気にやってますか?」

「んー知らねえんだよなあ俺あいつと友達じゃないし昔パートナーだっただけで」

ぬー…さん?

「あ、ちなみにぬーは、元副総長の沼口さんのことね。今は警察官やってるらしいけど」

「警察官!?」

暴走族から警察官なるって

すごい職業転換…


「あの人、もとから正義感が強い人でしたからねー」

「ああ、でもすっげえナイーブな人でしたけどね」

「正義感が強くて…暴走族の副総長?」


いぶかしい顔をすると、No3がきょとんとした。


「あ、そっか…瞳ちゃんにはまだ言ってなかったね」

「楓神はただの暴走族じゃねぇ。最近は仁義もけじめもねぇ族がふえてるからね。俺らの主な仕事は腐った暴走族を潰すこと。この裏社会の秩序を守ることだ。」

「今の警察なんてあてになんないっすからね」

「最近じゃ、一般市民を巻き込む下衆野郎がうようよしてるからな」

「つまり俺達は、善人ってわけ♪」


ジョンさんは綺麗な笑顔をでにっこり笑う


「そう、なんですか…」

確かに胡散臭いかも、と思った


*

「あの、ジョンさん」

「ん?何?」

「…いえ…何でも、ないです」


言って一目散に駆け出した


『…ああ、…お前は…出来る限り……しておけ、ジョン…』

あのときガイさんと喋ってた人なのか

そして

…桜さんは誰なのか


なんとなく

聞いてはいけないような

そんな気がしたんだ


「…で?何しにきたんだよ。ジョンさん」

走っていく瞳を見て現総長が言う。

「なにって…そりゃかわいい後輩達の様子をみに♪」

「気色悪ぃあんたそんなことのために来るほど暇じゃねぇだろ」

壁にもたれかかっていたかずゆきも顔を歪めた。

それまでうさんくさい笑顔を振りまいていたジョンがすっと綺麗な顔になった。

No3も察して静かになる。

ジョンは胸ポケットからタバコをだして吸い始めた。

「最近裏で変な動きがあってな。」

「変な動き?」

「まだ情報が曖昧すぎて断定はできないが、族に入ってねぇ、特に腐った不良どもが集まり始めてる。」


「「!??」」


三人は顔色を変えた。

「どういうことだ?」

「あんたらが動くってことは、けっこうやばいんじゃないの?」

「分からねぇ。ただこの辺りが中心地っぽいからな。一応報告だ。」


三人はしばし沈黙する。


「…分かった。こっちでも調べとく。」

「あぁ。頼む」


重い空気を破るようにジョンのケータイがなった。

「もしもし?え?今楓神の倉庫っす。なんすか?え~!?いやっすよ。あんた酔うとめんどくさいんだもん。それにあの…旗旗でしたっけ?あそこ乾杯とかめんどくさいし。はい。じゃぁ。」

電話を切る。

いつもの調子に戻ったジョンにNo3が尋ねた。

「上の人っすか?」

「うん。うちのトップ。」

「いいんすか?飲み誘われたんじゃ?」

「いいのいいのめんどくさいし」



目が覚めると、まだあたりは真っ暗だった。

酒とタバコの匂いが充満している。

重い体を起こした。


周りを見ると、酒の缶やビン、つまみが散らばっていて、その中にNo3も大の字で倒れていた。

さきいかが頭にくっついていて、鼻は洗濯バサミに挟まれていた。


昨日ジョンさんの奢りでチーム全員で飲みに行ったあと、No3とかずゆきと3人でジョンさんの家に泊まったことを思い出す。


「おはよ総長」

突然の声に珍しく肩が跳ねた。

かずゆきが起きていた。


パソコンの画面の光で青白く顔が照らされている。

「…あの人は?」

「仕事だってさ。さっきでてった」

時計を見るとまだ3時だ。

「お前ずっと起きてたの?」

「ずっとでもないけど。No3のいびきうるさいし。俺酒あんま好きじゃないしね」

かずゆきは手を動かしたまま答えた。

隣に移動して画面を覗き込む。

「ジョンさんが言ってたやつか?」

「うん。ちょっと調べてみようかと思って」

「どうだ?」

「難しいね。あの人が言う通り、まだ大きな動きがない分情報も曖昧だ。」

「そうか…」

「ただ少し気になることがあって…」

「なんだ?」


かずゆきはキーボード上の手をとめた。

「女がいる」

「は?そりゃ女くらいいるだろ」

「いやいるだけじゃない。どうもその女が主犯核だ」


かずゆきは鋭い視線を総長によこした。総長は信じられないといった顔をしている。


「うそだろ?」

「まぁまだ正確な情報じゃないけど、多分間違いないよ」


女が男たちを従えているというのか?


しかも窃盗、恐喝、強姦、薬、そういうものに手を染めた不良の最下層どものはず。


…そんな馬鹿な


*


「…それともう一つ」

総長が考えを巡らせていると、かずゆきの低い声がした。

「なんだ?」

「…いや。なんでもない。これこそ俺の憶測にすぎない」

かずゆきは疲れたように目頭を押さえた。


相変わらず隈がひどい。


「なんだよ言えよ」

総長が促すと、少し考えてからかずゆきはキーボードを叩きながら話し始めた。


「俺が考えてる主犯核は、女の他にもう一人いるんだ。そこで手をとめ、総長に画面を向け、ある単語を指差した。


…ありえない。


心臓が速打ちし始める。

思わず口を覆った。

「…まさか…そんな馬鹿な…」

息を飲む二人とは対象的にNo3は洗濯バサミごしにいびきをかきつづけた。


*


今日は諒君が迎えに来てくれて学校へ行った。

やはり楓神のみんなが溜まってて、No3があいさつしてきた。

「おはよー今日ごめんね。迎えに行けなくて。ジョンさんちで飲んでたからさ。まだ酒抜けてないんだ」


No3は申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。

「全然!いつもありがとう。ていうか、もうJOKERもなくなったんだし、ここまでしてくれなくてもいいよ」

「ダメ!瞳ちゃんめっちゃ可愛いんだから!危ないよ!この町は不良がホント多いんだから!」

いやあたし可愛いくなんてないし…

「それに…」

「おい!」

No3が何か言い掛けた時に、珍しく総長が大声を出した。

「あ…うん」

No3はしまったという顔をして総長の方へかけていった。

…なんだろ?


「総長おはよ」


No3との話が終わったようなので総長にも挨拶をする。


「…ん。」

「?」


いつものように短い返事をしたあと、総長はあたしを見つめてきた。


…相変わらず綺麗な顔…。


うわ!意識すると恥ずかしい…!

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