第四十二話 宴を始めようか
たどり着いたのはやっぱり
瞳と出会ったベンチだった
「土屋、土屋土屋土屋ああ…」
【ドヤ、ドヤドヤドヤああ…なんちゃってな】
浮かぶのはあの憎たらしい顔ばかり
あいつさえ
あいつさえ居なければ…!!
「つちやころすつちやころすころすころすころすころすころす」
「あなたが…伏見くん?」
突然自分以外の声が聞こえた
驚いて振り向く
そこには、一人の少女が立っていた
*
気配がまったく感じられなかった
一体どこからでてきたのか
どうして、自分の名前を知っている?
「あの土屋君を殺そうとするなんて、大した度胸だわ」
「…見てたのか?」
ええ、ずーっとねと言って彼女はくすくすと笑う
肩ほどある漆黒の髪
大きくて吸い込まれそうな瞳
【この人同じクラスの佐紀ちゃんに似てる…気のせい、だよね】
口元は妖艶な笑みをたたえている
風神の奴らと同じ制服を着ているが、同じ学校なのだろうか
しかし、妙だ
笑みを浮かべてはいるが
まるで人間としての生きた感情を感じられない
目に生気がないのだ
自分を闇の世界で生きる怪物と例えるなら
こいつは、まさに、人形
感情のない、生きた人形…
「ねえ…あたしと手を組まない?」
「……誰だよ、あんた」
「あたしは美咲、あなた、伏見アンディくんよね?」
「…何をたくらんでる?」
殺意を込めて彼女をにらみつけると
彼女は心外だと言わんばかりに鼻で笑った
「別に、企んでなんてないわ」
「あたしは風神総長の全てを手に入れたいだけ」
「あたしはあたしの欲しいもののために…あなたはあなたの欲しいもののために手を組むの」
「なるほど、ね」
彼女の胸糞悪い笑顔を見ていると
なんだか楽しくなってきて
こちらまで笑いがこみ上げてくる
「でもさあ、俺なんかと手を組んじゃっていいの?あんたの大好きな土屋を…殺しちゃうかもよ?」
そのまま
ポケットに入ったままの短刀で殺すつもりだった
しかしそれよりも随分素早いスピードで
彼女の手首から仕込みナイフが飛び出してきた
何の戸惑いもなく、ナイフが顔の横を横切る
痛みを感じた瞬間、切り傷から血がどろりと溢れ出した
彼女の顔が近づいてきてあごをくいっと持ち上げられる
そして、血があふれ出した箇所をペロリと舐めとられる
「大丈夫よ。そうなる前に、…あたしがあなたを殺すから」
その猟奇的な顔は
満月に映えて
ぞっとするくらい
綺麗だった
「くくっ…」
そうか
こいつは、土屋を愛しすぎたんだ
愛に溺れ、恋に狂い
人間として欠落してしまった
…自分と、同じく
「…君とは気があいそうだ」
「分かってもらえたようで嬉しいわ」
欠落した少女と怪物は顔を見あわせ
やがて笑い出した
さあ、宴を始めようか
今まではほんの前夜祭に過ぎない
これからが本当の
…狩りの時間だ
気が狂ったように笑い続ける二人を
真っ赤な満月だけが
見ていた
こうしてまた一つ、歯車が回りだす
ときに歪んだ音を立てて
様々に交錯する思考が
行き着く先は
一体
どこなのだろうか
第一部完




